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2026.08.05


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インド中銀は様子見姿勢維持、予防的利上げに慎重で「データ」確認へ
~為替安定化策で「時間稼ぎ」により景気に配慮も、「金融政策の遅れ」に陥るリスクも~



西濵 徹



要旨

インド準備銀行(RBI)は、8月会合で政策金利(レポ金利)を4会合連続で5.25%に据え置き、政策スタンスも「中立」を維持した。原油価格や食料価格の上昇を背景にインフレ圧力は強まっているものの、価格上昇は主にエネルギー・食料に限定され、広範なインフレには至っていないとの認識から、追加利上げを急がずデータを見極める姿勢を継続している。

モディ政権は燃料価格引き上げや燃料需要抑制策などへ政策を転換し、為替・財政への懸念にも対応を進めている。こうしたなか、RBIは2026-27年度の成長率見通しを6.7%に小幅に上方修正し、インフレ率見通しを5.0%へ小幅に下方修正したが、イラン情勢による原油高、スーパーエルニーニョによる食料価格上昇、通貨安などをリスク要因として挙げた。

RBIは6月会合で為替安定策を発表、政府も同様の政策を発表するなどルピー相場の下支えを図り、景気への悪影響を避けるため「予防的利上げ」には慎重な姿勢を維持している。しかし、インフレ圧力が今後強まれば、金融政策の対応が後手に回り、将来的に大幅な利上げを迫られるリスクが残ることには注意が必要であろう。




目次






インド準備銀行(RBI)は、8月3~5日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるレポ金利を4会合連続で5.25%に据え置くことを決定した。インドは原油需要の約9割を輸入に依存しており、イラン情勢の悪化による原油高は対外収支の悪化に加え、物価上昇を招くことが懸念された。米国とイランによる停戦合意を受けて原油高が一服し、エネルギー価格の上昇圧力が後退しているものの、6月の卸売物価上昇率は前年比+9.87%と約4年ぶりの高い伸びとなるなど、川上段階においてはインフレが顕在化している(図1)。

図表図表

こうしたなか、モディ政権は国民にパニック買いを控えて節約を呼び掛ける一方、景気への悪影響に配慮してガソリンや軽油の価格を据え置き、国営石油公社が損失を吸収して供給を維持した。米国による関税引き上げによる影響緩和を目的に、2025年9月にGST(財・サービス税)の実質引き下げに動いたことも重なり、インフレ率はRBIが定めるインフレ目標(4±2%)のレンジ内で推移してきた。しかし、金融市場ではこうした政策運営が財政悪化など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を脆弱にするとの懸念を招き、ルピー相場は最安値を更新し、輸入物価の押し上げがインフレを引き起こすことが警戒された。このため、モディ政権は5月、国民に在宅勤務の励行や公共交通機関の活用による燃料需要抑制、海外渡航や金購入の自粛による外貨準備の防衛を呼び掛けたほか(注1)、ガソリンや軽油の価格を段階的に引き上げるなど、政策転換に舵を切った。背景には、4月に実施された地方選挙において、モディ政権を支える与党BJP(インド人民党)が勝利を収めるなど政権基盤の強化が図られたことがある。一方で、エネルギー価格の上昇などを背景に、6月のインフレ率は前年比+4.38%と目標レンジの中央値を上回る伸びに加速している(図2)。

図表図表

先行きについては、イラン情勢の不透明さがエネルギー価格の高止まりを招くほか、スーパーエルニーニョの発生によるモンスーン(雨季)の雨量不足や干ばつとなる可能性が高まっており、化学肥料価格の高止まりも重なる形で農業生産の低迷が食料インフレを引き起こすなど、生活必需品を中心とするインフレが警戒される。アジアの中銀のなかにはエネルギー価格の上昇や通貨安に対抗すべく「予防的利上げ」に動く流れが広がっている。しかし、RBIは6月の前回会合でこうした姿勢と距離を置く考えを示すなど様子見姿勢を維持しており、今回も同様の対応をみせたと考えられる。

