もっと自然に学ぼう

Image:DLR

ドイツ航空宇宙センター(DLR)は、morphAIRと名付けられたプロジェクトで、飛行中に形状を変化させられる翼構造を開発した。この翼は航空機をより効率的に制御しやすくすることを目的としている。

一般的な航空機の翼とは異なり、この新しい翼は、フラップやヒンジなどの可動部品が見えない。その代わり、一枚の滑らかな表面として動き、周囲の空気の流れに絶えず適応することが可能だ。

航空機は鳥のように翼を備え、それによって発生する揚力で空を飛べる。その点では鳥を模倣していると言えるが、鳥は絶えず翼を気流にあわせて調節することで、空を自由に飛び回っている。

つまり、航空機の翼と鳥の翼は似ているようで、実は大きく違う。航空機の翼もフラップやエルロンといった可動部品によって揚力や向きの調整はできるが、同時に重量や騒音を増加させ、空気抵抗も増大させてしまう。さらに、可動部の機械的構造は定期的なメンテナンスを必要とする。

では、操縦性という点において最適ではないことが明らかであるにもかかわらず、なぜこのような翼が何十年にもわたって標準であり続けているのだろうか。その答えを単純に言えば、エンジニアリング上、妥協せざるを得なかったからだ。

航空機にとって離陸に最適な翼形状が巡航でも最適かといえばそうではない。同様に、巡航に最適な翼形状が着陸でも最適かといえばそうではない。ある速度、高度、あるいは操縦に最適な翼形状は、別の速度、高度、あるいは操縦において最適というわけではないのだ。

航空機はその場面場面において、翼を最適な形状のものに交換することはできない。そのため、現代の航空機の翼は、あらゆるシチュエーションで可能な限り理想的な性能を発揮するように綿密に設計された “妥協の産物” と言うことができる。

しかし、morphAIRプロジェクトはこの現状を覆し、状況に応じて適応(形状変化)可能な翼を開発するという従来とは異なる考えを採用している。妥協するのではなく、適応性を設計に取り入れるというアプローチだ。

「モーフィング・ウィングは飛行中に形状を変化させることができ、様々な条件に最適に適応できる」と、DLR軽量システム研究所のプロジェクトリーダー、マーティン・ラデストック氏は説明する。

翼はすべて繊維強化複合材でできており、後縁部は「形状変化」する構造になっている。この機能は、DLRが開発したHyTEM(Hyperelastic Trailing Edge Morphing)システムによって実現されており、翼が段差なくシームレスに変形することを可能にする。

フラップとエルロンに代わるHyTEM(Hyperelastic Trailing Edge Morphing system)機構は、翼幅全体に配置された複数の小型アクチュエータからなる能動的システムを採用する。これらのアクチュエータは、翼の各セクション間に隙間を生じさせることなく、10か所で翼型を精密に調整することが可能だ。

この連続的な形状変化によって、翼形状による抗力が低減され、さらに揚力や誘導抗力、適格な機体制御などにおいて大きな利点を生み出す。こうして、翼全体での効率を向上させつつ、制御機能の分散で安全性も向上するとラデストック氏は説明している。

そして、DLRのエンジニアらは、変形翼の独自の動きを最大限に活用するために特別に設計された、AI支援型の飛行制御システムを開発した。このAIアルゴリズムは、航空機の実際の挙動を継続的に監視し、訓練済みのモデルと比較して、乱気流、損傷、アクチュエータの故障といった外れ値が発生すると、即座に翼に分散配置された多数のアクチュエータにコマンドを再分配し、安定した飛行を維持することが可能だという。

また、DLRは翼全体に隙間なくセンサーを敷き詰めるのではなく、最低限の測定ポイントから翼全体の空力的圧力分布を再構築する方法を開発し、あらゆる瞬間の翼周辺の気流を常に把握し、局所的な気流の乱れを自動的に検知、それが飛行に影響を及ぼす前に対応することも可能にした。

シミュレーションでは、従来の固定翼システムでは致命的な故障を意図的に発生させて、それを認識して問題なく対応できるようにするための強化学習もアルゴリズムに対して施しているとのことだ。

これは、航空機の翼がこれまでに実現した中で、本物の鳥の適応能力に最も近いものと言えるだろう。morphAIRはまさに、飛行状態を「感じ」、そして「考える」システムというわけだ。

少々大仰な説明になってしまったが、このコンセプトをすでに現実世界に持ち込んでいる。DLRは無人実験機PROTEUSにmorphAIR翼を装着して実際に飛行させ、従来の翼による飛行とデータを比較する実験を行った。

Image:DLR

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実験は順調に完了した。コンセプトの有効性、主に基本的な耐空性とシステム統合が実証でき、安全に運用できることが確認されたとのことだ。DLRは、この試験飛行の成功によって、今後の開発と試験のための重要な基盤が築かれたとしている。

もちろん、これはまだ実験段階の初期段階にある技術であり、すぐ飛行機に採用が始まるわけではない。だが、特に効率性と適応性が極めて重要な無人航空機においては、将来的に大きな可能性を秘めていると言えそうだ。

DLRは次の段階として、年内にも総重量約70kgのPROTEUSを用いた飛行試験キャンペーンを実施する予定としている。そこで得られた知見は、無人航空機翼適応(UAdapt)プロジェクトでさらに開発・発展させていく計画とのことだ。

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