石川県加賀市大聖寺は、かつて加賀藩の支藩・大聖寺藩の城下町として栄えた歴史ある街だ。鮮やかな色彩と優美な紋様で知られる伝統的工芸品「九谷焼」発祥の地としても知られ、武家屋敷や古い町家など風情ある街並みが、四季折々の自然と共に訪れる人の五感を楽しませてくれる。

この古い城下町から西に車で約10分。大聖寺川と北潟湖に挟まれた山あいの広々とした敷地に、自動車・オートバイ用の特殊精密部品メーカー「月星製作所」の本社・永井工場がある。確かな技術とそれに裏打ちされた高品質の製品で、国内はもちろん海外でも高く評価されているニッチトップ企業だ。

DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)にも積極的で、環境や地域の課題への取り組みでも存在感を示している。

2022年に完成した永井工場の22号棟

メーカー、ティア1に精密部品約3000種類を提供。国外にも拠点

月星製作所は1947年、自転車やオートバイの「スポーク」を製造する「月星スポーク製作所」として創業した。スポークとは、車輪の外周部分にあたる「リム」と中心にある「ハブ」をつなぐ放射状に伸びる棒状の部品のこと。現在も月星製作所のトップシェア商品の一つだ。

スポーク以外にも、シャフトや各種のネジ類など、自動車・オートバイに欠かせない様々な精密部品を手がけている。取引先は、国内外の自動車・オートバイのメーカーや「ティア1」と呼ばれるその一次サプライヤーが中心で、約3000種類の精密部品を月間約1億2000万個生産している。

国内では、永井工場のほか山中工場(石川県加賀市)、根上工場(同能美市)の2工場が稼働しており、埼玉県朝霞市、愛知県名古屋市、兵庫県明石市に営業所、静岡県浜松市、熊本県菊池市に出張所を設けている。海外展開にも積極的で、タイに生産工場、米国、中国、ドイツに営業拠点を設けている。

「多くのお客様に支えられているのが私たちの強み」と語る有佐さん

「取引のあるお客様は約100社。特定の企業に依存せず、約3000種類の様々な部品を、お客様の注文に応じて小ロット多品種で供給できるのが私たちの強みです」

総務部次長の有佐誠さんは、こう語る。

米国のハーレーダビットソン社製オートバイのスポークは、全て月星製作所の製品が使われており、国内主要メーカーのオートバイについても中型、大型では、ほぼ100%のシェアを占めている。また、大型オートバイの車軸になるシャフトや自動車の安全装置に使われる部品などでも国内トップシェアを誇っている。

国産オートバイの先駆け「ホンダDREAM4E」のスポークも月星製作所が提供した

躍進支えるコア技術「冷間圧造」。製造設備の自社開発も

月星製作所の躍進を支えているコア技術が「冷間圧造」だ。

金属材料を常温のまま金型に入れて変形させる成形技術で、金属を切って加工する切削加工と異なり、金属の塑性を生かして伸ばしたり、押しつぶしたりして加工することで、材料ロスを抑え、時間短縮にもつながるという。

また、高温状態にして加工する熱間圧造、温間圧造とくらべても、加工精度が高く、①工数を軽減できる②金型の寿命が長い③材料が無駄にならない――など環境への負荷を軽減することができる。

「製造設備についても自ら開発しています。購入した設備と組み合わせるなどして、様々な要求に応えていけるのも、市場での優位性を保てている理由です」と有佐さんは解説する。

永井工場には、冷間圧造の技術を用いた製造機械が並ぶ

「景色を変えて意識を変える」――。大胆に職場環境を改革

地方都市から世界を相手にビジネスを展開している月星製作所。それを可能にしているのは、ハード、ソフト両面での不断の改革だ。

「自動車が大きな変革の時代を迎える中、勝ち続けるためには、意識改革をしていこう。そのためには景色を変えよう。景色が変われば意識も変わる」――と、打本渉社長が先頭に立って、改革に取り組んでいる。

