A worker used a portable electric fan on Westminster Bridge during a heat wave in London, UK, in June 2026ヨーロッパで繰り返される猛暑を受け、現地ではエアコンの爆買い現象が起きている。Bloomberg/Getty Images欧州全域で猛暑が続いている。7月に入っても、フランスやドイツでは35度〜40度超えの日々が続き、イギリスでさえ連日35度超えの日が続いた。これまで「エアコン=不要な贅沢品」と見なしてきた欧州市民の意識が変化しつつあり、サムスンや三菱電機などの主要メーカーは二桁成長や大幅な増産を報告している。熱中症による死亡者の増加や深刻な健康被害に直面する中、かつて冷房に抵抗を示していた人々も「エアコンは贅沢品から生活必需品へと変わった」と認識を改めている。

数十年にわたり、欧州の多くの地域ではエアコンを不要な贅沢品とみなしてきた。ホテルやショッピングモール、あるいは海外旅行の際に目にする程度のものであり、一般家庭には必要ないという認識が一般的だったからだ。

しかし今夏、その頑固な姿勢もいよいよ溶け始めている。西欧が観測史上最も暑い6月を記録したのち、大陸の一部で気温が38℃を超える過酷な熱波が押し寄せる中、メーカー各社は欧州市民がエアコンを爆買いしていると明かした。

市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルのシニアリサーチマネージャー、アレクサンドル・ルール氏は「エアコンは明らかに、欧州の複数の国でニッチなカテゴリーを超えつつあります。この根底にある傾向は、一時的な流行ではなく構造的な変化と見なせます」とBusiness Insiderに語っている。

作家が悟った「エアコンは考えるまでもない選択」

イングランドのエセックスに暮らす39歳のファンタジー・SF作家でポッドキャスターのキーロン・ヒース氏も、従来の考えを改めた一人だ。

長年にわたり、彼は自宅の窓を開け放ち、置ける限りの扇風機を並べれば何とかなると信じていた。しかし、年々激しさを増す夏の暑さに耐えかね、早期の購入ラッシュを避ける目的で、 2025年4月にMeaco(ミーコ)製のポータブルエアコンを585ポンド(約12万5000円)で購入した。

Kieron Heathキーロン・ヒース。Courtesy of Kieron Heath

「猛暑に見舞われると、扇風機をありったけ稼働させるような従来の冷却策は一切通用しなくなります。単に温風を部屋の中でかき混ぜているだけだからです」とヒース氏は振り返る。

イギリスの熱波がより長く、より過酷で、逃げ場のないものへと変貌する中、「暑さで眠れず、体調を崩し、ボーっと過ごす悪夢の2週間にうんざりしていました」と語る彼にとって、エアコンの購入は今や「考えるまでもない当然の選択」となったという。

「一度使ってみれば、なぜもっと早く買わなかったのかと実感します。自分の健康と安全を守るための必要な投資だったのです」

爆発するエアコン需要。韓国工場は全速力でフル稼働

ヒース氏のような決断を下した欧州市民は決して少数派ではない。

サムスンの広報担当者はBusiness Insiderに対し、2026年上半期の欧州におけるエアコン売り上げが前年比で二桁成長を記録し、イタリア、スペイン、フランスなどの主要市場でも大幅な伸びを示したと明かした。

中国の家電大手Mideaも、スペインとフランスへの出荷量が前年比で2倍以上へと激増し、ドイツのEC売上も37%増加したと話す。同社の人気のポータブル型モデルは、初夏の熱波で駆け込み需要が殺到した結果、一部の販売チャネルで売り切れとなった。

さらに三菱電機はフランス、スペイン、イギリス、ドイツにおける(同期間の)需要は極めて旺盛に推移したという。LG Electronicsは世界的な需要急増に対応するため、韓国の主要工場の一つが4月からフル稼働を続けていると明かしている。

業界団体のEurovent(ユーロベント)もこの勢いが継続すると予測する。副事務局長のスタイン・レネボーグ(Stijn Renneboog)氏は「欧州エアコン市場の成長は一過性の現象ではなく、長期的な構造トレンドです」と分析する。

欧州委員会の試算によると、EU域内のルームエアコン設置台数は1990年の700万台未満から2020年には約5700万台へ急増しており、2030年までに1億台を突破する見通しだ。

「気温の上昇と頻発する熱波は、もはや無視できない段階に来ています。熱波は今や深刻な公衆衛生上のリスクなのです」とレネボーグ氏は指摘する。

欧州の死亡率監視ネットワークEuroMOMOの推計によれば、欧州全体の死亡者数は6月中旬の約3万3000人から、6月末から7月初めにかけて4万5000人超へと跳ね上がった。イングランドとウェールズだけでも、インペリアル・カレッジ・ロンドン主導の研究チームの推計により、6月下旬の熱波だけで2183人が熱中症関連で死亡したとされ、近年で最も致命的な熱波の一つとなった。

他国がここまで「暑さを嫌う理由」が理解できた日Residents sheltered from the sun beneath an umbrella during a heat wave in Lleida, Spain, on July 13, 2026.欧州は観測史上最も暑い6月を記録した。Bloomberg/Getty Images

欧州人がこれまでエアコンを敬遠してきた背景には、いくつもの理由が存在する。歴史的な古い住宅が多く、電気代が高額であること、さらにはエアコン設置に家主の許可や大規模な工事が必要なケースが多いことが挙げられる。また、冷房を無駄遣いや贅沢品とみなす文化的背景も根強く存在していた。

国際エネルギー機関(IEA)によると、エアコンを保有する欧州の家庭は全体の約5軒に1軒にとどまり、約9割の家庭に行き渡っているアメリカとは対照的だ。

冒頭の作家・ヒース氏は「イギリスでは『使用する期間が短いのだから、高額な投資をする価値はない』という文化的価値観が定着していました」と分析する。

しかし今春、アメリカ・アーカンソー州に住むパートナーを訪ねた際、彼はアメリカ人の冷房に対する感覚を真に理解したという。

「アメリカでは屋外で作業しない限り、暑さに晒される瞬間がほぼ存在しません。自宅の玄関からエアコンの効いた車に乗り、着いた先の職場やショッピングモールにも冷房が完備されています。どこへ行っても涼しいのです」

イギリスへ帰国した際、そのギャップに彼は打ちのめされたという。

「空港から自宅の玄関まで、ずっと耐えがたい暑さが続きました。逃げ場がなく、体力を回復する隙すら与えられないのです」

ユーロモニター・インターナショナル社は「欧州市場が近い将来、北米ほど冷房依存度の高い社会に一変する可能性は低い」としつつも、多くの国々が「大きな転換点」を迎えつつあると結論づけている。

ヒース氏にとっても、アメリカ人が示してきた困惑は今や痛いほど理解できるものだ。

「アメリカ人の考え方は『暑いなら、なぜ我慢する?エアコンをつければ済む話だ』という合理的なものです。対して私たちの考え方は『暑すぎるが、耐える以外に選択肢はない』という諦めに近かった。

しかし、その意識は大きく変わり始めています。エアコンはもはや贅沢品ではなく、命を守るための必需品になりました。36℃にも達する室内でまともに眠ることなど、誰にも不可能なのですから」

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