2026/08/25

山形県指導農業士会・押野会長に聞く 夢を描ける農業経営を 若手育成で地域農業支える

 山形県指導農業士会は、地域農業の中心的な担い手で構成され、若手農業者や新規就農者への助言、地域での相談対応、研修会の開催などを通じて、次代の農業者育成に取り組んでいる。県内で認定されている指導農業士は148名。米、果樹、野菜、花き、畜産など多様な品目の農業者が、それぞれの地域で後進の相談相手となっている。山形県農業を取り巻く環境が大きく変化する中、若手農業者の育成や定着、地域農業の維持は重要な課題となっている。山形県指導農業士会の押野和幸会長に、同会の活動や若手農業者への思い、山形県農業の今後について聞いた。

  ――若手農業者の育成について、どのように考えていますか。
 「技術を教えることはもちろん、若い世代が「農業を続けたい」と思える環境をつくることが重要だと考えています。そのためには若い人材に長く働き続けてもらう仕組みづくりが大切です。結婚や住宅取得、子育てといったライフステージを迎えたときに、それに見合う待遇ができるかが農業経営の課題です。雇用している場合は、人材を単なる労働力ではなく、将来の経営を支える存在として育てていくことが必要です」
  ――若い世代に農業を魅力ある仕事として感じてもらうために、何が必要ですか。
 「若い社員に対して将来の夢を語れる経営者であることを心掛けています。
 20年先に会社をどうするか、将来の夢を話します。農業では「厳しい」「苦しい」という言葉が枕詞のようになりがちですが、それでは若い人は農業に魅力を感じにくいのは当然です。若い人が真似したいと思える、かっこいい農業の姿を見せることが大切です」
  ――押野会長の農場では、若い世代がどのように関わっていますか。
 「自身の農場では、娘2人が就農し、1人は役員としても経営に参画しています。役員3人、社員6人の体制で経営する中、若い世代も中心となってデータ活用や経営改善に取り組んでいます。KSASや衛星データなどを活用し、圃場ごとの生育状況や収量データの「見える化」を進めるなど、デジタル技術を取り入れた先進的な農業を実践しています。こうした取り組みは、若い世代が農業に可能性を感じ、将来を描くための一つの形にもなっています」
  ――山形県指導農業士会では、どのような活動を行っていますか。
 「若手農業者の育成に加え、毎年、県内の指導農業士が集まる研修の場として「山形農業フォーラム」も開催しています。今年2月は、”農業と地球が教える挑む暮らし”を題目に、農業者であり北極海を横断した冒険家・大場満郎氏の講演を聞きました。農業以外の視点で聞くことも大事です。その後、会員同士で生の情報を交換する場ともなっています。各地域で高い技術を持つ農業者が一堂に会し、農業の枠を超えた話題や新たな視点に触れることが、自らの経営や地域農業に生かすきっかけになっていると思います」
  ――山形県農業の今後の課題をどのように見ていますか。
 「課題は、中山間地域農業と果樹産業で深刻です。中山間地域は、クマやイノシシなどの鳥獣被害に加え、効率化が難しい条件不利地です。国や自治体による支援があっても、農業の継続が難しくなる地域が出てくる可能性があるとみています。わたし自身も農地を引き受けていますが、クマなどの危険な場所には社員を行かせられません」
  ――果樹産業については、どのような課題がありますか。
 「山形では果樹栽培は重要な産業ですが、手作業が中心で、多くの労働力を必要とします。雇用を確保できなければ経営の維持や規模拡大が難しくなり、高齢化が進む中で生産量の減少につながる可能性があります。果樹産地にとって、人材確保はますます大きな課題になります」。  ――スマート農業については、どのように考えていますか。
 「スマート農業は、おしの農場にとっても欠かせない技術の一つです。一方で、すべての農家に必要なわけではありません。規模や経営内容によって必要な技術は異なり、導入すれば必ず利益が出るものではありません。重要なのは、自らの経営に合った技術を選び、得られたデータをどう利益や収量向上に結び付けるかです」
  ――現在、特にチャレンジしていることは何ですか。
 「データを経営改善や収益向上に結び付けることです。おしの農場では約10年にわたり営農データを蓄積してきました。KSASや衛星データを活用し、圃場ごとの収量や品質を把握できる環境を整えています。ただ、データを取ることはできても、それをどう利益に結び付けるかが難しい。例えば、収量が少ない圃場があった場合でも、その原因は肥料不足だけではありません。水管理や雑草の発生など、複数の要因が関係しています。そのため、蓄積したデータを社員とともに分析し、現場で検証を重ねながら改善につなげることが重要です。直播栽培の拡大とも併せ、データを収益向上に結び付ける仕組みづくりに取り組んでいます」
  ――米価の変動など、厳しい経営環境をどう受け止めていますか。
 「米価が下がったら下がったなりに、前向きに楽しみながら仕事ができるようなことを考えたいです。厳しい状況を嘆くだけではなく、その中で新しい取り組みを考えることが大切。農業は苦しいから何とかしてほしいと国にお願いしてばかりではダメ。環境変化を受け止めながら、自ら工夫し、新たな挑戦を続けることが農業経営には必要です」
  ――今後、どのような農業機械や技術に期待していますか。
 「(娘が言っていたが)事務所にいながら農場全体を管理できるようになれば理想的。衛星データを活用した遠隔管理や自動化技術がさらに進めば、人手が少なくなっても農場全体を効率的に管理できる可能性があります。また、近年は夏場の暑さが厳しくなっていることから、田植機にもエアコンが欲しいです」
  ――山形県農業の将来をどのように見ていますか。
 「人が少なくなることは間違いありません。でも将来を悲観してはいません。人手が減る中でも、機械化やロボット化、データ活用によって新しい農業の形が生まれる可能性があるからです。周りの若い経営者を見ていると、みんな楽しみながら農業をしている。彼らをみていると未来は明るいなと思います」
  ――最後に、若い世代へメッセージをお願いします。
 「これまで受け継がれてきた技術や経験は大切だが、思い切って面白いことをしてほしいと思います。大規模経営に挑む若い農業者や、従来の枠にとらわれない発想を持つ経営者が現れています。今は面白い人がたくさん出てきている。これからどんな農業になるのか見てみたいです」。
     ◇
 押野会長の言葉には、次代を担う若手農業者への期待と、農業の未来への前向きな思いが込められていた。

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