2026年6月2日~5日にかけて開催されるCOMPUTEX 2026。主催者が公表した5大産業トレンドのひとつが、「Physical AIとロボットの知能化の加速」だ。このトレンドに呼応する形で、今年のロボット展示エリアでは構造的な調整が行われた。「ロボティクス&スマートモビリティ」はAIコンピューティングのサブテーマではなく、初めて独立したテーマのひとつとして位置づけられ、台北世界貿易センターの展示ホール1号館を主要展示エリアとして使用。関連企業も180社以上が集結した。

今年のロボット展示エリアは展示ホール1号館に独立展開。センサー、モーター、減速機からシステムインテグレーションまで、完全な産業チェーンが一堂に集まった。
今年のロボット展示エリアは展示ホール1号館に独立展開。センサー、モーター、減速機からシステムインテグレーションまで、完全な産業チェーンが一堂に集まった。

AIロボットエリアにおける議論の中心は、昨年まで主流だった「ロボットアームによる反復動作」から、自律学習・環境認識・リアルタイム意思決定を可能にする「Embodied AI」へと明確にシフトした。このキーワードの転換は、産業全体がロボットの定義を根本的にアップグレードしていることを映し出している。

会場の展示を踏まえると、今回のCOMPUTEXにおけるロボットの語り口は、以下の3つの軸に分解できる。

NVIDIA、Physical AIの技術基盤をフルスタックで台北に集約
Qualcommが別の角度から切り込む、ロボット向けリファレンスデザイン
台湾サプライチェーンの次の段階:AIサーバー組み立てからAIロボット組み立てへ

NVIDIA、Physical AIの技術基盤をフルスタックで台北に集約
NVIDIA Jetson Thor。今大会のCOMPUTEX 2026 Best Choice Awards金賞を受賞した。
NVIDIA Jetson Thor。今大会のCOMPUTEX 2026 Best Choice Awards金賞を受賞した。

NVIDIAは今回のCOMPUTEXで、Physical AIプラットフォームの全貌を展示した。ハードウェア層の核心はJetson Thor。Blackwellアーキテクチャに基づき、最大2070 FP4 TFLOPSのAI演算性能と128GBメモリを持つヒューマノイドロボット専用SoCで、今大会のCOMPUTEX 2026 Best Choice Awards金賞を受賞した。モデル層はIsaac GR00Tシリーズ。。フルボディ制御に対応したN1.6、商用ライセンスが解禁済みのN1.7、そしてGTCでプレビューされたN2まで、ヒューマノイドロボット専用に設計されたvision-language-action(VLA)モデルの系譜をなす。

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シミュレーション・トレーニング側のツール群はさらに充実している。Cosmosワールドモデルプラットフォーム、Isaac Sim 5.0シミュレーションフレームワーク、Isaac Lab 3.0オープンソース学習フレームワーク、新物理エンジンNewton、そしてGR00T-Mimic/GR00T-Dreamsといった合成データ生成ツール群。なかでもGR00T-Dreamsの具体的な成果がもっとも説得力を持つ。NVIDIAはこのツールを使い、本来なら3カ月かかる人手でのデータ収集を36時間で代替するトレーニングデータセットを生成してみせた。

日本の産業用ロボット大手であるファナックと安川電機もNVIDIAの協力パートナーとして名を連ね、台湾の鴻海(Foxconn)とFoxlink(正崴)はGR00T-Mimicを活用して合成動作生成の開発プロセスを加速させている。Physical AIにおけるNVIDIAの立ち位置は、データセンターAIと同様、「フルスタックを提供するから、その上に自分のロボットを作れ」というプラットフォーム供給者の論理だ。

Qualcommが別の角度から切り込む、ロボット向けリファレンスデザイン

NVIDIA以外で注目すべき動きは、Qualcommだ。今回、QualcommはDragonwing IQ10 Robotics Reference Design(RRD)を発表した。単体のSoCではなく、カメラ、I/O、通信、ソフトウェアスタックまであらかじめ統合した、ボックス型のロボット開発用リファレンスデザインだ。

Dragonwing IQ10 RRD。Qualcommはスマートフォンと車載SoCで培ってきた「OEMに完全なReference Designを提供する」手法をロボット領域に持ち込んだ。
Dragonwing IQ10 RRD。Qualcommはスマートフォンと車載SoCで培ってきた「OEMに完全なリファレンスデザインを提供する」手法をロボット領域に持ち込んだ。

