米カリフォルニア州サンフランシスコのインナーリッチモンド地区にある7-Eleven店舗。ガソリンスタンドの「76」に併設されている

セブン&アイ・ホールディングス(以下セブン&アイ)、セブン-イレブン・ジャパン、ソフトバンク、PayPay、LINEヤフー、三井住友カードの6社は7月31日、戦略的パートナーシップの下で国内セブン-イレブン2万軒以上の店舗網とPayPayの持つ7,500万人以上のユーザーを掛け合わせ、AIを活用した次世代の顧客体験を創出していくことで合意した。

この基盤開発にあたり、セブン&アイ、ソフトバンクとPayPay、三井住友カードの3社がそれぞれ1,000億円を拠出し、総額3,000億円の資本提携契約を結んだ。

既報の通り、この提携でまずポイントとなるのはセブン&アイのグループが利用する「7iD」をPayPayのIDへと統合することにある。その過程で、これまで外部のポイントプログラムを受け入れてこなかったセブン-イレブンが、PayPayポイントとVポイントを採用することになり、実質的にデジタル開発や送客面でソフトバンク傘下の企業ならびにその提携パートナーを巻き込んだ一大アライアンスを構成する。

だが今回注目したいのは、こうした国内の動きよりもPayPayが7月31日(米国時間)に開催した同社会計年度で2026年度第1四半期決算で述べた「グローバル展開に向けた戦略」の部分だ。

PayPayはセブン-イレブンとの提携で同社の決済システムを2021年からセブンアプリ内に搭載しているが、今回の発表でID統合やポイントプログラムの採用にまで踏み込んでおり、セブン-イレブン・ジャパンのデジタル決済アプリの基盤を実質的に担うことになる。

これを踏まえ、すでに米国進出を表明している同社が“海外コンビニ事業”への参入をほのめかしており、セブン&アイとの提携はその足がかりになると考えているようだ。だが実際にこうした挑戦の難易度はどうなのだろうか? 「海外のセブン-イレブン(7-Eleven)事情」についてまとめてみた。

セブン&アイとの提携を足がかりに米国ならびに海外コンビニ事業を通じたグローバル展開を模索するPayPay米7-Elevenのロイヤルティプログラム「7REWARDS」

米国7-Elevenで展開されているのがポイントプログラムの「7REWARDS」だ。2015年にスタートしたこのロイヤルティプログラムは段階的に拡張され、現在はスナックや飲料等を購入するごとにポイントが付与されて商品の無料交換や割引購入に使えたり、店舗名にちなんだ毎年7月11日になるとフローズンドリンクの“Slurpee”と引き換え可能なクーポンが提供されるといった特典がある。

この7REWARDSは7-Elevenアプリを通じて提供され、アプリでは「7-Eleven Wallet」「Mobile Checkout」といった機能が利用できる。7-Eleven Walletはコード決済形式の独自ウォレットで、残高を店頭での現金受け渡しによるチャージのほか、クレジット/デビットカードやApple Pay等のモバイルウォレット経由でのチャージが可能。この独自ウォレットを使うメリットとしては、7REWARDSの付与ポイントが3倍になるインセンティブが存在することで、積極的にアプリ利用を促す仕掛けとなっている。

Mobile Checkoutは店内で商品のバーコードをアプリを導入した手持ちのスマートフォンでスキャンすることでセルフチェックアウトを可能にするもので、レジに並ぶことなくそのまま退出できる。米国7-Elevenを体験したことがある方は分かるかもしれないが、小さな店舗では時間帯によって店員がほぼ“ワンオペ”で店をまわしており、レジ渋滞が発生することも少なくない。そうしたストレスを軽減して素早く会計できる仕組みとしてMobile Checkoutは存在している。

7REWARDSの紹介ページ。リンクからアプリをダウンロードできる

もう1つ、米国の7-Elevenならではの特徴を示しているのが7REWARDSの公式ページにもある「Fuel Savings」の部分だ。現在米国に7-Eleven店舗は約1万2,000軒あるが(2021年に買収が完了した米Speedway店舗を含む)、このうちの約6割ほどがガソリンスタンド併設店舗となっている。米国のコンビニエンスストアはもともとガソリンスタンド併設型の小売店が中心だったという背景があり、コンビニの8割以上が併設型だといわれる。

