2025年7月28日 午前7時30分
【論説】「福井県は文学の土壌が厚い」と、福井市出身の芥川賞作家、津村節子さんは誇らしく語ってきた。津村さんが特別館長を務める県ふるさと文学館が開館10周年を迎えた。福井ゆかりの作家たちの資料を収集し定期的に企画展を開催するほか、育成と交流の場として文学講座や文学フェスタを開くなど、豊かな福井の文学を継承する歩みを重ねてきた。
文学館は2015年2月、県立図書館の一部を改装する形でオープンした。県立の文学館創設を熱望してきた津村さんは、自筆原稿や愛用品などを県に寄贈するなど尽力した。
津村さんが語るように福井出身の作家は多い。芥川賞は多田裕計さんと津村さん、直木賞は水上勉さんと藤田宜永さんが受賞している。10年前に文学館が試算したところ、福井出身やゆかりのある作家の数は、各都道府県の人口比で見ると全国4位だった。
講演を通して文学の魅力を説き、教育普及に協力している坂井市出身で現代詩作家の荒川洋治さんは、開館10周年記念の対談で詩壇おける福井の存在感を強調した。詩人則武三雄さんによる40年に及ぶ出版活動「北荘文庫」を挙げ「福井には詩を支える風土がある」と説いた。
豊かな文学の土壌を踏まえて新たな芽を育てるのも文学館の使命だ。作家の養成講座「ふくい文学ゼミ」は11期目となる。本年度は高校生を含む15人を選抜して今月スタートした。修了生にはプロ作家や文学賞受賞者もいる。文学館が事務局の風花随筆文学賞は来年で30回を数える。現在は顧問を務める津村さんが創設に当たり「若い人の創作を後押しする場に」と当初から高校生の部を設けており、昨年は県内外から3千点を超える応募があった。
県内で文芸部が活動している高校は5校にとどまる。文芸同人誌は会員減や高齢化で数を減らしている。本離れ、文学離れがいわれて久しく、少子高齢化という課題も横たわる。それでもここ20年余りで、舞城王太郎さん(三島由紀夫賞)、宮下奈都さん(本屋大賞)、谷崎由依さん(芸術選奨新人賞)、由原かのんさん(オール讀物新人賞)らがデビュー。ライトノベルの暁なつめさん、裕夢さんは作品がアニメ化される人気ぶりだ。
文学館の次の10年は、若い人たちへのアプローチにより力を入れたい。文学ゼミの応募者数を見ても「書きたい人、表現したい人」は確かにいる。SNSやウェブサイトで作品を発表し、スマホで読む時代。オンラインでの講座開催などアクセスの間口を広げ、創作のサポートや福井の文学を知ってもらう機会を充実し、若い才能を育てたい。
