出版社別に売れ筋を並べる入り口そばの書棚に面陳列で展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

出版社別に売れ筋を並べる入り口そばの書棚に面陳列で展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)

本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。

今回は、定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。5月のビジネス書の売れゆきはいくぶん低調だった。ここでも売り上げを引っ張るような強い新刊が見当たらないという。そんな中、書店員が注目するのは、アジアやアフリカに軸足を置く戦略コンサルタントによるインド経済の概説書だった。

アジア・アフリカ特化の戦略コンサル

その本は難波昇平・椿進『超スケール経済インド』(東洋経済新報社)。副題には「次世代超大国のビジネス地図」とある。2人の著者はシンガポールに本拠を置くコンサルティング会社、AAICグループの役員を務める。難波氏がパートナー・取締役、椿氏が代表パートナー・最高経営責任者(CEO)だ。アジアやアフリカでの新規事業育成、市場参入支援、M&A(合併・買収)などを、コンサルティングと投資を通じて行っている。

ビジネスの最前線でインドをよく知る2人が、活力あふれるインドの今を、ビジネスを軸に多角的に紹介したのが本書だ。データと体験の両方で手際よく示される本書のイメージは、インドが成長市場だと頭では分かっていても実感がつかめないというビジネスパーソンには、格好の知見を与えてくれるだろう。

全体は10章構成。地理・人口といった基本知識から始まり、前半の5章はビジネスのスケール感、ビジネスチャンスやビジネススタイル、ライフスタイルなど大づかみにインドを理解するアウトラインを提示する。

後半になると、スタートアップの現状、どんな事業が伸びているか、日本企業の進出状況、インフラの現況、進出手法としてのM&Aと、よりビジネスの具体例に沿った解説が展開されていく。

日本の時間軸に当てはめて解説

各章冒頭に「インドのファクトフルネス」と題したクイズ仕立ての「ちょい知識」が掲げてあり、インドへのありがちな誤解を解く仕掛けになっている。「インド版マイナンバーの普及率は95%超」「インドのEコマースは7分で家まで届く」といったあたりは、なるほど「へえ」と思わせるファクトだ。

高度成長から今日に至る日本の時間軸を、インドの発展段階をつかむ目安にする説明の仕方も分かりやすい。例えば大卒初任給は日本の1970年代初頭、1人当たり国内総生産(GDP)は、インド全体だと70年代初頭だが、ベンガルール都市圏だとバブル前夜の84年ごろといった具合だ。その一方でマイナンバーの活用やEコマースなど、日本の先を行く部分にもしっかり言及する。

日本の12倍を超える人口を抱える市場が、40〜50年にわたる成長をこれから追いかける。自社の事業領域なら何ができるのか。インドの何かを自社の成長に取り込むことはできないか。そんなことを考えながら読むと、ミドルリーダーの力を伸ばす思考力が鍛えられそうだ。

「この店では新宿の本店や大阪の梅田本店などの大型店より売れている。ビジネス街での関心が特に高いようだ」と、店長の瓜生春子さんは話す。

1位に白川元日銀総裁の新著

それではランキングを見ていこう。今回はビジネス・経済書の月間ベスト5を紹介する。

(1)通貨に信用を刻印する白川方明著(日本経済新聞出版)(1)THE資産管理専門銀行[第5版]: その実務のすべて日本カストディ銀行編著(金融財政事情研究会)(3)超スケール経済インド難波昇平・椿進著(東洋経済新報社)(4)世界の超富裕層がしている「最初の1億円」の作り方小原正徳著(KADOKAWA)(4)人新世の「黙示録」斎藤幸平著(集英社)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2026年5月1~31日)

同数の1位に2冊。1冊は元日銀総裁の白川方明氏による金融政策への提言書。「通貨に信用を刻印する」には何が必要かを考える。もう1冊は資産管理専門銀行の実務を解説した実務書だ。今回紹介した『超スケール経済インド』は3位だった。4位も同数で2冊が並び、1冊は超富裕層に学ぶ投資術の指南本。もう1冊は『人新世の「資本論」』がベストセラーになった経済思想家が、その続編として書いた一冊だった。

(水柿武志)

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