スペックとしては、700TOPSのエッジAI演算性能、18コアのQualcomm Oryon CPU、64GB LPDDR5xメモリ、最大12チャンネルのGMSLカメラ入力、EtherCAT・CAN-FD・Wi-Fi 7・オプションの5Gなど、ロボットが必要とする確定性の高いI/Oを揃える。ソフトウェアスタックはUbuntu Linuxをベースに、AIランタイム・エッジLLM推論機能・MLOpsツールを統合する。

Qualcommはスマートフォンと車載SoCで確立してきた「リファレンスデザインをOEMに提供する」モデルを、そのままロボット産業に移植した形だ。「Foundation Models+大脳+シミュレーション環境をセットで売る」というNVIDIAのフルスタック路線と比べると、Qualcommの姿勢は「完成機の骨格を整えた、あとは自分のロボットを乗せろ」というものだ。ロボットメーカーにとって選べる演算プラットフォームがNVIDIA一択から複線化したことは、産業全体にとって歓迎すべき動きだ。

台湾サプライチェーンの次の段階:AIサーバー組み立てからAIロボット組み立てへ

NVIDIAとQualcommが大脳と骨格を売る側だとすれば、COMPUTEXにおける今回のロボット展示エリアにおけるもうひとつの重要な物語は、台湾のODM各社が過去3年間のAIサーバー受託製造で蓄積した能力を、AIロボット完成機の受託製造へと展開し始めている、という転換だ。

上銀科技(HIWIN)の関節アクチュエーター展示。台湾の精密伝動部品メーカーは、グローバルなヒューマノイドロボットサプライチェーンにおける重要なノードとなっている。
上銀科技(HIWIN)の関節アクチュエーター展示。台湾の精密伝動部品メーカーは、グローバルなヒューマノイドロボットサプライチェーンにおける重要なノードとなっている。

その最たる例が上銀科技(HIWIN)だ。ロボット用キー部品の分野で15年以上の実績を持つこの精密伝動メーカーは、2025年にモルガン・スタンレーの「ヒューマノイドロボット100社」リストに選出され、その関節アクチュエーターとロボットサブシステムは欧米の複数のロボットメーカーに採用されている。今回の展示では、コア部品を通じてグローバルなヒューマノイドロボットのサプライチェーンにどう参与するかを示し、もはや単なる部品供給者の立場を超えていることを印象づけた。

ヒューマノイドロボットは今回もっとも視覚的インパクトの強い展示だった。かつてヒューマノイドロボットは主に研究室かSF映画にしか登場しなかったが、2026年には「発注できて、現場に導入できる」姿勢で各社の展示が並んだ。

台湾のAIビジョン企業として今回のロボット展示エリアでもっとも注目を集めたのが、Solomon(所羅門)だ。COMPUTEX開幕前夜、Solomonは新世代Agentic AIビジョンシステムを発表し、二足歩行型ヒューマノイドにAgentic AIアーキテクチャを組み合わせた応用を初公開した。ロボットは3〜5メートル先から指定物体と文字を認識し、自律的に経路を計画し、立ち位置を調整しながら把持(物体をつかむ)タスクを完了してみせた。

もうひとつ注目すべきは、台湾企業の聡泰科技開発(YUAN)だ。「3Dステレオセキュリティ」、「ロボット開発」、「医療」の3テーマで出展し、映像取得とAI演算能力の融合をコアに据える。同社のスマートセキュリティソリューションは3Dモデリング・デジタルツイン・AI分析を組み合わせ、空中監視と地上監視を統合した3D立体セキュリティアーキテクチャを提案。最大2000 TOPSの演算性能をドローン・無人巡回車・エッジNVRに直接展開することで、機体自体がリアルタイム映像解析能力を持ち、クラウドへの通信依存を大幅に低減する。

しかし、ロボットが実際に日常生活に溶け込むまでの成熟度は、どこまで来ているのか。会場の観察から言えば、工業・物流分野におけるヒューマノイドロボットの実際の導入事例はすでにあるものの、サービス型・家庭用ロボットはまだ試行段階にある。驚異的なデモが多い一方で、実際の出荷スケジュールが不明のものも少なくない。
ヒューマノイドロボットのデモは会場にあふれているが、手の届く価格で家庭に入ってくるものはまだ少ない――これが今回のロボット展示エリアについての、もっとも率直な観察だろう。

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