2023年6月より改修工事を行っていた愛知県陶磁美術館が、2025年4月1日に本館のリニューアルオープンを迎えました。オープン記念の「新シュウ蔵品展」を経て、現在は、盛田昌夫コレクション寄贈記念 特別展「イタリアの磁器 リチャード ジノリのクラシックとモダン」が開催されています。2021年度に盛田昌夫氏(元 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役会長)より寄贈を受けたジノリ作品を初公開し、18世紀前半の初期のテーブルウエアから現代に至るジノリの名品を紹介する展覧会です。また、記事の最後では本館リニューアルのポイントもご紹介します。
ドッチァ窯から始まるリチャード ジノリの歴史
リチャード ジノリの歴史は、1737年にトスカーナ大公国のカルロ・ジノリ侯爵がドッチア窯を開き、磁器を完成したことから始まります。その後約300年にわたり、イタリア芸術の伝統を守りながらも、時代を代表する芸術家やデザイナーらとのコラボレーションによって多くの名品が生み出されてきました。
ブーケと小花模様のディナーセットによるテーブルセッティング 全て 愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
シノワズリーに影響を受けた初期のデザイン
ヨーロッパの陶磁器は、中国明代の青花磁器がもたらしたシノワズリー(東洋趣味の美術様式)に影響を受けて始まりました。ジノリの初期の磁器も東洋風のデザインが多く、代表作にはマイセンやオランダ・デルフト窯のシノワズリーの影響を受けた染付磁器や、バラ、ブーケ、リボン文様などを散りばめたディナーサービスがあります。また、後に〈イタリアンフルーツ〉と呼ばれるようになるデザインの原型もドッチァ窯時代に生まれました。
ドッチァ窯 デザート・プレート〈チューリッパーノ〉1770年頃 愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
ドッチァ窯 キャンディー・ボックス〈イタリアンフルーツ〉1757-1792年 愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
「カポディモンテ」発祥の窯
歴史や伝説の場面を浅浮彫装飾と手描き彩色で表現した高級磁器「カポディモンテ」は、19世紀中頃の万国博覧会に出品されて以来人気を博し、長年にわたり制作されてきた人気シリーズです。長らくカルロ7世が1743年に開いたカポディモンテ窯が発祥だとされていましたが、近年の発見により、初期のドッチァ窯で制作されていたことがわかりました。
ドッチァ窯 カポディモンテ 珊瑚のハンドル付きティーポット〈イストリアート〉1880-1900年頃 愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
あえて白一色で造形の美しさを打ち出したリバティ・スタイル
19世紀末から20世紀初頭にかけて、有機的な装飾様式「アール・ヌーヴォー」がパリから世界へと流行しました。この様式はイタリアで「リバティ・スタイル(スティーレ・リバティ)」と呼ばれ、1902年のトリノ万国博覧会をきっかけに人気が出ました。その頃のジノリは、1896年にミラノのリチャード陶磁器会社と合併してリチャード ジノリ社となっていましたが、この流れに乗ってリバティ・スタイルの製品を世に出しました。特徴として、アール・ヌーヴォーでしばしば表現される繊細な色調や豊かな色彩をあえて用いず、多くが白一色のみでその洗練された世界観を作り上げている点が挙げられます。
デザイン:ジョヴァンニ・ブッファ リチャード ジノリ リバティ・ベース〈孔雀〉1900年代初め(1995年復刻) 愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
〈孔雀〉では、わずかにグレー味のある仕上がりにすることで、浮彫りの模様がより立体的に見えるなど、細やかな工夫がなされています。
生き生きと人の姿を表すフィギュリンたち
「フィギュリン」と呼ばれる華やかに彩色された磁器彫像は、主に食宴やティータイムのテーブルに飾られて話題を提供するもので、18世紀初頭にドイツのマイセン窯で始まりヨーロッパ各地の窯でも作られるようになりました。ジノリでも18世紀中頃から制作され、身振りやドレスの襞にいたるまで、その生き生きとした表現は世界的にも高い評価を受けています。
左から《貴婦人クラリーチェ》、《貴婦人トラウレ》、《貴婦人エリアンテ》 いずれもリチャード ジノリ 1980-2000年 愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
市井の人々をコミカルにデフォルメした「カラモージョ」は、ジノリのフィギュリンを代表するもので、グロテスクさもありながら愛らしいという独特の魅力を持っています。オリジナルは1750年代にドッチア窯でつくられ、本展のシリーズはリチャード ジノリによる復刻版になります。ジノリは会社の周年記念などに過去の作品を復刻していますが、同じ素材、同じ型を使う忠実な復刻で、過去のモチーフや作品を大切にしてきたことが伝わります。
