フランスという国は,ビデオゲーム産業において特異な立ち位置にある。Ubisoft Entertainmentのようなメガパブリッシャをはじめ,Focus EntertainmentやMicroidといった中堅,強力な独自技術を育むAsobo StudioやQuantic Dream,そして「Dead Cells」を世に送り出したMotion Twinや「Clair Obscur: Expedition 33」のSandfall Interactiveに至るまで,多層的なスタジオ構造を持ち,政府の手厚い公的支援によって支えられている。
そんなフランスのゲーム産業を代表するリーダーたちが,ブラジル・サンパウロで開催されたgamescom latam 2026に登壇し,「フランスゲーム産業スポットライト パリから世界市場へ」(France Game Industry Spotlight: From Paris to the Global Market)と題したトークセッションが行われた。
登壇者はShiro Games社長のステファン・ボナッツァ(Stephane Bonazza)氏,Evil Empireのビジネス開発担当であるベンジャミン・ローラン(Benjamin Laulan)氏,Old Skull GamesのCEO ニコラ・ブリエール(Nicolas Briere)氏,Focus Entertainmentで傘下スタジオを統括するフランク・メイヤー(Frank Meijer)氏だ。
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議論の序盤で興味深かったのは,フランスにおけるUbisoft Entertainmentの存在意義だ。登壇者が指摘したのは,同社が単なるパブリッシャではなく,国全体の「技術とマネジメントの学校」として機能している点である。
多くの若手はUbisoftでAAA開発の洗礼を受け,そこで学んだノウハウを武器に,独立してスタジオを立ち上げる。この循環がフランスのゲーム開発シーンに高い専門性と,大企業的な運営スキルをもたらしているのだという。
実際,前述のAsobo StudioやSandfall Interactiveのほかにも,「Life is Strange」のDON’T NOD,「Stray」のBlueTwelve Studio,「Sifu」のSloclap,「Cairn」のThe Game Bakersなど,Ubisoftの出身者によるスタジオの有名どころは数え切れない。ボナッツァ氏は「Ubisoftの存在はフランスゲーム業界の呪いであり,同時に祝福なのかもしれません」と語っていた。
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Focus EntertainmentでDotemuやThe Arcade Crewを統括するフランク・メイヤー氏。フランスのゲーム業界歴は長いが,フランス人ではないという
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ステファン・ボナッツァ氏が率いるShiro Gamesといえば,最近は「Dune: Spice Wars」や「WarTales」「Northgard」などのパブリッシング事業にも乗り出している
フランスの業界人から,まだ若いブラジルゲーム産業へのメッセージは,厳しくなりつつある市場環境の「持続可能性」(Sustainability)だ。例えば,Dotemuの「ミュータント タートルズ:シュレッダーの復讐」やOld Skull Gamesの「SpongeBob: Patty Pursuit 2」といったライセンス作品,あるいはEvil Empire/Motion Twinによる「悪魔城ドラキュラ」や「プリンス オブ ペルシャ」とのコラボプロジェクトは象徴的と言えるだろう。
「かつてのIPタイトルは,名前を借りただけの安易なゲームだった。だが今は違う」とメイヤー氏は語る。プレイヤーの要求が高くなっている現代では,開発側の「IPへの深い愛」とそれを現代的なゲームプレイに昇華する「職人芸」が不可欠だ。
既存のIPという安定した土台を使いつつ,クリエイティブなリスクを選ぶ。「攻めのデリスキング(リスク低減)」こそが,フランス勢がグローバル市場で成功を持続している秘訣というわけだ。
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リヨンを拠点に10年ほど活動するニコラ・ブリエール氏のOld Skull Gamesは,Apple ArcadeやNetflixといったプラットフォームで多くのライセンス作品を手がけている
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ベンジャミン・ローラン氏が所属するEvil Empireは,Motion Twinの元メンバーを中心に設立されたスタジオで,「Dead Cells」の追加コンテンツ開発や運営を担当してきた
一方,ブリエール氏らが触れた「フランスの課題」も非常に生々しいものだった。フランスはアニメーションやアート教育が充実しており,「ビジュアルに特化した,様式美の優れた作品が生まれやすい」傾向がある。
しかし,それは足かせにもなり,「自分たちの作りたい美しいもの」に没頭するあまり,「誰がなぜ,そのゲームを遊ぶのか」というマーケティングの視点が欠落するスタジオも少なくないという。
「CEOの役割は,戦略によって“運”の要素を最小化することだ」
ボナッツァ氏の言葉には,1980年代からニッチなストラテジーゲームで業界を生き抜いてきたベテランの重みが滲む。見た目は地味かもしれないが,自社タイトルをプレイし続けてくれる強固なゲーマーコミュニティを作り上げることも,長期的な生き残りには不可欠な一手なのだ。
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セッションの終盤,登壇者たちが発した言葉には日本の開発者やファンにも響くものがあるはずだ。
「楽しさ(Fun)に国境はない」
面白いゲームメカニクスや美しいアート,心に響くストーリーや音楽は,あらゆる地域のプレイヤーに共感してもらえるだろう。フランスのゲーム業界,もしくはヨーロッパ圏に存在する「多言語や多文化にもアピールすべきゲーム作りとマーケティング」は,開発者たちが持続可能性を探求するうえで不可欠なことである。
公的な支援制度や連帯感のあるコミュニティといった,フランス特有の恵まれた環境はあるにせよ,彼らの本質的な強みは「自分たちが何をすべきか」を徹底的に追求し,ビジネスとして成立させる冷徹なまでの分析力なのかもしれない。
フランス流の“堅実な一手”は,これからグローバル市場に飛び出そうとするブラジルやラテンアメリカの新興デベロッパの心に響いたはずだ。
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