
2025年9月、中国・海南島のボアオ国際空港に駐機中の大型ドローン。VANTOR/REUTERS
[香港 26日 ロイター] – 中国の大型軍用ドローン(無人機)1機がここ数カ月間、南シナ海上空で飛行を行った際に偽の信号を送信し、ベラルーシの貨物機や英国の戦闘機など他国の航空機になりすましていたことがデータ分析で明らかになった。
武官や安全保障アナリストらによれば、こうした飛行は、南シナ海における中国の「グレーゾーン戦術」が一段階進んだことを示している。また台湾侵攻の事態を想定し、「デコイ(おとり)」機能を試行している可能性があるという。
ロイターが航空機追跡サイト「フライトレーダー24」のデータを分析したところ、昨年8月以降、航続距離の長い中国軍用ドローン「YILO4200」による飛行が少なくとも23回記録されていた。しかし、この機体は他機の登録番号を送信していた。
その多くは中国・海南省からフィリピン方面へ向かい、西沙諸島(パラセル諸島)諸島付近を経てベトナム沿岸を南下する経路をたどっていた。
地域の外交官3人、オープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリスト4人、飛行データに詳しい安全保障研究者3人によると、これらの飛行は、即応性向上を求める中国共産党の要求に応え、軍が南シナ海、台湾周辺での展開を精緻化していることを示すものだ。精緻化の要素には、電子戦やリアルタイムの欺瞞(ぎまん)戦術が含まれるという。
外交官やアナリストらによると、航空管制官や軍用レーダーがこうした偽装に完全に欺かれる可能性は低いものの、紛争時には時間稼ぎのための混乱を招いたり、機密性の高い監視活動を隠蔽したり、プロパガンダや誤情報工作に利用されたりする可能性がある。
オープンソース・データ・プラットフォーム「PLATracker」の創設者ベン・ルイス氏は「こうした事例を見たのは初めてだ」とし、「目立たないとは言えない航空機を使用し、リアルタイムで行われている一種の欺瞞戦術試験だ。およそ偶然とは思えない」と語った。
Graphic: A map of the South China Sea shows thin red flight‑path traces from Qionghai, Hainan, extending toward Pratas Island, Scarborough Shoal and areas near Vietnam.
<ベラルーシ貨物機になりすまし>
フライトレーダー24上で、これらの飛行の多くはベラルーシのラーダ航空が運用する貨物機「イリューシン62(Il―62)」と表示されていた。英空軍の戦闘機「タイフーン」、北朝鮮の旅客機「Il―62」、さらには正体不明のビジネスジェット機と表示されている例もあった。
航空機の登録番号は、国際民間航空機関(ICAO)が管理する「24ビットアドレス」に基づいている。トランスポンダを通じて送信されるこの番号は、航空機の位置、方位、速度を特定するのに役立つ。
ラーダ航空は、外来野生生物の密輸を含むアフリカへの貨物便を運航したことなどで、2024年8月に米外国資産管理局(OFAC)の制裁対象となっている。
Graphic: A map of China’s southern coast shows red drone flight‑path lines extending from Qionghai over the South China Sea.
<攪乱戦術>
ロイターが調査した23回の飛行のうち、2回は特に異質だった。
1回は8月5日から6日にかけての飛行で、ドローンは当初、タイフーンのコードを送信していたが、約20分間にわたって3つの異なる航空機へと信号を次々と切り替え、最終的にラーダ航空の機体として着陸した。
もう1回は11月18日の飛行で、ドローンがベラルーシ機になりすまして飛行していたのと同時刻、本物のラーダ航空Il―62機がベラルーシ近郊を離陸し、テヘランへ向かっていた。
また海南島の国際空港から離陸した機体は、しばしば数時間にわたって滞空し、特定の海域上で星型や砂時計型のパターンを描いて飛行していた。
シンガポールを拠点とする安全保障アナリスト、アレクサンダー・ニール氏は、海南島からの飛行について、地域の緊張が紛争に発展した場合に「攪乱(かくらん)する」ためのデジタル戦略の一環だと指摘する。
同氏は「単なる演習というより、米インド太平洋軍が『対決へのリハーサル』と呼ぶ行動に見える。ライバルの思考を混乱させるための中国の行動は、全て彼らにとって有利に働く」とした上で、「米国とその同盟国は、高度に自動化された現代の紛争において、『キルチェーン(発見から攻撃までのプロセス)』ではミリ秒単位の差が勝敗を分けることを知っている」と言及した。
<台湾作戦の予行演習>
フライトレーダー24のコミュニケーション・ディレクター、イアン・ペチェニック氏は、海南島での飛行について「飛行パターンや24ビットアドレスの使用状況から見て、トランスポンダの設定ミスだとは考えにくい」と推察する。
飛行経路は、中国の潜水艦基地に近い海南島南方の海域や、中国海軍が太平洋に出るための戦略的要衝である台湾・フィリピン間のバシー海峡など、海軍活動が活発なエリアを網羅している。
安全保障アナリストのニール氏は、これらの経路は台湾での作戦に向けた予行演習を示唆していると話す。23の飛行経路を台湾の地図に重ね合わせると、台北周辺に集中しつつも台湾南部沿岸まで延びる複数の軍事的関心地点を通過している。また東に向けた経路は、沖縄など琉球諸島にある日米の基地に接近している。
ニール氏は「南シナ海全域での予行演習が台湾の重要拠点上で展開されることを示す、説得力のあるイメージだ」と語った。
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