フィリピン海で実施された多国間演習「ヴァリアント・シールド2026」で共同航行する米海軍と海上自衛隊の艦艇(2026年6月21日、写真:米海軍)

台湾東方に現れた3隻の中国船、その前に起きていたこと

 台湾の東側、太平洋に面した海域で、中国の動きが変わり始めている。

 10月8日付のロイター通信は、8月中旬、台湾東方で中国海警船、海上民兵とみられる漁船、調査船の計3隻が確認されたと報じた。

 台湾の民間航空事業者Apex Aviationによる監視報告に基づくもので、海上民兵とみられる船舶が台湾東方で確認された事例としては、知られている限り初めてだという。

 わずか3隻の船舶が、それほど重大な意味を持つのだろうか。

 その疑問に答えるためには、少し時間をさかのぼる必要がある。

 2026年6月6日夜、中国交通運輸部は台湾東方の海域で「海上交通法執行活動」を開始したと発表した。

 これに対して台湾海巡署は、中国には台湾東方海域で管轄権を行使する権限はないと反発した。

 翌7日には、中国の海事当局などの公船4隻が台湾南方の海域を航行し、午後2時5分には台湾最南端の鵝鑾鼻(がらんび)の南西約30海里で、台湾側が設定する制限水域に進入した。

 台湾海巡署によれば、台湾側は巡防艦「高雄」などを派遣し、中国公船と一対一で並走しながら監視するとともに、無線などで退去を要求した。午後5時30分には、4隻すべてを制限水域の外へ退去させた。

 さらに中国側は6月8日、海巡09、海巡08、東海救113の3隻が初めて台湾東方海域に入り、法執行活動を実施したと発表した。

 こうした動きは、その後も続いた。

 6月16日から18日にかけては、中国自然資源部の調査船「向陽紅22」が台湾東方海域で「海洋環境調査」を実施した。台湾の中央社による7月23日付報道によれば、同船は一時、台湾側の制限水域に進入し、台湾海巡署が警備船を派遣して対応した。

 ここで注目したいのは、中国が台湾東方の海域で「法執行」を掲げるだけでなく、「海洋環境調査」という異なる名目でも活動を広げていたことである。

 続く7月17日から23日には、中国の漁業研究機関に所属する調査船「藍海201」が、台湾東方の海域で漁業資源調査を実施したと中国側が発表した。

 台湾の中央社による7月23日付報道によれば、台湾海巡署は同日午後2時30分時点で、調査船「藍海201」が台湾南東沖の蘭嶼から東北東約53海里の海域を北上していたと発表した。海巡署は巡防艦「蘭嶼」による監視を続け、中国側が台湾東方海域に管轄権を主張することを認めない立場を示した。

 そして8月には、海警船、調査船に加え、海上民兵とみられる漁船が同じ海域で確認されたのである。

 もちろん、これらが単一の作戦計画に基づいて実施されたと断定できるわけではない。8月の3隻については、台湾政府高官が海上民兵と海警の連携を指摘する一方、監視を実施したApex Aviationは、船舶間の連携や活動目的までは特定できなかったとしている。

 しかし、海上交通の法執行、海洋環境調査、漁業資源調査、そして海警船や海上民兵とみられる船舶の活動という異なる形で、中国側の存在が台湾東方に現れている事実は見逃せない。

 10月10日のロイター通信によれば、米国務省もこうした中国の海上活動について「深刻な不安定化をもたらす」と批判している。

 中国はなぜ、台湾海峡とは反対側にあたる太平洋側へ活動を広げているのか。

 その狙いを考えるうえで、すでに中国海警が台湾船に対して実行した、ある事件が参考になる。

中国海警が台湾の観光船に乗り込んだ日

 2024年2月19日、台湾が実効支配する金門島の周辺海域で、一隻の観光船が中国海警の立ち入り検査を受けた。

 船には乗員11人と乗客23人、計34人が乗っていた。

 中国海警の職員6人が船に乗り込み、航路計画や船舶関係書類、乗員の資格証明書などを調べた。検査は約30分間続いた。

 ロイター通信によれば、台湾側は、この行動が乗客に不安を与えたとして批判した。

 事件の背景には、同じ海域で中国の小型船が台湾海巡署の停船要求を拒んで逃走し、追跡中に転覆して中国人2人が死亡した事故があった。

 中国側はこれを受けて金門島周辺での法執行活動を強化し、台湾側が設定する制限水域も認めない姿勢を示した。

 ここで重要なのは、中国海警が軍艦ではなく、法執行機関として台湾の船舶に乗り込んだことである。

 台湾側から見れば、台湾籍の観光船に対し、中国海警が乗船して検査を実施したこと自体が、中国側による法執行権の拡大を印象づける出来事だった。

 一方、中国側は、それを通常の海上法執行活動として説明できる。

 もし台湾側が実力で阻止すれば、衝突の危険が生じる。かといって、こうした検査が繰り返されれば、中国側が台湾周辺で法執行権を持つかのような状態が広がりかねない。

 そして、この動きは金門島周辺だけにとどまらなかった。

 2024年5月、台湾の頼清徳総統の就任直後に中国が実施した大規模演習「聯合利剣2024A」では、中国海警が台湾本島の東側でも活動した。

 米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)の2024年6月の分析によれば、中国側が公表した映像には、台湾東方の海域で複数の中国海警船が対象船を取り囲み、放水銃を使用する訓練の様子が映っていた。

 対象は中国船籍とみられる船舶だった。ただし、公開された映像では放水が実際に対象船に命中した場面は確認されていない。

 金門島周辺では実際に台湾船を検査し、台湾東方では海警船による対象船の包囲や放水訓練を行った。

 両者に直接の作戦上の連続性が確認されているわけではない。ただ、その約2年後、中国は台湾東方での海上交通法執行活動を表明し、海警船や海上民兵とみられる船舶の活動も確認された。

 中国海警による船舶検査が、決して机上の構想だけではないことは明らかである。

 では、こうした手法が台湾本島の周辺で広がった場合、何が起きるのだろうか。

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