東京都写真美術館(東京都目黒区)で、「恵比寿映像祭2026」が2月6日から23日(月・祝)までの16日間にわたり開催されます。
2026年度の総合テーマは「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」。光と声が重なり合う多層的な表現で構成される展示、上映、パフォーマンス、コミッション・プロジェクト、地域連携企画など、多彩なプログラムが予定されています。
侯怡亭《所有的小姐 Sóo-ū-ê sió-tsiá》(レイディたち)2015年 Courtesy of the Artist/日本文化の影響を受けた台湾語の歌詞を刺繍として表現し、言語の背景にある歴史や社会の記憶を浮かび上がらせる作品だ
恵比寿映像祭2026
「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」
会場:東京都写真美術館(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)、恵比寿ガーデンプレイス各所、地域連携各所ほか
会期:2026年2月6日(金)~23日(月・祝)[16日間]
※2月9日(月)および16日(月)は休館
※3F展示室のみ3月22日(日)まで
開館時間:10:00-20:00(2月6日~22日)
※最終日(2月23日)は18:00まで
※2/25~3/22の3F展示室は10:00から18:00まで(木曜・金曜は20:00まで)
休館日:2月9日(月)、16日(月)
観覧料:展示無料(上映と一部イベントのみ有料)
アクセス:
JR恵比寿駅東口より徒歩約7分
東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分
詳細は、恵比寿映像祭公式サイトまで。
2026年度の総合テーマは「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」

いま社会は多様性の尊重を重視しています。しかし、人、文化や言語などの間にはたとえ共通点があったとしても、誤解、誤読は生じます。そして、戦争は止まず、格差は埋まらず、さまざまな摩擦の終わりが見えません。私たちはアンバランスで複雑な社会状況に直面しています。
恵比寿映像祭2026の総合テーマは、メインキュレーター・邱于瑄(Chiu Yu-Hsuan/チィウ・ユーシュェン)による台湾語が起点です。台湾語は口承で広がった言語で、19世紀に生まれた発音記号や、20世紀の漢字表記の展開を経て、多くの文献が編まれました(その中には1931年に出版された、台湾語-日本語の辞書『台日大辞典』なども含まれます)。
日本語とも共通点が多く、いくつかの表記法が混在している言語です。「日花*1」(ジッホエ/Jit-hue)と「聲音*2」(シアーイン/Siann-im)を組み合わせた台湾語は、ひとつとして同じものがないさまざまな声音が響く空間に、木々の間から洩れた光が差し込む様子を現します。私たちを取り巻く環境では、重奏するように異なる声が行き来し、多声的に折り重なって響いています。
「恵比寿映像祭2026」は、長い歴史の変遷によりさまざまな文化が積層した台湾の言葉を導線に、いまの社会に存在する多様な文化、言語などが互いに影響し合う複層的な形に柔らかく光を注ぐ思いで構成されます。写真、映像、サウンド、パフォーマンスなどを通じて、不協であったとしても響き合い、重なり合う思考や存在が交差し、視覚的・聴覚的なポリフォニー*3を深く形成していきます。個々の声や形は消されることなく、複数の視点が交差して拡張されます。美術館に留まらず、恵比寿地域の複層的な空間で出会う数々の作品を通じて、あなたの柔らかな思索をお楽しみください。
*1木洩れ陽。雲間もしくは木の間などより洩れ来る日光。『台日大辞典』より
*2声音、音色、音、音声。
*3複数の独立したメロディーが同時に存在し、互いに調和し合うことを意味する音楽用語。共同参加が可能な開かれた構造という概念として、現代では哲学や文化領域など、さまざまな分野においても応用されている。
「恵比寿映像祭2026」の8つの見どころ
1.重なり合う形と声:空間で触れる展示プログラム(会場:東京都写真美術館 B1F・1F・2F)
