ミラノ・デザインウィークのアルカンターラで見た「Made in Italy」の本質

起源は日本

今や自動車のインパネやシートだけでなく、ハイエンドなインテリア、最先端のガジェット、そして現代アートの舞台にいたるまで、日常生活のあらゆるシーンで見掛けるようになった特別な素材、アルカンターラ。

【画像】イタリアの職人技と先進的なテクノロジーが融合したアルカンターラが織りなす世界をイタリアで取材(写真16点)

2026年4月末、ミラノ・デザインウィークが開催され、世界中からクリエイターやバイヤーが押し寄せる熱気あふれる季節に、私はイタリアへと向かった。「Made in Italy」を代表する世界的トップブランドとして確固たる地位を築いているアルカンターラがもつ価値を眺めるためである。ここで、取材の具体的な足跡を辿る前に、まずはアルカンターラという存在についてあらためておさらいをしておきたい。

いまやサプライヤーではなく、世界有数の高級ライフスタイルブランドの「クリエイティブパートナー」として機能している同社だが、その起源は日本にある。1970年代初頭に日本の研究者であった岡本美芳氏が特許を取得して誕生したものだが、オーダーメイドによる無限のカスタマイズ性を誇り、個々のプロジェクトの複雑なニーズやデザイン要件に柔軟に適応し、あらゆる用途を特別な体験へと昇華させる力を持っている。そう、イタリアの地で開花したこの驚異的な素材は、今やコンテンポラリーデザインの象徴的な言語となっているのだ。同社はミラノの本社と、イタリア中部ウンブリア州の丘陵地帯、テルニ県ネラ・モントロに構える広大な生産拠点の2つを軸にグローバルな事業を展開している。58万6000平方メートルを超える面積を誇るネラ・モントロの工場には、素材分野ではヨーロッパにおいて特に先進的な研究開発センターが併設されており、日々新しい技術のブレークスルーを生み出している。

ここで重要なことは、「アルカンターラ」という言葉が、「素材」、「企業」、そして「ブランド」という3つの側面を同時に指している点だ。

素材としてのアルカンターラは触れた瞬間に伝わる高貴で柔らかな手触りと、洗練された美しさを備えている。極めて軽量でありながら、高い強度、耐久性、耐候性、耐熱性、そして通気性を兼ね備えており、「冬は暖かく、夏は涼しい」という快適な機能性を併せ持つ。この相反する特性の完璧な融合こそが、従来の天然皮革や人工素材の限界を克服した最大の強みである。

また企業としてのアルカンターラもユニークだ。世界で唯一無二のオリジナル素材を1メートルたりとも無駄にすることなく製造・販売することをモットーとしており、持続可能性への具体的な取り組みにおいて先駆的な役割を果たしている。2009年にはイタリアの工業企業として国際的な認証機関であるTÜV SÜDからカーボンニュートラル認証を取得。現在も最新規格であるISO 14068-1への適合性検証証明書を取得するなど、測定可能で透明性の高い責任あるアプローチを毎年発行のサステナビリティレポートで証明し続けている。

そしてブランド。メイド・イン・イタリーのブランドであるということは、イタリアの職人技を用いて、技術的に高度な製品を作ることを意味する。品質へのこだわり、情熱、創造性、そして持続可能性への真摯な取り組みによってアルカンターラが世界的に認められている。

ミラノ到着翌日、アルカンターラ本社でのビジネスミーティングが行われた。驚いたのはエントランスの壁である。どう見てもコンクリート打ちっ放しだが、触れると温もりを感じるアルカンターラであった。

まず心温まるあいさつで迎えてくれたのは2023年から同社CEOに就任し、2024年からは会長も兼務しているエウジェニオ・ロッリ氏である。ロッリ氏は同社で10年以上の経験を積んだベテランだ。気さくで親しみやすい雰囲気をまといながらも、ペルージャ大学やボッコーニ大学経営大学院で磨かれたビジネスセンスを感じさせる素晴らしいリーダーという印象。彼はアルカンターラを単なる技術的素材メーカーにとどめず、高級ラグジュアリーの世界を牽引するグローバルブランドへと完全に昇華させるという明確なビジョンを語ってくれた。

そして新たにアルカンターラのデザインアンバサダーに就任したデザイナーのクリス・レフテリ氏が話し始める。クリス氏は、自身の「素材重視のデザイン哲学」とアルカンターラの卓越した技術を融合させ、世界中のデザイナーにインスピレーションを与える新たな物語を紡ぐと宣言。素材は単なる受動的な表面ではなく、想像力や感情を呼び起こすアクティブな媒体であるべきだという熱い想いを語った。現在、自動車、ファッション、インテリア、電化製品などあらゆる領域をカバーしているアルカンターラの現状を見据え、レフテリ氏が「これだけ多くの分野で使われているのだから、あと残すは宇宙領域かな」と茶目っ気たっぷりに口にしていたのが非常に印象深く、この素材の持つ無限のポテンシャルを象徴する言葉として胸に残った。

終了後はミラノの名門レストラン「A Santa Lucia」へと場所を移し、国際プレスおよびアルカンターラチームとの夕食会が催された。イタリアの伝統的な料理を囲みながら夜遅くまで活発な意見交換が行われた。

翌日はミラノ・デザインウィークのメインエリアのひとつであるヴィア・トルトーナ31の「Archiproducts Milano」の訪問からスタートした。ここでは、ミラノを拠点とする著名な建築・デザインスタジオ「Studiopepe」のキュレーションによる新しいインテリアデザインプロジェクト「FÒCO. Living notes」が発表されており、アルカンターラはこの戦略的ショーケースにプロダクトプレイスメントの形で全面的に参加していた。

