4年に1度のW杯は、後世に語り継がれる名勝負の宝庫だ。しかし高度化した現代サッカーの裏側には、徹底した分析と綿密なシミュレーションに基づく極限の戦術的駆け引きが存在する。footballista編集部が選んだ識者たちが、注目国同士による「本気の闘い」を深掘りレビュー。あの90分で何が起きていたのか。勝敗を分けた戦術の妙に迫る。

第8回では、10カ国中9カ国が決勝ラウンドに進出したアフリカ勢と、9カ国中2カ国しかグループステージを突破できなかったアジア勢の間で明暗が分かれた理由を、全試合視聴中のフットボールコラムニスト、安洋一郎氏と探っていく。

 史上最多48カ国が参加した北中米W杯。各大陸予選の出場枠が拡大されたことで、常連国に加えて初出場や久々に本大会出場を果たした国々が数多く参戦した。

 12グループ制となったグループステージで、最も印象的だったのはアフリカ勢の躍進だった。

 もっとも、グループ首位を独走するようなチームはなかった。それでも各グループ3位のうち成績上位8チームが決勝ラウンドへ進出できる新レギュレーションも追い風となり、出場した10チームのうちチュニジア代表を除く9チームがラウンド32進出を果たしている。

 前回大会ではモロッコ代表がアフリカ勢として初のベスト4入りを果たしたが、数年前までは、これほど多くのアフリカ勢が決勝ラウンドへ進出する光景は考えにくかった。

 2018年のロシアW杯では出場した5チームすべてがグループステージで敗退。それ以前にアフリカ勢でベスト8に進出したのは、1990年のカメルーン代表、2002年のセネガル代表、2010年のガーナ代表の3チームだけだった。

 一方、新レギュレーションを最大限に生かしたアフリカ勢とは対照的に、期待を下回る結果に終わったのがアジア勢だ。

 前回大会は出場6チームのうち日本、オーストラリア、韓国の3チームが決勝ラウンドへ進出した。しかし、出場国が9チームに増えた今大会でラウンド32に勝ち進んだのは日本とオーストラリアの2チームのみ。残る7チームのうち5チームはグループ最下位で大会を終えた。

 苦戦は大陸間の得失点差でも証明されている。欧州が「+33」、南米が「+13」、アフリカと北中米は「-3」だったのに対し、アジアは「-34」。当然ながらダントツの最下位だった。

 なぜ、アフリカ勢とアジア勢でここまで明暗が分かれたのだろうか。

ヨルダン代表監督と欧州組数が物語るアジア勢苦戦の理由

 グループステージでオーストリア代表、アルジェリア代表、アルゼンチン代表に3連敗を喫したヨルダン代表のジャマル・セラミ監督(大会後に退任)は、敗退後の記者会見で興味深い見解を示している。

 「W杯でアフリカは10チーム中9チームが決勝ラウンドに進出した一方、アジアは2チームしかいなかった。なぜか? アフリカの選手たちはヨーロッパの主要リーグでプレーしているからだ。ヨルダンサッカーがより良い結果を出すために最も重要なのは、選手たちがより強く競争の激しいリーグでプレーすることだ。高い“ペース”と“レベル”に追いつくには、欧州のトップリーグでプレーする選手が必要だ」

 モロッコ出身のセラミ監督は、同国の年代別代表やA代表の暫定監督を務めた経験を持つ。アフリカとアジア双方のサッカーを知る人物だからこそ、その言葉には説得力がある。

 実際にアフリカ勢とアジア勢の欧州組の人数(W杯登録メンバー26人、大会開幕時点の所属クラブが基準)を比較してみよう。

 上記の図を見ると、アフリカ勢の方が欧州でプレーする選手が圧倒的に多いことがわかる。アルジェリア代表より上の8チームは、およそ70%に当たる18人以上を欧州クラブから招集している。

 これは歴史的な移民や植民地政策、社会経済的要因に加え、コートジボワールやセネガルの育成組織と欧州の育成組織の結びつきが強いなど、アフリカ系の選手が欧州で育ちやすい環境になっていることが大きな要因だ。

 エジプト代表と南アフリカ代表は欧州組こそ少ないが、自国リーグの競争力が高い。CAFチャンピオンズリーグで上位を争うクラブを多く抱えており、高い競争環境が代表強化につながっている。

 一方、アジア勢では日本代表が23人と、早川友基(鹿島アントラーズ)、大迫敬介(サンフレッチェ広島)、長友佑都(FC東京)以外の全員が欧州クラブ所属で突出している。しかし、次点はオーストラリア代表の16人、韓国代表の15人で、日本との差は小さくない。

 さらに4番目に多いイラク代表以下は1桁にとどまり、カタール代表、サウジアラビア代表、ヨルダン代表に至っては、欧州組はわずか1人だった。

 サウジアラビアのクラブはACLEで成功しているものの、その中心は外国籍選手であり、代表強化へ直結しているとは言い難い。

 もちろん、欧州のクラブであればどこでもいいというわけではない。それでも、セラミ監督が語ったように「高いペースとレベルに追いつく」ためには、プレミアリーグをはじめとする欧州5大リーグや、UEFAチャンピオンズリーグを戦う強豪クラブで「日常的に高い競争環境に身を置く」ことが重要になる。

ジャマル・セラミ監督(左)

明暗を分けた最大の要因は「守備の不安定さ」

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Profile
安 洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。

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