ガザ侵攻 抵抗の詩22編 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの侵攻を受け、詩誌「現代詩手帖」5月号が、パレスチナ人詩人による22編を翻訳掲載する特集を組んだ。それぞれの詩からは、痛切な「抵抗の声」が聞こえる。同誌としては約6年ぶりに重版されるなど、反響を呼んでいる。(真崎隆文)

角田光代さん 女性の物語、直木賞に結実

 〈おうちっていうのはね……//それは通学路に立つ木立がつくる日陰 根っこから木をぬ/ かれる前のこと。/それはおじいちゃんおばあちゃんの結婚式の白黒写真 壁/ が粉々にされる前のこと。〉(「おうちってなに?」より) 22日夜、東京都世田谷区の書店「twililight」(トワイライライト)で、「現代詩手帖」5月号の朗読イベントが開催された。パレスチナ人の詩人ムスアブ・アブートーハさんがカイロの自宅からオンライン参加し、同誌に掲載された詩「おうちってなに?」など、5編を英語で読み上げた。「twililight」の朗読イベントには、カイロからムスアブ・アブートーハさん(スクリーン左上)がオンラインで参加した「twililight」の朗読イベントには、カイロからムスアブ・アブートーハさん(スクリーン左上)がオンラインで参加した

 アブートーハさんは昨年10月、イスラエル軍による侵攻で自宅を破壊された。11月には拘束され、暴行や尋問を受け、12月に妻や3人の子どもとエジプトに脱出したという。「実はこれらの詩を書いたのは3年から5年前。だが、2024年になって詩を読んでいると、同じ情景が何度も繰り返されていることに気づく。私たちの生活の細部を誰も気にしない。そのことが悲しい」と訴えた。死者多数「あたし かずじゃない」 ガザでは死者が、3万5000人を超えた。大きな数字の背後には、一人一人の大切な物語が存在する。ゼイナ・アッザームさんの詩「おなまえ かいて」は、そのことを深く感じさせる一編だ。 〈あしに おなまえかいて、ママ/すうじはぜったい かかないで/うまれたひや じゅうしょなんて いい/あたしはばんごうになりたくない/あたし かずじゃない おなまえがあるの〉 特集では、日本の詩人や翻訳家らがメールやSNSなどでパレスチナ人の詩人やその関係者に接触し、翻訳掲載の許可を得た。 特集を共同企画した詩人の原口昇平さんは「(特集が)一種の商売のきっかけと思われるのを避けたかった」と語る。「人文学はこれまで、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)の証言から倫理的教訓を引き出してきたが、それに使った全ての時間がパレスチナへの暴力から目をそらし続けていたなら、人文学は紙くずにも劣る。そうではないと証明しないといけない」 特集は、昨年12月にイスラエル軍の爆撃で死亡したリフアト・アルアライールさんの「わたしが死ななければならないのなら」から始まる。 〈わたしが 死ななければならないのなら/あなたは、生きなくてはならない/わたしの物語を語り/わたしの持ちものを売り/ひと切れの布と/糸をすこし買って、//(つくってほしい 白く尾の長いものを)〉パレスチナ人が「ナクバの日」と位置づける5月15日に、ヨルダン川西岸ラマッラで行進する人たち=福島利之撮影パレスチナ人が「ナクバの日」と位置づける5月15日に、ヨルダン川西岸ラマッラで行進する人たち=福島利之撮影 今回の侵攻は、1948年のイスラエル建国でパレスチナ人が土地を追われた「ナクバ」(大破局)になぞらえ、「第2のナクバ」と呼ばれる。特集に参加した翻訳家の佐藤まなさんは「ナクバはずっと続いている。故郷喪失の経験を生きるパレスチナ人が何を言っているのかを、決まり文句ではなくて、彼ら自身の言葉で伝えないといけない」と強調する。 〈占領はますます深く入植する〉〈地上の地獄の経験〉――。掲載作品に刻まれる一節一節は、どれもが重く、そして痛い。誰かがこれらの詩を朗読する時、「抵抗の声」は広がる。

Share.