会合後に公表した声明文では、政策金利とともに、政策スタンスも「中立」を維持するとしたうえで、決定は「全会一致」であったことを明らかにした。世界経済について「金融市場の変動やインフレ懸念の継続、政策期待の変化に揺さぶられている」とした。そのうえで、「イラン情勢の行方やそれに伴う原油価格の変動、インフレ期待の根強さ、脆弱な財政状況が下振れリスクをもたらす」との見通しを示した。

一方で、同国経済については「世界的な逆風のなかでも強靱さが続いている」として、「4-6月の景気は内・外需ともに堅調さがうかがえる」との見方を示した。ただし、先行きは「世界経済の変化が国内景気に一定程度影響を与える可能性が高い」として、「エネルギー価格の高止まりとサプライチェーンへの不確実性は高く、スーパーエルニーニョによる悪影響も懸念される」とする一方、「政府の取り組みが影響を緩和すると期待される」とした。また、「サービス業の拡大は輸出を下支えする」とした。その結果、2026-27年度の経済成長率について「+6.7%」と従来見通し(+6.6%)からわずかに上方修正したうえで「リスクは上下双方に均衡している」との見方を示した。

物価動向については「足元の上昇は食料やエネルギー価格の上昇によるもの」とし、先行きは「スーパーエルニーニョの影響がリスク要因になる」との見方を示した。しかし、政府による供給管理と食料在庫が緩衝材になり得るとしつつ、「食料やエネルギーのほか、投入価格の上昇が広範なインフレ圧力を招くリスクは残る」とした。その結果、2026-27年度のインフレ率は「+5.0%」と従来見通し(+5.1%)からわずかに下方修正したうえで、「リスクは上下に均衡している」との見方を示した。

足元の物価動向について「足元の物価上昇は食料品とエネルギーによる」として、「価格転嫁の動きが限定的で想定をわずかに下回った」としたうえで「インフレ圧力が広範に及んでいる兆候はほとんどない」との見方を示した。景気動向についても「足元では底堅いが、先行きは鈍化が予想される」としつつ「見通しは不透明である」との見方を示した。政策運営について「対応を講じる前に物価動向についてより明確な状況を確認する必要がある」としつつ、先行きは「景気と物価動向に応じて政策を再調整する必要がある」とした。そのうえで、今回も様子見姿勢を維持した。RBIは、ダス前総裁の下で物価安定と景気下支えのバランスを重視する対応をみせてきた。背景には、ラジャン氏、パテル氏と2代連続で独立性を巡る問題を理由に事実上の退任に追い込まれ、政府との関係にも配慮し、景気下支えを意識せざるを得ない状況となったことがある。2024年12月に就任したマルホトラ現総裁もダス氏と同様の政策スタンスを維持しており、景気の不透明感が高まるなかで下支えを意識した判断を重視していると考えられる。

金融市場では、イラン情勢の悪化を受けた原油高が対外収支の悪化や物価上昇を招くことが懸念され、ルピー相場は調整の動きを強めてきた。こうしたなか、RBIは6月会合に合わせて、非居住インド人を対象とする優遇ドル預金制度のほか、海外借入のヘッジコスト補助を発表した。政府も外国人の国債保有者に対するキャピタルゲイン税の撤廃を発表するなど、資金流入によるルピー需要喚起を通じた為替の下支えを図る考えを明らかにした(注2)。一連の対応を受けて、その後のルピー相場は持ち直しの動きをみせているほか、足元では、日本と米国による協調介入がドル安を促していることも、ルピー相場の下支え要因となっている(図3)

図表図表

RBIとしてはルピー安圧力が幾分緩和されていることを受けて、景気に悪影響を与える「予防的利上げ」に距離を置きたいとの思惑がうかがえる。とはいえ、こうした対応は時間稼ぎに過ぎないうえ、先行きは物価上昇や経済のファンダメンタルズの脆弱化を招く材料が山積していることを勘案すれば、ルピー相場を取り巻く環境の劇的な改善を見込むことは難しい。今回RBIが様子見姿勢を維持したことは、景気に配慮したためと考えられるが、結果として「金融政策の遅れ」に陥るリスクも高まっており、そうした懸念が顕在化すれば、先行きは一転して大幅利上げに追い込まれる可能性に注意が必要と考えられる。

以 上



西濵 徹

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