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東京都 総務局総合防災部
2026-09-14
■サッポロビール 総務部 コンプライアンス・リスクマネジメントグループ 入澤英雄リーダー(写真左)
■サッポロビール 内山夕香上席執行役員(写真中央)
■サッポロビール 総務部 コンプライアンス・リスクマネジメントグループ 原島英滋リーダー(写真右)
東京都が運営する「事業所防災リーダー制度」は、都内事業所の防災担当者らに、平時の備えや災害時の緊急情報を届ける取り組みだ。2024年度に事業所防災リーダー優良企業に認定されたサッポロビールは、制度から得た情報を訓練や仕組みづくりに生かし、担当者不在でも動ける体制を整えるとともに、経営層を巻き込んだ防災活動を進めている。
東京・恵比寿にあるサッポロビール本社棟。複数のグループ会社が入り、出社社員や自衛消防隊の顔ぶれも、テレワークなどで変わる同社では、たとえ防災担当者が不在でも、その場にいる人で初動を起こす体制を必要としていた。
防災対応の経験が浅い一般企業が、社内だけで十分な情報や他社事例を得るのは難しく、同社では、信頼できる情報を防災対策に生かすべく、東京都事業所防災リーダー制度を活用している。
同社の事業所防災リーダーを務める入澤英雄氏は、登録時をこう振り返る。
「2023年2月、防災リーダー制度を知り、その日のうちに登録しました。当時はコロナ禍で、それまで止まっていたリアルな防災活動をそろそろ再開しようとしていた時期でした。登録によって、東京都の公式情報や他社事例をワンストップで得られることに大きな魅力を感じました。私たちにとっては、資格や肩書ではなく、情報と行動をつなぐ入り口となっています」
登録後は、自衛消防隊の指名人数を従来の1.5倍に増やし、東京都の情報を訓練や社内説明、マニュアルの見直しに活用した。他社の事例も自社の人数や建物、働き方に置き換え、「当社ならどうするか」を考えた。
避難訓練や帰宅抑制を想定した滞在演習、徒歩移動訓練などを段階的に実施。あらかじめ決められた行動を身に付ける「訓練」と、手順の課題を見つける「演習」を分けて課題を掘り下げた。
15人が本社棟に宿泊した滞在演習では、非常用トイレの運用や名簿作成など、机上では見えない問題が浮かんだ。詳細なマニュアルがあっても、混乱時に自分の担当箇所を探し、すぐ動くのは難しい。
そこで、危機管理教育研究所と長野県飯田市が考案した“その場にいる人の初動期のオペレーションを実現する”「First Mission Box®」の考え方を取り入れた。役割ごとの行動を時系列で記したアクションカードと用紙、物品などをまとめ、防災担当者が不在でも初動に着手しやすくしたのだ。
「詳細なマニュアルは全体のルールや判断基準として残し、アクションカードには、最初に何を確認し、準備し、誰に報告するかを簡潔に記しました。正しい方向に最初の一歩を早く踏み出すためのツールです」と入澤氏。
サッポロビール本社棟では、3~7階の各執務フロアに自衛消防隊のフロア隊を編成。入り口近くの壁面に必要な資機材をまとめ、各階の「First Mission Box」として運用している
経営層を巻き込み
自律する人材と組織を育てる
同社が重視するのは、情報発信、体験、経営層の参加だ。同じく防災活動を推進する原島英滋氏は、体験型訓練の効果を語る。
「役員にも防災体験施設で、水圧によってドアが開かなくなる状況などを体感してもらいました。訓練の様子や役員のコメントをイントラネットで共有すると、『また参加したい』『継続しよう』という声が上がり、全社的な活動として定着する力になりました」。役員が現場を体感することで、経営と現場の温度差が縮まり、改善を全社の課題として進めやすくなった。事業所防災リーダー優良企業認定後は表彰の様子も社内で発信。社外でも同業他社や防災担当者とのつながりが広がった。
アクションカードを発災直後の初動にも広げ、各フロアのリーダーなど役割別の整備を進めている。演習後は課題ごとに責任者と期限を決め、マニュアルなどの改訂後に再検証する。記録も組織に残し、人事異動があっても活動が後戻りしない体制を目指す。
災害対策本部の事務局となる部屋では、詳細なマニュアルや初動に必要な用紙・資機材をキャビネットに集約(写真左)。役割とフェーズごとに、最初に何を確認し、誰へ報告するかを整理したA4サイズのアクションカード(写真右)
現場の取り組みを経営の視点から後押しする上席執行役員の内山夕香氏は、こう語る。
「防災体験施設を訪れ、被害を抑えるために、日頃から先回りして考え、行動を変えることの大切さを実感しました。会社が情報を発信しても、最後は社員一人一人が自分ごととして捉えられるかです。当社は人財戦略でも『自律=指示待ちにならない』『リーダーシップ=他責にしない』を掲げています。自ら考え、行動できる社員を増やすことが、災害時に現場を支えるリーダーづくりにつながります」。同社は全社的リスクマネジメント(ERM)に防災を組み込み、命を守る初動を事業復旧やBCPへつなげる考えだ。
情報を組織の行動に変え
防災を事業継続の力へ
事業所防災リーダー制度の登録者には平時の防災・訓練情報に加え、災害時には地震や気象の緊急情報がメールやLINEなどで届く。社内で複数人を登録でき、防災担当者が不在でも活用できる。原島氏は、制度が社内外にもたらす効果を語る。
「東京都の信頼できる公式情報に継続して触れられ、他社の取り組みから自社の対策を見直すヒントも得られます。行政の制度や他社事例を根拠として示せるため、社内や経営層にも防災の必要性を説明しやすくなります」
入澤氏は、まず登録し、小さな実践から始めることを勧める。「防災やBCPは、一度計画を作って終わりではありません。まずは登録して公式情報に触れる入り口をつくること。最初から完璧なマニュアルや大規模な訓練を目指さず、他社事例を参考に、小さな議論や訓練から始めれば良いのです」。
「地域社会の一員として有事にどのような支援ができるかも考え、社員がそれぞれの持ち場でリーダーシップを発揮できる体制を整えたい」と展望を語る内山氏。
担当者一人に背負わせず、経営層と現場をつなぎ、得た情報を組織の動きに変える。サッポロビールが積み重ねてきた努力が着実に結実を見せている。その背景には、日々の活動の確かな支えとなっている「事業所防災リーダー制度」の存在があるのは間違いなさそうだ。

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