他方で7-Elevenは都市型店舗も多数出店しているためその割合はやや低く出ているが、これが顧客層やその買い物行動に大きな影響を与えていることは非常に重要なポイントだ。

7REWARDS経由での給油により、1ガロン(約3.79リットル)あたり11セントの割引が適用される。また7REWARDSでは7-Eleven Gold Passという月間9.95ドルのサブスクリプションサービスも提供しており、これを利用するとフリードリンクサービスのほか、さらに追加で1ガロンあたり5セントの割引が適用されるという特典がある。日本でいえばフリードリンクや商品の無料引き換えがロイヤルティプログラムの定番だが、米国ではその勧誘要因がガソリンスタンドにあるというのは車社会の国らしい。

冒頭に紹介した7-Eleven店舗も典型的なガソリンスタンド併設店米7-Elevenの金融サービス

そして米国7-Elevenでは金融サービスも提供している。代表的なものが「Transact by 7-Eleven」で、銀行口座代替となる給与の預け入れ(Deposit)やモバイルアプリによる残高管理や送金、ATMでの現金引き出し、そしてこれらサービスを利用するためのMastercardプリペイド機能だ。この残高はFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation:連邦預金保険公社)による保護対象にもなっている。

このサービスがカバーする対象は主に2つだ。1つは米国で銀行口座を持たない「Unbanked」や口座を持っていても他の代替サービスを主体とする「Underbanked」と呼ばれる層で、全米で2割ほどがこの層に該当するとされており、7-Eleven店舗やそのATMを介して金融サービスを利用できるようにする狙いがある。もう1つは未成年を中心とした層で、例えば親が子供に対してTransactのプリペイドカードやアカウントを渡し、それをペアレンタルコントロールで管理するといった使い方を想定する。クレジットカードなどと違って残高を超えた利用はできないうえ、親がある程度管理可能という点で、“第2の金融サービス”としてアピールが行なわれているわけだ。

Transact Family by 7-Elevenのページ

もう1つ、米国における7-Elevenの金融サービスにおいて重要なのがATM戦略だ。筆者が米国に住んでいた2000年代のころ、米国7-Elevenに設置されていたATMはCitibankブランドのものだった。(後期に)同ATMを運営していたのは米Cardtronicsで、2007年に米7-Elevenの金融・ATM事業を買収する形で同店舗内でのATM設置や運営の10年間の独占契約を結んでいる。

転機が来たのが2012年のセブン銀行によるFCTI(Financial Consulting & Trading International, Inc.)の買収で、その後、2017年にやってきたCardtronics社との独占契約終了に伴い、FCTIの実質的な親会社であるセブン&アイが米国7-Eleven店舗のATM事業者に変更している。2017年から2018年にかけて順次CardtronicsベースのATMはFCTI製のものへと置き換えが進み、最終的に自社グループでATMを含めた運用体制が確立した。これにより、他社からのATM供給で単なる“場所貸し”のビジネスに留まっていたのが、自社で戦略的にATMを金融戦略の一環として組み込むことが可能になった。

これにより可能になったのがATMを通じた銀行口座サービスだ。セブン銀行のプレスリリースでも紹介されているが、「TAPT Debit」と「TAPT Money」というサービスが2023年に米フロリダ州で試験的に提供されている。

TAPT Debitはいわゆるモバイル金融サービスで、アプリを通じて複数の銀行口座をリンクさせつつデビットカードの機能も提供される。TAPT Moneyは小額融資サービスで、この機能を使って借り入れと返済を繰り返すことでクレジットスコアを上昇させられるなど、次の段階にあたるクレジットカード等の利用につなげることが可能だ。いずれも、前出のUnbankedのような銀行口座を持たない、あるいは使わない層であったり、クレジットスコアが低くカードが作れない若年層をターゲットにしている点で特徴がある。

セブン銀行が2023年に出したプレスリリース

いずれにせよ、米7-ElevenはSpeedway買収によって全米に店舗網が拡大しており、従来までは単なる現金引き出し機だったATMを預け入れやモバイルアプリ連動も可能な高機能型のものに置き換えが進んだことで、7-Eleven店舗を介して高度な金融サービスを提供できるようになった点は大きいと考える。

PayPayの米国(ならびに他の海外諸国)における勝ち筋

このように、米7-Elevenが提供している(あるいはこれからしようとしている)金融サービスは米国ならではの事情に根付いた仕組みだということが分かる。PayPayはセブン&アイとの提携を機に今後は米国進出の足がかりとして米国7-Eleven店舗を活用することになると思われるが、現在日本で提供しているようなサービスがそのまま入る余地があるのだろうか?

