気候変動、急激な人口増加、都市化、産業の拡大、淡水資源への負荷の増大により、世界では数十億人が水不足に直面している。国連によると、今なお20億人以上が安全に管理された飲料水を安定して利用できず、長期化する干ばつと地下水資源の減少が世界各地の地域社会を脅かし続けている。|英語版|ロシア語|
Roman Yanushevsky
イスラエルほど、この課題を切実に理解している国は少ない。世界有数の乾燥地域に位置する同国は、安定した水供給を確保する方法を数十年にわたり模索してきた。国としての必要性から始まった取り組みは、やがてイスラエル最大の技術的成功の一つへと発展した。科学研究、工学、起業家精神への継続的な投資を通じ、イスラエルは水資源に乏しい国から、世界をリードする水技術イノベーションの拠点の一つへと変貌した。
今日、イスラエルのスタートアップ企業は、政府、自治体、産業界、農家が水をより効率的に管理するための技術を開発している。そのソリューションはイスラエル国外でも採用が広がり、世界各地の持続可能な水管理に貢献している。
先進的な膜技術で海水淡水化を刷新
世界の水安全保障に対するイスラエルの大きな貢献の一つが、海水淡水化と水浄化に用いる膜技術の高度化である。この分野では、VP Membrane Technologiesが技術開発を進めている。
新世代のろ過膜は、従来型のろ過システムより少ないエネルギーで、塩分、細菌、ウイルス、重金属、微細な汚染物質を除去できる。海水淡水化の効率化と低コスト化が進めば、慢性的な水不足に悩む国々は、安全な飲料水の新たな供給源を確保できる。
イスラエルの技術者は、膜の寿命を延ばし、ろ過能力を高め、運用コストを削減するため、性能の向上を続けている。こうした技術革新により、大規模な海水淡水化の採算性は高まりつつある。とりわけ、気候変動による深刻な淡水不足に直面する地域にとって、その意義は大きい。
水道網をスマート化
清潔な水をつくることは、課題の一部にすぎない。世界では、配水網からの漏水によって、処理済みの水が毎日大量に失われている。多くの都市ではインフラの老朽化により、飲料水の20~40%が利用者に届く前に失われている。
イスラエルのスタートアップは、人工知能(AI)、衛星画像、クラウドコンピューティング、高性能センサーを組み合わせ、スマートな水管理システムを構築している。これらの技術は水道網を常時監視し、見えない漏水箇所を特定するとともに、配管の破損を予測し、配水システム全体の水圧を最適化する。
これにより、水道事業者は配管が破裂してから対応するのではなく、問題を早期に発見できるようになった。水の損失と維持管理費を抑えながら、公共水道の安定性を高めることが可能となっている。
より少ない水で農業生産を拡大
農業は今なお世界最大の淡水利用部門であり、世界の水使用量の約70%を占める。気候変動が農業生産への圧力を強めるなか、灌漑効率の向上は不可欠となっている。
イスラエルの技術革新は、近代的な点滴灌漑の発明に始まり、今日のデジタル農業技術に至るまで、長年にわたり精密灌漑と深く結びついてきた。現在、スタートアップ各社は土壌センサー、気象予報、衛星画像、AI、モノのインターネット(IoT)機器を組み合わせ、作物がいつ水を必要とし、どれだけの量を与えるべきかを正確に判断している。
こうしたスマートシステムは、あらかじめ決められた灌漑日程に従うのではなく、変化する環境条件に応じて動的に対応する。その結果、農家は水の使用量、肥料の投入量、エネルギーコストを大幅に削減しながら、収穫量を増やすことができる。
排水を貴重な資源に変える
イスラエルのスタートアップが大きく貢献しているもう一つの分野が、排水の再利用である。
イスラエルの技術者は、排水を単なる廃棄物ではなく、新たな水資源と捉えている。新たな処理技術により、自治体や産業施設から出る排水を安全かつ効率的に再生し、農業、製造業、その他の非飲用用途に利用できるようになった。高度な処理システムの中には、間接的な飲用再利用を可能にし、利用可能な淡水資源をさらに広げるものもある。
この手法は、河川、湖沼、帯水層への負担を軽減するだけではない。水を環境に戻すまでに繰り返し利用する「水の循環型経済」への移行も後押しする。
空気から飲料水をつくる
イスラエルが生み出した最も革新的な技術の一つが、大気中の湿気から飲料水を直接取り出す大気水生成システムである。
高度な凝縮技術と高効率の冷却システムを用い、大気中の水分を清潔で安全な飲料水に変える。従来型の給水インフラを必要としない点が特徴だ。こうしたシステムは、遠隔地の地域社会、被災地、人道危機の現場、軍事活動、既存の水供給が不安定または利用できない地域で、とりわけ大きな価値を持つ。
気候の変動が激しくなるなか、大気水生成は、脆弱な立場に置かれた人々に飲料水を供給する補完的な手段として、今後さらに重要になる可能性がある。
デジタル技術が水管理を変革
Photo credit: UNESCO