「FÒCO(炎)」という原始的かつ象徴的な要素からインスピレーションを得たこのインスタレーションは、コントラストと緊張感、そして調和が巧みに表現されていた。アルカンターラは温かみがあり、深みのある艶やかな色合い(ブルニーティ)を纏い、カーテン、アームチェア、プーフ、クッション、さらには壁面のパネル(ボワズリー)にいたるまで、あらゆるインテリア要素として姿を変えていた。

通常の単色仕様のアルカンターラが美しいのは言うまでもないが、ここではエンボス加工やラミネート加工を組み合わせることで、驚くほどモダンでややメタリックな効果が引き出されていた。さらに展示の最終室では、3D熱成形技術を用いて立体的な凹凸を作った装飾壁(ブニャート)にアルカンターラが使用されており、室内に差し込む光と影の戯れを劇的に増幅させていた。空間、素材、そして人間の関係性を五感すべてで探求する主役として、アルカンターラが圧倒的な存在感を放っているのを確認できた。

デザイン最前線のカーデザインアワード

夕方に現代デザインの発信地である「ADIデザインミュージアム」へと移動した。ここではキングストン・スクール・オブ・アートやヨーロッパ・デザイン学院(IED)といった名門校の若き才能を結集させたプロジェクト「アトリエ・アルカンターラ」の展示が行われていた。学生たちが柔軟な感性でアルカンターラを解釈し、質感や形状、用途を実験的に広げたダイナミックなコンセプトモデルは、アルカンターラ社のデザインオフィスによるバックアップもあり、極めて完成度の高いインスタレーションとなっていた。

同時に、自動車業界のデザインセンターにおける卓越性を称える国際的な賞「カーデザインアワード2026」(Auto & Design主催)の授賞式も開催された。授賞式のオープニングを飾ったのは、クリス・レフテリ氏も登壇したトークセッション「サステナブル・インテリジェンス — AI時代のデザイン」である。現代デザインにおいて素材研究とデザインビジョンがどのように結びつくべきか、自動車デザインの未来像を交えた真摯な議論が交わされ、聴衆を魅了した。プレゼンターとしてロッリ代表も登壇し、晴れやかな授賞式となった。

この日の締めくくりとしてレストラン「Al Vecchio Porco」にて再び国際プレスやアルカンターラチームとの夕食会が行われ、今度は自動車とデザインの未来について語り合う夜となった。

ミラノを離れベネチアへ

取材最終日は早朝にミラノを発ちリムジンに揺られて水の都ベネチアへと向かった。目指すは、カステッロ地区の旧サン・ロレンツォ教会を改修したユニークな展示空間「オーシャン・スペース」である。

ここで開催されているのは国際的なアーティスト集団「リパトリエイツ・コレクティブ」による展覧会「TIDE OF RETURNS(帰還の潮)」である。アルカンターラは2011年以来、世界中の美術館やクリエイターとのコラボレーションを継続しているが、今回はボリビア系ドイツ人のアーティスト・研究者であるヴェレナ・メルガレホ・ヴァイナントによるサイトスペシフィック・インスタレーション「ウィービング・コネクションズ(織りなされる関係性)」の制作を支援している。本展は先住民の宇宙観と水の持つ創造・変容の力に焦点を当てた、極めてメッセージ性の強い内容である。

展示空間には、アルカンターラで編まれた巨大な黒い三つ編みが波打つように設置されており、その深く濃い色合いは流れる川や海の水を想起させると同時に、様々な先住民コミュニティとの断ち切れない絆を象徴していた。さらに、ベネチアの水とのつながりに着想を得たパフォーマンス映像も上映されており、そこではパフォーマーたちが淡い緑と青のアルカンターラで作られた美しい衣装を身にまとっていた。2009年よりカーボンニュートラルに取り組み、その活動が第三者機関により認証されているアルカンターラだからこそ、このサステナブルなアートの試みを支えることができたのだろう。

ミラノ全体がアートに

翌日はほかの国際プレスとは離れて、ひとりでミラノ郊外のロー・フィエラ会場で開催されている「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」の見学へと赴いた。今年のミラノサローネは環境や戦闘など厳しい課題に直面しながらも、それを物ともしない圧倒的な活気に満ちていた。最終的に167カ国から32万近い来場者数を記録。広大な会場を歩き回りながら感じたのは、前日までに見てきたアルカンターラの姿との地続きのつながりである。

自動車のコクピットで極限のパフォーマンスを支え、トップデザイナーのオフィスでアヴァンギャルドな家具に変貌し、ベネチアの厳かな教会で聖なる三つ編みとしてアートの一部になる。そして、このサローネの会場に並ぶ最先端のインテリアのなかにも、アルカンターラは至極当然のように、しかし圧倒的な質感を伴って組み込まれていた。

大げさな自己主張をせずとも、触れればすぐにそれと分かる素材感。あらゆる領域で「Made in Italy」の真のアンバサダーとして機能しているアルカンターラの凄みは、クリス・レフテリ氏の言う通り、地球上のあらゆるライフスタイルシーンを、文字通りすでに制覇しつつある点にある。

イタリアの職人技と弛まぬ研究開発がもたらす高度なテクノロジー。このふたつがバランスよく融合しているからこそ、アルカンターラは単なる「素材」の枠を超えて、世界のトップクリエイターたちのイマジネーションを刺激し続けるのだろう。

文:堀江史朗(オクタン日本版) 写真:堀江史朗、アルカンターラ

Words: Shiro HORIE (Octane Japan) Photography: Shiro HORIE, Alcantara

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