写真、映像、サウンド、パフォーマンスなど多様なメディアを横断し、人類学的な視点から「声」「環境」「誤読」をテーマに展開する展示プログラム。長い歴史の中で交差してきた人や文化の往来を手がかりに、混ざり合う環境に潜む“聞こえにくい声”の広がりを可視化します。地下1Fでは“移動”を起点にしたサウンドスケープが広がり、2F展示室では、言語や社会のルールを再考しながら「ズレ」や「誤解」から生まれる表現の可能性を探ります。展示室内外に響く形なき音が、視覚と聴覚のポリフォニーを立ち上げ、異なる文化や言語、身体のあいだに生まれる共鳴を体感させます。
鶴巻育子〈ALT〉より、2024年 Courtesy of the Artist/視覚障害のある人々への聞き取りを通して先入観や誤解というズレを手がかりに、「見ること」を問い直す展示だ
田中未知/高松次郎 言語楽器《パロール・シンガー》/1974年/ミクストメディア/東京都現代美術館、言語楽器《パロール・シンガー》関連資料/1974年/東京都現代美術館/高松次郎のドローイングや寺山修司の関連資料とともに再構成される
張恩滿(チャン・エンマン)《蝸牛樂園三部曲—啟航或終章》(カタツムリ楽園三部作—出航か終章か)高雄市立美術館蔵/張恩滿は台湾原住民族のルーツを持つ、本作ではカタツムリをモチーフに異なる土地を渡り定着してきた生き物の記憶と、変化し続ける環境のなかで未来へと受け継がれる姿を表現している
2.新しい才能と出会う「コミッション・プロジェクト」(会場:東京都写真美術館 3F展示室)
東京都写真美術館の継続事業として、2023年に始動した「コミッション・プロジェクト」。日本を拠点に活動するアーティストを選出し、制作委嘱した映像作品が“新たな恵比寿映像祭”の成果として発表されます。
恵比寿映像祭2026では、第2回コミッション・プロジェクト特別賞受賞作家である小森はるかによる新作展示を、総合テーマと呼応させながら具現化。ドキュメンタリーの歴史を受け継ぎながら、見過ごされてしまう風景や人の営みに丁寧に目を向ける小森の、新作2作品が展示されます。また、会期中には第3回コミッション・プロジェクトのファイナリスト4名を発表します。
小森はるか《春、阿賀の岸辺にて》(2025)恵比寿映像祭2025 コミッション・プロジェクト特別賞受賞作品[参考図版]
3.街にひらかれるアート――オフサイト展示(会場:恵比寿ガーデンプレイスセンター広場、恵比寿スカイウォーク)
デジタルとアナログの境界を横断する実験的プロジェクトを展開。インターネット・アートの先駆者エキソニモ、個人と集団のアイデンティティに着目したFAMEMEが、都市空間に新しい映像表現をインストールします。屋外でしか体験できない“偶発的な出会い”を生み出す作品群が、訪れる人すべてに開かれた鑑賞体験を提示します。
FAMEME《Duri-grance by FAMEME》(2026)Courtesy of the Artist/ドリアンと香水の融合した新感覚の新作となっている
エキソニモ《Kiss, or Dual Monitors 2026》 2026 年(恵比寿映像祭ヴァージョン)展示イメージ/インスタレーション/東京都写真美術館蔵/恵比寿ガーデンプレイスセンター広場では、目を閉じた人々の顔が映る二つのモニターが重なり合い、キスを交わしているかのように見える作品。2026年の新ヴァージョンでは、約4mに及ぶ巨大LEDウォールとして進化する
4.映像を“視る&聴く”――上映プログラム(会場:東京都写真美術館 1Fホール)
恵比寿映像祭のために編まれた特別上映プログラムを連日開催。劇映画から、実験映画をはじめ、日本初公開作品を含め多彩な作品が集まります。小森はるかの作品は展示にとどまらず、上映の形でも展開します。上映後には、監督やゲストを招きトークが開催されます。
河合健《みんな、おしゃべり!(2025)©2025 映画『みんな、おしゃべり!』製作委員会/声や会話、場の生成をめぐり、コミュニケーションのあり方そのものを問い直す作品となっている
大木裕之《meta dramatic 劇的》(2023)東京都写真美術館蔵/大きは惜しくも昨年急逝。その仕事を振り返る追悼特集上映となる。個人的かつ社会的な視点を往還しながら切り拓かれてきた映像表現の軌跡を、あらためて現在に接続することを試みている
