Asia Trends

2025.05.01


アジア経済

米中関係

アジア経済見通し

台湾経済

トランプ関税


トランプ関税前の駆け込みで台湾景気は底入れも、不安要因は山積
~外需を巡る不透明感に加え、政局混乱や政策対応の制約など懸念要因は山積している~



西濵 徹



要旨

米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感は、世界経済や国際金融市場に混乱をもたらしている。台湾経済を巡っては、対米輸出の割合が高いことに加え、米トランプ政権が相互関税を32%と高水準としたことも重なり、実体経済への打撃は必至と見込まれる。さらに、米中による貿易戦争激化の動きは、中国本土向け輸出の割合が高い台湾経済に間接的に悪影響を与えることも懸念される。1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+9.67%と加速しており、トランプ関税の発動を前にした輸出駆け込みを反映する一方、内需は対照的に弱含む動きが確認されている。台湾政府は足元の景気が想定を上回ったことを理由に今年の経済成長率見通しを+3.6%に上方修正したが、外需を巡る不透明感の高さに加え、政局混乱や政策対応の制約などを勘案すれば、極めて見通しが立ちにくい状況に直面することに留意する必要がある。


このところの世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感に揺さぶられている。米トランプ政権は、すべての国に一律で10%の関税を課した上で、一部の国を対象に非関税障壁に応じて関税を上乗せする相互関税を課す方針を示した。さらに、先月初めには一律部分に加え、上乗せ部分を一旦発動させるも、直後に中国以外の上乗せ分を90日間延期するなど政策は二転三転している。米トランプ政権は台湾への相互関税を32%としたほか、対米輸出額が名目GDP比14%に達しており、仮に相互関税がすべて発動されれば経済に深刻な悪影響が出ることは必至である。他方、中国による報復措置を受けて米トランプ政権は中国に対する上乗せ分を大幅に引き上げており、米中双方が145%、125%と高水準の関税を課す貿易戦争に発展している。足元ではトランプ氏が中国に対する関税の引き下げに言及するなど姿勢を軟化させる動きをみせる一方、中国は関係改善の実現には米国の圧力放棄を前提とする対照的な姿勢をみせており、両国の貿易協議の行方は見通せない状況が続く。さらに、台湾にとって中国本土(含、香港・マカオ)向け輸出は名目GDP比で2割弱に及ぶため、米中による貿易戦争の激化は間接的に外需に悪影響を与えることが懸念される。よって、トランプ関税の行方は台湾経済の行方を大きく左右することになる。

アジア新興国のなかには、トランプ関税の発動を前にした対米輸出の『駆け込み』が期待されたにもかかわらず、企業や家計部門のマインド悪化を理由に景気に急ブレーキが掛かる動きが散見されている。こうしたなか、台湾の1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+9.67%と4四半期連続のプラス成長で推移するとともに、前期(同+6.64%)から拡大ペースが加速するなど大きく底入れの動きを強める動きが確認されている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+5.37%と前期(同+2.90%)から加速して4四半期ぶりの伸びとなっており、トランプ関税を前にした駆け込みの動きが景気底入れの動きを促している様子がうかがえる。需要項目別の動きをみると、今年度本予算では予算案段階から歳出規模が大幅に削減されていることも影響して(注1)、政府消費は下振れする展開が続くとともに、雇用環境の悪化を受けて家計消費にも下押し圧力が掛かるほか、トランプ関税による実体経済への悪影響を警戒して企業部門の設備投資意欲も後退するなど、幅広く内需は弱含む動きをみせる。他方、トランプ関税の発動を前にした駆け込みの動きが輸出を押し上げるとともに、内需の低迷にもかかわらず輸入も堅調な動きをみせている。その結果、純輸出(輸出-輸入)による成長率寄与度は前期比年率ベースで+9.31ptと大幅プラスになっていると試算されるなど、外需が景気底入れの動きをけん引したと捉えられる。

図表図表

なお、台湾政府(主計総処)は1-3月のGDP統計が想定を上回ったことを理由に、今年通年の経済成長率見通しを+3.6%と2月時点(+3.14%)から上方修正している。足元の景気について、AI(人工知能)関連需要の堅調さを追い風に生産、輸出、投資が好調な推移をみせているとする一方、先行きについては不確定要素の方が多いとの見方を示しており、見通しが立ちにくい状況にあると判断できる。現状は相互関税の一律部分がすでに発動されており、年明け直後に対米輸出に駆け込みの動きが出た反動による下振れが景気の足を引っ張ることが懸念される。さらに、上述したように台湾の対米輸出は名目GDP比で14%に達するとともに、相互関税率は32%と極めて高い水準に設定されており、マクロ的なトランプ関税の直接的な影響は相互関税率が145%と異常な水準となっている中国本土よりも大きいと試算されるなど、極めて厳しい状況に直面していると捉えられる。また、頼清徳政権は議会との『ねじれ状態』に直面しており、本予算成立に際して大幅な譲歩を迫られるなど政権運営を巡る不透明感が極めて高い上、足元では与野党の多数の議員がリコール(解職請求)対象となるなど政局も混迷している。外需を中心に景気に対する不透明要因が山積するにもかかわらず、機動的な財政運営を期待することは難しくなるなか、先行きの台湾経済は見通しが立ちにくくなることにこれまで以上に注意を払う必要性が高まっている。

図表図表

以 上



西濵 徹

Share.