ハード面では、2022年に永井工場敷地内に生産・洗浄工場、配送センターを新設。22棟ある工場をつなぐ屋根付きのアーケードをつくり、物流導線の削減と生産性の向上を図るなど、生産・管理体制の効率化を図ってきた。

生産設備と合わせて、職場環境の改革も進めた。2018年には社員が個々の机を持たないオフィススタイルであるフリーアドレスを導入、2022年にはフリーオフィスや見晴らしの良いカフェテラスを整備し、自分に最適な場所で仕事ができる環境を整備した。

自分に最適な場所で仕事ができるフリーオフィス

これが職場に化学反応を起こす。それまで、あまり交わることのなかった違う部署の人間、若手とベテランなど、社内で新たな出会いやそれによる気づきが生まれた。

「『景色を変えて、意識を変える』という狙い通り、職場の風通しが格段によくなりました。自由な発想で、若い人からどんどん意見やアイデアが出てくるようになったのです」(有佐さん)

風景を変えることで生まれた化学反応を更に後押ししようと、年功序列的な賃金制度から脱却し成果に応じて評価される賃金制度を導入したり、国や県、大学などと連携して様々な研修を実施したりするなど、ソフト面でも改革も推し進めている。

社内には見晴らしの良いカフェテリアも

イノベーション推進室を設置。生産管理の向上にトライ&エラー重ねる

少子高齢化の進展、環境意識の高まりなど、将来を見据えて進めているのがDX、GXの取り組みだ。その司令塔となるのは、2024年に発足した「イノベーション推進室」。

「以前は部署ごとに進めていたのですが、それではどうしても片手間でやる感じになってしまいます。そこで専任部署をつくって、本腰を入れて取り組み始めました」

取締役上席執行役員の越山文雄さんは、そう語る。月星製作所では、工場の自動化やEVシフト、生産管理や工程間連携の課題解決などを進めるため、全社横断的にデジタル化の加速を図っている。

越山さんは、「大ロットで生産するのが製造業にとっては楽ですが、できるだけ小ロット、多品種生産に対応できるよう、トライ&エラーを重ねながら仕組みづくりを進めています」と話す。

「トライ&エラーを重ねながらデジタル化を進めている」と語る越山さん

加賀市と包括連携協定を締結。地域での存在感高める

月星製作所が大事にしている、もう一つの軸が地域への貢献だ。地元加賀市と「包括連携協定」を締結し、社員による小中学校への出前授業、お祭りやイベントなどへの協賛、工場見学の積極的な受け入れなどを通じて、地域での存在感を高めている。遊びながらSDGsについて学べるカードゲーム「Get The Point」のファシリテーターの資格を持つ社員は、約10人にも上る。

2020年代に入ってからは、SDGsへの対応を「サステナビリティレポート」として公表している。「SDGsが言われるようになったから公表し始めたというよりは、会社が進めてきた取り組みをどうやって知ってもらうかと考えていたときに、SDGsという格好のフレームができたという感じです」と総務部次長の有佐さんは話す。

一連の取り組みから月星製作所は、経済産業省の「地域未来牽引企業」に選定されたほか、「ワークライフバランス(WLB)企業」として石川県から表彰されるなど、各方面から高く評価されている。

加賀市内の小学校でSDGsについて考える出前授業を続けている

「社員全員が成長」「挑戦し続ける会社でありたい」

月星製作所は今後、どのような展開を目指しているのか。

越山さんは、「自動車やオートバイは大きな変革期を迎えています。どのような方向に進んでいくのか見極めながら、私たちはやはり冷間圧造という技術にこだわって、高品質な製品をつくり続けていきたい」と語る。そして、最後にこう強調した。

「地域とともに歩み、社員全員が成長して、新しいことに挑戦し続ける会社でありたい」

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.tsukiboshi.co.jp/▽社長=打本渉▽社員数=537人(2025年4月現在、グループ会社を含む)▽創業=1947年