5. 重なり合う声と身体—— ライヴ・イヴェント(会場:東京都写真美術館 1Fホール、1Fスタジオ、展示室)
すべての来場者にひらかれたフェスティヴァルを目指し、映像文化の理解を深めるとともに、来場者が自ら考え、対話するきっかけをつくります。展示プログラムの各作品を起点にしつつ、様々な表現方法のプログラムが重なり合い、総合テーマのさらなる拡張を試みます。出品作家であるキュンチョメ、鶴巻育子、アンジェリカ・メシティによるアーティスト・トークをはじめ、日本大学名誉教授の原直久による写真技術に関する講義を行います。また、原住民文化を深く知ることができる関連ワークショップや、視覚障害のある方と作家による「見え方」についての作品鑑賞ツアーを実施します。さらに、形のないパフォーマンスや、美術館での音楽作品の特別演奏も開催。加えて劇団ゴツプロ!による演劇プログラムを取り入れ、映像の領域の拡張に挑みます。
6. 語り合う—— シンポジウム(会場:東京都写真美術館 1Fホール、日仏会館ホール)
国内外のキュレーター、研究者、アーティストらを迎え、コミッション・プロジェクトやアーカイヴ、言語と文化の交差について議論し、映像の未来をめぐる国際的な知の交流の場を創出します。総合テーマに沿って、映像や写真に関する多文化的な視点、言語の役割、そしてコミッション・プロジェクトおよび映像アーカイヴを深く掘り下げます。4つのテーマを設け、国内外から多彩な登壇者を迎えたシンポジウムを通じて、映像、写真と音が持つ多義性と可能性を多角的に考察します。
7.東京都のコレクションを特別公開(会場:東京都写真美術館 3F展示室)
東京都コレクションから、総合テーマ「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」を紐解く視点として、「現代と歴史」を切り口に作品をセレクト。東京都写真美術館をはじめ、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、東京都江戸東京博物館が管理する収蔵品の中から、映像・写真・資料を展示し、漣(さざなみ)のように立ち上がる違和感をリレー形式であぶり出します。
全日本写真材料商組合連合会《カメラ双六》(昭和中期)東京都江戸東京博物館蔵/十返舎一九 『東海道中膝栗毛』(1802–1814)を起点に、双六と写真文化の関係を探る
さわひらき《pilgrim》(2022)東京都庭園美術館蔵/東京都庭園美術館で撮影された本作が、1933年竣工時の《朝香宮邸竣工写真》とともに展示され、建築に重なる時間の層を浮かび上がらせる試みとなる
8.文化が響き合う都市ネットワーク――地域連携プログラム(会場:地域連携各所)
恵比寿映像祭2026では、地域連携の範囲をこれまで以上に拡大し、恵比寿近隣の文化施設が多数新たに参加します。日仏会館、CCBTをはじめとする18施設が、それぞれ独自の展覧会やイベントを開催し、街全体でフェスティヴァルを盛り上げます。さらに今年は、恵比寿屈指のディープスポット「恵比寿地下味の飲食街」や、恵比寿エリアの複数のバーとも連携し、昼から夜まで恵比寿の街全体を巡りながら、多様な作品と出会うことができます。また、シールラリーも実施し、シールを集めると映写機から生まれたキャラクター「ye(b)izoちゃん」オリジナルグッズを先着でプレゼント。アートを通して街を歩き、地域文化を再発見する体験を提供します。
ye(b)izoちゃん◎ひらのりょう
恵比寿の街が映像とアートに染まる16日間。東京都写真美術館を中心に、恵比寿ガーデンプレイスや地域のバー、飲食街まで巻き込んだダイナミックな展開は、まさに国際芸術祭ならではの熱気に満ちています。台湾語の「木洩れ陽」を起点とした多声的なテーマは、今の複雑な社会を生きる私たちに、音と光を通した新しい視点を与えてくれるでしょう。展示は無料、さらに街歩きを楽しみながらオリジナルグッズがもらえるシールラリーも用意されており、アートファンならずとも気軽に立ち寄れるオープンな雰囲気も魅力です。ぜひ、これを機に世界の最新映像表現に触れ、自分だけの「柔らかな思索」にふけってみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