米国では金融サービスが2極化しており、クレジットカードを保有できる層は高還元が期待できるプレミアムカードを積極的に使い、そうでない層は今回の7-Elevenが提供していた一連のUnbankedや若年層向けのサービスでデジタル金融に触らせるといった具合に分断がある。

前者について、米国では高還元を主体としたクレジットカードはインターチェンジフィーが高い傾向にあり、カードを発行する銀行各社はこれを元手に高還元でのキャッシュバックを可能にしている。この高い決済手数料を払うのはカードを使われる小売店各社であり、だからこそ7-Eleven Walletであったり、WalmartやTargetといった大手小売チェーンが独自決済アプリを提供してクレジットカードではなく自社ウォレットやデビットカード経由での支払いへの誘導を強く推進する原動力となっている。

おそらく、PayPayはそのままでは高還元と低所得層向けのどちらのサービスも競合することは難しいだろう。送金サービスについても、米国ではCash AppやVenmoといったライバルが存在するほか、銀行送金であればZelleというモバイルアプリに特化したサービスも存在する。そのため、最初の“取っかかり”を得るのが最大の難関だと考える。仮にあるとすれば、前述のFCTI等を介したATMを絡めての金融サービスが可能性として大きいかもしれない。

米カリフォルニア州サンフランシスコに“あった”7-Eleven店舗。アドレスが「711 Market St」で、ほぼ住所だけを目当てに設置した店舗のように思える(現存せず)

もう1つ、ロイヤルティプログラムの力点をどこに置くかという課題もある。7-Elevenの場合は都市型店舗でスナックや飲料の販売に特化し、ロードサイド店はガソリンスタンド利用客向けのサービスが中心となる。これは日常的な買い物を主体としたWalmartやTargetとは客層が異なり、だからこそ7-Elevenはフリードリンクやガソリン給油の割引といった部分に活路を見出している。

これはもしPayPayが7-Elevenの枠を越えて横展開しようと考えた時に、客層や目的の違いがネックとなる。他方でアイデアとしては、ガソリンスタンド併設を武器にUber配達員のようなギグワーカーや輸送トラックドライバーといった車の利用層を積極的に取り込む施策も考えられるだろう。ターゲットを絞ったうえで何らかのインセンティブを用意し、積極的にそうした層を誘導するわけだ。幸い、こうした層は「現金利用」「ATM」「代替口座サービス」といった部分と相性が良く、足がかりとしては悪くないと考える。

では、米国外に目を向けるとどうだろうか。台湾やタイなどは独自のロイヤルティプログラムや金融サービスを提供しているなど、7-Elevenは全体に地域独自の展開を進めている。その意味で、やはりPayPayが諸外国に進出するのであれば、地域ごとに細かく戦略を変えていく必要がある。

ここで興味深いのがATM戦略だ。セブン銀行が記事を公開しているが、主に東南アジアにおいて7-Eleven店舗におけるATM展開が大きなビジネスになっている。セブン銀行では米FCTIをはじめ、インドネシアやフィリピン、マレーシアにATM子会社を抱えており、コンビニATMを通じて金融サービスや公共サービスの窓口を提供しているが、これは新興国ではUnbankedの比率が高く銀行サービスにアクセスできる層が少なかったり、あるいは近所に便利な銀行窓口がないという事情による。

特に注目したいのがインドネシアで、2017年に7-Elevenは現地の法規制や競合との競争に敗れて撤退しているにもかかわらず、ATM事業だけは残り、むしろ成長を続けている。7-Eleven店舗がないため他のコンビニチェーンや商業施設に場所借りするスタイルだが、地域やターゲットしだいでは金融サービスのニーズが根強いことの証左だろう。

セブン銀行のATM海外事業

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