丸紅ギャラリー(東京都千代田区)で、「日伊修好通商条約締結160周年&シモネッタ歿後550年記念特別展 ―イタリアと日本の文芸作品に描かれた美しきシモネッタ―」が8月6日から開催されます。
ボッティチェリの時代の絵画は、目に見える世界を捉えるだけではなく、目に見えない存在を垣間見るための道具立てとしても機能していました。本展では、イタリアの詩人ポリツィアーノによる『騎馬槍試合のための詩』と、日本の小説家辻邦生による『春の戴冠』というシモネッタが登場する両国の文芸作品、ならびにボッティチェリの傑作《プリマヴェーラ(春)》に焦点を当て、それらの作品に描きこまれた思想を探ります。
また、本展では丸紅が所蔵する日本で唯一のサンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)のテンペラ画《美しきシモネッタ》が公開されます。
日伊修好通商条約締結160周年&シモネッタ歿後550年記念特別展
―イタリアと日本の文芸作品に描かれた美しきシモネッタ―
会場:丸紅ギャラリー(東京都千代田区大手町一丁目4番2号 丸紅ビル3階)
会期:2026年8月6日(木)~9月30日(水)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
※9/2、9、16は10:00~20:00(入館は19:30まで)
休館日:日曜日・祝日
観覧料:一般500円
※現金利用不可、交通系IC、クレジットカード、QRカードなどのキャッシュレス決済を利用
※以下の方は入場無料
●高校生以下
●障がい者手帳をお持ちの方とその介助者1名まで
●着物・浴衣など和装で来館した方
アクセス:
地下鉄「竹橋駅」直結(東京メトロ東西線、大手町方面改札・3a出口隣に直通通路)
地下鉄「大手町駅」C2b出口より徒歩6分
地下鉄「神保町駅」A9出口より徒歩7分
詳細は、丸紅ギャラリー公式サイトまで。
展覧会概要
11世紀から15世紀のヨーロッパは国家も宗教も激しい分断化が続いた時代でした。そのような時世に生まれたのが人間の自由と尊厳、調和を重んずる人文主義思想です。彼らはキリスト教も異教も神の前では同一であるとする「反対の一致」という思想を唱え、分断の時代を収束させようと試みました。当世でも大いに示唆に富む思想ではないかと思います。
また、美術史家で図像解釈学の権威エドガー・ウィントは、偉大なる芸術作品においては時代の思想的深みが常に表面に表れているもので、神聖なる光は、それが詩的なヴェールに覆われてはじめて我々に届く、と断言しています。すなわちボッティチェリの時代の絵は、描かれたものが単に目に見える世界を捉えているだけではなく、目に見えない存在を垣間見るための道具立てとしても機能していました。美しきシモネッタはそうした目に見えない存在を世の人々に垣間見せる存在でした。
本年は日伊修好通商条約締結160年ならびにシモネッタ歿後550年に当ります。本展は、イタリアの詩人・ポリツィアーノによるシモネッタが登場する『騎馬槍試合のための詩』とボッティチェリの《プリマヴェーラ(春)》に「不変の桜草の姿」を見た日本の作家・辻邦生による『春の戴冠』という二大文芸作品に焦点をあて、それらに描かれた目に見えない存在を探ろうとする展覧会です。
本展での主な展示作品を紹介
サンドロ・ボッティチェリ《美しきシモネッタ》 15世紀後半 丸紅株式会社蔵
《美しきシモネッタ》は、ルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェリによって描かれました。モデルとなったシモネッタ・ヴェスプッチは、1475年のメディチ家主催「ジョストラ(騎馬槍試合)」で“美の女王”に選ばれたほどの絶世の美女でした。その“比類なき美”はボッティチェリをはじめ多くの画家や詩人たちの題材となり、後世まで伝えられています。日本に存在するボッティチェリの作品は本作品のみです。本作品は、1969年に丸紅がイギリスで購入し、以来大切に保存・管理を行っています。
《シモネッタとジュリアーノの出逢いの場面》個人蔵 Angelo Poliziano, Stanze cominciate per la giostra di Giuliano de’ Medici, Loescher-Chiantore-Torino, no.1/99, 1954より
中世イタリアを代表する詩人・ポリツィアーノの文芸作品『騎馬槍試合のためのスタンツェ』(未完の詩)には、シモネッタとジュリアーノが出逢う場面が描かれた挿画が添えられています。この図では、「ジョストラ(騎馬槍試合)」で優勝したジュリアーノ・メディチが銀の甲冑にヴェロッキオ工房のデザインによる兜と楯を身に着け、ボッティチェッリがデザインしたバナー(旗標)を持ってアリーナに進み、試合に臨んだとされる姿を連想させる勇ましい姿が描かれています。
本書にはこの挿画の他にも《騎馬姿のジュリアーノ》や《ミネルヴァの祭壇の前で跪くジュリアーノ》などがあり、添えられる詩とともに中世イタリアに想いを馳せることができる一冊です。美術史家ミレッラ・レヴィ・ダンコーナの所蔵であった鉛筆書きの署名も入った貴重な書籍です。
《プリマヴェーラ(春)》の解析:花々の意味
《プリマヴェーラ(春)》に描かれた識別可能な40種類の植物がルネサンス期にどのような意味を持っていたかを、美術史家で図像解析学者であるミレッラ・レヴィ・ダンコーナによる分析をもとに図解します。多くの花の一つ一つに象徴的意味を隠し、現実の感覚的世界(可視的世界)と知的・精神的・神的世界(不可視的世界)を垣間見せたのではないかと考えられます。詳細は、展示室内にてお楽しみください。
※サンドロ・ボッティチェリ《プリマヴェーラ(春)》(ウフィツィ美術館蔵)は原寸大の写真パネルでのみ展示されます。
日伊修好通商条約締結160周年とシモネッタ歿後550年という二つの節目に開かれる本展。丸紅が所蔵する日本で唯一のボッティチェリ《美しきシモネッタ》を起点に、ポリツィアーノの『騎馬槍試合のための詩』、辻邦生の『春の戴冠』、そして《プリマヴェーラ(春)》へと視線を広げることで、ひとりの女性像がイタリアと日本の文芸や美術の中でどのように捉えられてきたのかをたどる機会となりそうです。ボッティチェリの絵画を通してルネサンスの魅力に触れながら、時代や国を越えて受け継がれてきた美のイメージと、その背後にある思想に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
