
アルバニアのバウ・イ・デジェスにある水力発電ダム。4月13日撮影。REUTERS/Fatos Bytyci
[ブローラ(アルバニア)/パリ 27日 ロイター] – イラン戦争により世界の石油・ガスの流通が混乱し、エネルギー価格が急騰する中、アルバニアでは北部の山々を流れ下るドリン川が冬の雨や雪解け水で増水し、価格高騰に対する「盾」として機能している。
共産主義時代に建設された水力発電ダムが点在するこの川の水力発電は同国の発電量の90%以上を供給しており、電力卸売価格の抑制に寄与している。
欧州各地の価格比較によれば、2月28日に米国とイスラエルがイランを攻撃して以降、再生可能エネルギーの発電量が多い国ほど、電力価格の急騰を免れて。アルバニアはその一例だ。価格上昇の影響は今後数カ月で一般消費者に波及するとみられるが、こうした国では家計や企業、そして経済成長が恩恵を受けることになりそうだ。
また、欧州のグリーンエネルギー転換が一段と後押しを受ける可能性もある。こうした転換は、緊急性に欠けるとして批判され、 トランプ米大統領らから批判の対象となっている。
石油やガスへの依存度が高い国々は、より急激な価格上昇に直面し、インフレ圧力が高まって世界的な景気後退の可能性も出てきている。2022年のロシアによるウクライナ侵攻が引き金となったエネルギー危機を乗り越えた欧州人にとって、なじみのある懸念事項だ。
エネルギー調査会社ライスタッドのアナリスト、サティヤム・シン氏は、「この危機は地域全体の価格下限を引き上げているが、柔軟性が最も低く、輸入燃料への依存度が最も高い国々ほど、価格変動やピーク時の価格高騰による影響を強く受けている」と指摘した。
<欧州の電力価格格差>
アルバニアの対岸、アドリア海を隔てたイタリアは電力の40%以上をガスに依存しており、戦争開始以来、基準となる卸売契約価格が20%以上上昇した。ガス需要の高いドイツでも、基準価格は15%以上上昇している。
対照的に、発電量の70%を原子力に依存するフランスの基準価格は、同期間にイタリアの半分未満の上昇にとどまった。総発電量の60%近くまで再生可能エネルギーの割合を急速に拡大させたスペインでは、価格が下落した。アルバニアも、豊富な水力発電容量のおかげで、3月の平均価格は前年比で低下した。
イタリア、ドイツ、ギリシャといったガス依存国はいずれもある程度の太陽光発電を行っているが、太陽光発電への過度な依存は「ダックカーブ」と呼ばれる現象を引き起こす。日中は価格が低いが、早朝と夕方遅くに価格が急騰する現象だ。
「イタリアやドイツのような国の大半にとっての目標は、天然ガスを相殺する(再生可能エネルギーと長期蓄電を組み合わせた)巨大なシステムを構築することだ。これは大きな課題となる」と、コモディティデータ・分析会社ケプラーの電力アナリスト、アレッサンドロ・アルメニア氏は述べた。
一方、ポーランドやセルビアといった石炭生産国も比較的よく持ちこたえているとアナリストは指摘。太陽光発電が盛んなギリシャでは、中東情勢を受け、電力会社が閉鎖予定だった褐炭火力発電所の稼働を少なくともあと1年延長させることを要望している。
<企業や家庭に重くのしかかる負担>
家庭向けの電力価格への衝撃は、石油やガスの卸売価格の急騰ほど顕著にはならないとアナリストらは見ている。価格上昇がシステム全体に波及するには数カ月かかるためだ。
欧州委員会は、戦争による影響を緩和するため、電力税の引き下げを計画しているが、当局者やアナリストは、国の財政負担が膨れ上がる可能性を警告している。
石油系燃料価格の上昇にすでに苦しんでいる消費者は、電気料金の高騰を心配している。
欧州連合(EU)で最も電気料金が高い国の一つであるキプロスでは、同国最大の電力会社が、「ダックカーブ」の影響もあって8月までに料金が最大20%上昇すると見込んでいる。
イラン戦争が勃発した後、キプロス南部の都市リマソールの印刷工場で機械オペレーターをしているマリオス・ゲオルギウさんの燃料費は最大20%も急騰。職の一つを辞め、自宅に近い別の仕事を探すことを余儀なくされた。電気代はすでに月200ユーロ(約3万7000円)かかっている。
「2つの仕事を掛け持ちしているのに、家計の収支はやっとのことでトントンになる程度だ。何から何まで値上がりしている」と、2児の父のゲオルギウさんは話した。
彼だけではない。
イタリアのカスティリオン・フィオレンティーノのベーカリー「ラ・ナベ」では、配送に月約2000リットルのディーゼル燃料を使用し、オーブンは天然ガスで動かしている。サプライヤーからはすでに酵母や紙、プラスチックの価格引き上げが通知されているが、電力料金の値上げはこれからだという。
経営者のニコ・バンニさん(47)は、「数カ月は持ちこたえられるが、長くは続かない。人員削減を余儀なくされるかもしれない」と語った。
<古いダム頼み>
アルバニアでは、巨大なバウ・イ・デジェス水力発電ダムの近くに住む住民たちが、水力発電こそが数十年にわたる共産主義支配の唯一の「前向きな遺産」だと冗談を言う。
同国のエネルギー省は、「再生可能エネルギー、特に水力発電への強い依存は、この国を最悪の影響から守る上で極めて重要な役割を果たしてきた」と声明で述べた。ただし、同省は自国も危機の影響を免れてはいないことを認めている。
同国は依然として需要のピーク時には電力を輸入しており、消費者は政府による価格補助によって守られている。
同省は、「イラン戦争により、特に財政面において、水面下で圧力が高まっている。システムは表面的には安定を保っているが、その下で負担が蓄積している」と述べた。
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