「最高のキャスト、最高の劇場でできることがものすごく幸せ」と吉田(右)。ハムレットは柿澤(中央)、オフィーリアは北香那が演じる 2016年、「2代目芸術監督」と書かれた席札を前に記者会見に臨んだ。前任、蜷川幸雄の死去から5か月後、「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の演出を担う座を受け継いだのだ。学生の頃からのめり込んだシェークスピア劇で演劇界にその名をとどろかせ、「半沢直樹」「花子とアン」などのテレビドラマでお茶の間にも顔が売れていく中での就任だった。
シェークスピア全37作品を上演するシリーズで、蜷川が手がけたのは32作目まで。晩年、「鋼太郎、ここ芝居つけてよ」と任される場面もあった。「鋼太郎がいたら何でもできるんだよな」と言われたこともある。「役者としてなのか、演出家としてなのかは定かではないけど、蜷川さんがそう言うんだったら……」
演出は30代半ばで始めた。最初は後ろ向きだったが、やり続けて楽しさも大変さもつかめていた。「私でよければ、喜んで」。そんな思いとともに、「シェークスピア、ちょっと待って、俺にやらせて」という
矜持(きょうじ)
もあった。
残された5本全てで演出と出演を兼ね、昨年の「ジョン王」で37作を完遂。7日、満を持して立ち上がる新シリーズの皮切りには、「一丁目一番地」のハムレットを選んだ。物語やテーマを理解すれば、それなりのものは出来上がる。「これで十分面白いじゃん」。でも、もう一人の自分が叫ぶ。「これじゃ、いかん」と。「理屈じゃない部分。そこへいく大変さがある」 タイトルロールを演じるのは、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」での熱演や、読売演劇大賞優秀男優賞受賞で勢いに乗る柿澤勇人。吉田は稽古冒頭、自身が思うハムレット像を柿澤にたたき込んだ。だが、少し稽古が進んだ頃、「自由にやってみよう。やっているうちに見つかるから」と声をかけた。「演出家に言われた通りに動く芝居ほど面白くないもんはないですよ、役者にとって」。信頼の証しでもあった。
王である父親が毒殺されたと聞き、
復讐(ふくしゅう)
を決意するハムレット。そこへ向かう心がどう動いていくのか。柿澤が悩む姿を見て、これまで重きを置いていなかったせりふが、芝居のうねりのポイントになるとひらめいた。「追い詰められて、限界の先に出た魂の叫び。そこから生まれる世界がある」。何度も挑んできた芝居でも、発見は尽きない。
こよなく愛してきたシェークスピア劇だが、まだ日本には浸透していないと思っている。「俺のライフワーク。でも、それじゃダメ」。芸術監督として、もう自分だけのものではなくなった。「劇場をどう活性化させていくか。どうやってシェークスピアを万人のものにしていくのか」。新たな舞台の幕が上がろうとしている。(武田実沙子)
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