カラモージョ 左から《骨董屋の主人》、《酔っ払い》、《医者》 いずれもリチャード ジノリ 1980-2000年(1750年頃の復刻)愛知県陶磁美術館(盛田昌夫コレクション)
リチャード ジノリを代表するデザイナー、ジオ·ポンティの世界
第一次大戦が終わり、イタリアのモノづくりが手工業から工業化へと舵を切る1920年頃、リチャード ジノリは作風を一新させました。総指揮を任されたのは、後に「イタリアデザインの父」と呼ばれることになる若き建築家、ジオ・ポンティです。建築のみならず陶磁器、ガラス、日用品、家具のデザインなど幅広い分野で活躍したポンティは、アートディレクターとして古典を参照しつつ、同時代の新たな芸術の潮流も取り入れ、独自のスタイルを確立しました。今回の展覧会では陶磁器デザインのほか、家具やタイルなど建築家としてのポンティの活動も紹介されています。
デザイン:ジオ・ポンティ リチャード ジノリ 遠近法のベース〈プロスペッティカ〉1925年(復刻)GIRORI 1735
デザイン:ジオ・ポンティ モルテーニ アームチェア〈Round.D.154.5〉 1953年~ アルフレックスジャパン
現代まで引き継がれるジノリのデザイン
2013年、リチャード ジノリ社はケリンググループの一員となり、2020年にブランド名を「GINORI 1735」へと改称しました。ジノリが長い時間をかけて大切にしてきた何世紀にもわたるクラフツマンシップを生かし、陶磁器だけではなく、照明、家具、ファブリック、クリスタルガラスなど多岐にわたるアイテムを扱うブランドになったのです。新しい代表作のひとつとして、クラシックとモダンを融合させた陶磁器も制作されました。
中央 GIRORI 1735 蓋付きベース〈オリエンテ イタリアーノ〉2023年~ 手前 GIRORI 1735 ティーカップ&ソーサー〈オリエンテ イタリアーノ〉2014年~ いずれもGIRORI 1735 ※花のフィギュアは瀬戸ノベルティ
上 リチャード ジノリ カップ&ソーサー〈レッドコック〉20世紀前半 個人蔵 下 GIRORI 1735 プレート〈オーロディ ドッチァ〉2014年~ GIRORI 1735
上はリチャード ジノリ時代に制作された〈レッドコック〉で、下が「GIRORI 1735」になってから作られた〈オーロディ ドッチァ〉シリーズです。過去から伝わるニワトリのモチーフを大切にしつつ、時代に合わせてアレンジしていることが見て取れます。本展タイトルの「クラシックとモダン」をわかりやすく表している例でしょう。
リニューアルで過ごしやすい美術館へ
4月1日に本館のリニューアルオープンを迎えた愛知県陶磁美術館。リニューアル内容は、本館館内の特定天井脱落対策工事や照明のLED化、展示室等の名称変更などいくつもありますが、中でもトイレのバリアフリー化は使いやすさの点で大きな変化です。本館1階ロビーのトイレには 瀬戸・常滑の作家が制作した洗面鉢が新たに設置され、陶磁専門の美術館らしさを演出しています。さらにラウンジを明るく開放されたエリアに改修し、新たにキッズコーナーを設置したことで、休憩できる場所が増えました。
1階女子トイレの洗面鉢(作:波多野 正典氏)
以前はビデオ視聴ブースだったスペースがキッズコーナーに
また、装いを新たにした敷地内のお茶室「喫茶と器 陶翠庵」では、抹茶をはじめ、和紅茶や抹茶ラテなど、茶釜で沸かしたまろやかな湯で淹れる喫茶メニューが用意され、陶芸作品の販売コーナーも併設されています。土日祝のみの営業ではありますが、本館での展示を楽しんだあとにホッと一息つける場としておすすめです。(ライター・岩田なおみ)
「喫茶と器 陶翠庵」店内の様子
盛田昌夫コレクション寄贈記念 特別展「イタリアの磁器 リチャード ジノリのクラシックとモダン」
会場:愛知県陶磁美術館 本館1階 展示室1-A、1-B(〒489-0965 愛知県瀬戸市南山口町234番地)
会期:2025年5月17日(土)~7月27日(日)
開館時間:午前9時30分から午後4時30分まで(入館は午後4時まで)
※7月2日(火)からは午前9時30分から午後5時まで(入館は午後4時30まで)
休館日:毎週月曜日 ※ただし、7月21日(月・祝)は開館、7月22日(火)は休館。
アクセス:リニモ「陶磁資料館南」駅下車、「知の拠点あいち」横の歩道を北に進み徒歩600m
または名鉄バス18番系統「陶磁美術館」下車すぐ(土・日・休日のみ)
観覧料:一般900円(720円)・高校/大学生円700円(560円)・中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金。
※上記観覧料で常設展示も併せてご観覧いただけます。
※割引制度に関しては美術館HPをご覧ください。
詳しくは美術館HPへ。