AIは、水循環のあらゆる段階を変えつつある。イスラエルのスタートアップは、貯水池、ポンプ場、処理施設、パイプライン、産業施設に設置された数千のセンサーからデータを集約できるクラウド型デジタルプラットフォームを開発している。これらのプラットフォームは、水質を常時監視し、需要を予測するとともに、ポンプの運転を最適化し、エネルギー消費を抑え、業務効率を高める。
膨大な運用データを実務に生かせる知見へと変えることで、デジタル水管理は、水道事業者による迅速で的確な意思決定を可能にし、重要インフラの強靱性も高めている。
世界に変革をもたらすイスラエルのスタートアップ
イスラエルの水技術産業には、水管理のほぼあらゆる分野で事業を展開する数百社の革新的企業が集まっている。
国際的に知られる代表的企業の一つがIDE Technologiesである。同社の海水淡水化・水処理施設は、世界の数百万人に清潔な飲料水を供給している。近代的な点滴灌漑の先駆者であるNetafimは、100カ国を超える国々で、水を節約しながら農業生産性を高める取り組みを支援し続けている。
新興のテクノロジー企業は、デジタル技術によってこうした成果をさらに発展させている。WINT Water IntelligenceはAIを用い、商業ビルや産業施設内の漏水を検知して水使用量を監視する。Utilisは衛星技術を活用し、通常は見つけることができない地下の漏水を特定する。Watergenは、大気中の湿気から飲料水をつくる装置を開発した。Aquarius Spectrumは自治体の水道システムを対象とした音響式漏水検知を手がけ、KandoはAIを排水監視と下水道網の管理に応用している。BlueGreen Water Technologiesは、有害な藻類の異常発生を抑え、淡水の水質を改善する環境配慮型の生物学的ソリューションを開発している。
これらの企業は、イスラエルの起業家精神が工学、環境科学、ロボット工学、AI、デジタル技術を結集し、人類が直面する最も切迫した課題の一つに挑んでいることを示している。
国連の持続可能な開発目標への貢献
SDGs
イスラエルの水関連スタートアップの取り組みは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の複数の目標と密接に結びついており、技術革新が世界の持続可能な開発にいかに貢献できるかを示している。
最も直接的に貢献するのが、SDG 6「安全な水とトイレを世界中に」である。この目標は、安全な飲料水への普遍的なアクセスの確保、水質の改善、排水再利用の拡大、水資源の効率的な利用を掲げている。海水淡水化技術、高度なろ過システム、排水の再利用、スマートな漏水検知はいずれも、こうした目標の達成に直接寄与する。
精密灌漑やスマート農業技術によって、より少ない水で多くの食料を生産できるようにすることは、SDG 2「飢餓をゼロに」の推進にもつながる。
水管理のための高度な工学的ソリューション、デジタルインフラ、AIを開発するイスラエル企業は、強靱なインフラの整備と持続可能な産業発展を促すSDG 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献している。
都市の水道網のスマート化はSDG 11「住み続けられるまちづくりを」に寄与し、廃棄物を減らして資源効率を高める技術はSDG 12「つくる責任 つかう責任」の達成を後押しする。
気候変動によって干ばつが深刻化し、降雨パターンが乱れるなか、効率的な水技術はSDG 13「気候変動に具体的な対策を」でも重要な役割を果たす。ますます厳しさを増す環境条件に、地域社会が適応するのを支えるためである。
さらに、イスラエル企業は世界各地の政府、国際機関、研究機関、水道事業者、民間企業と積極的に連携している。知識、技術、専門性の移転を通じ、SDG 17「パートナーシップで目標を達成しよう」**の推進にも寄与している。
今後の展望
世界の水危機は、今後数十年でさらに深刻化するとみられる。人口増加、気候変動、都市の拡大、産業用水需要の増大により、淡水資源にはかつてない圧力がかかる。こうした課題に対応するには、新たなインフラだけでなく、絶え間ない技術革新も欠かせない。
イスラエルの経験は、天然の水資源に乏しい国でも、科学、起業家精神、工学に投資することで、世界のリーダーになり得ることを示している。海水淡水化、膜技術、精密灌漑、排水再利用、AI、大気水生成の進歩を通じ、イスラエルのスタートアップは世界の水管理の未来を変えつつある。
これらの技術革新は、水の安全保障を向上させ、気候変動への強靱性を高め、持続可能な農業を支え、世界で最も不可欠な資源の一つである水を数百万人が利用できるよう後押ししている。イスラエルのスタートアップは、今日の水問題に取り組むだけでなく、国連のSDGsに沿った、より持続可能で強靱な未来の構築にも貢献している。
UN Photo
This article is brought to you by INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan
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