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6月3日に韓国で行われた統一地方選挙で、多数の投票所で投票用紙が不足し、投票に支障が生じる前代未聞の不祥事が起きた。ただ、これは外部勢力が意図を持って選挙に介入した不正選挙ではなく、選挙管理委員会のずさんな管理による失態だった。事柄の本質を見誤ってはならない。

韓国では中国共産党が韓国の選挙開票過程に介入しているとする不正選挙陰謀論者が一定の勢力を維持しており、今回の不祥事を自分たちの主張を拡散するチャンスにしようと画策している。深刻なことは、米国の一部右派が韓国の不正選挙陰謀論者と交流を持っていることだ。最近、米国の上院と下院の軍事委員会が韓国国内における中国共産党の影響力を初めて点検の対象に加えたが、陰謀論者らの働きかけが影響をしている恐れがあるとの指摘が出ている。だからこそ、正確な事実認識が求められる。

投票用紙不足に抗議デモ

選挙管理委員会の発表によると、全国1万4288投票所のうち、140投票所(0.98%)で投票用紙不足が予想され追加送付を行ったが、そのうち91投票所(0.64%)で実際に追加分を使用した。使用された追加分は7194枚、うちソウルが4206枚だ。26投票所(0.18%)で投票が一時中止され、中断時間は最小4分から最大105分だった。中断中に投票所を訪れた有権者の中には投票を諦めて帰った者もいたことが確認されている。ただし、その数は選挙結果に影響を与えるほど多くない。

ソウル市松坡区のいくつかの投票所では、テレビで開票放送が流れている午後10時過ぎまで投票時間が延長された。そのうち一つの投票所は抗議のデモに取り囲まれ、投票箱を開票所であるオリンピック公園の体育館に運べなかった。5日、警察の警護で何とか運ばれた投票箱の開票が終わったが、体育館前の抗議のデモは続いた。

投票用紙が足りなくなった投票所は保守層が多い地域に集中していた。そのため、意図的な不正が仕組まれたのではないかと疑われた。だが、実態は違った。

韓国大統領府で就任1年に合わせた記者会見を行う李在明大統領=6月8日(聯合=共同)

ずさんだった選挙管理

今回の統一地方選挙の投票率は前回の50%をはるかに上回り、61%を記録した。選挙管理委員会はそれを正確に予想できなかった。事前投票で史上最多の23.5%が投票していたので、当日投票が50%を超えることはないと判断し、当日投票用に各選挙区の有権者の50%の投票用紙を準備した。

有権者は日本のように投票用紙に候補者名を手書きするのではなく、印刷されている候補者名に印を押すので、事前に選挙区ごとに用紙を印刷しておく必要がある。これまでは当日投票用に有権者の60%を準備していたが、今回50%に減らした理由は、不正選挙陰謀論者が余った投票用紙を不正の証拠だと強弁することを防ぐためだったという。

韓国では事前投票と当日投票の二つの形式があり、事前投票は左派が強く、当日投票は右派が強い。事前投票は自分の選挙区以外の役所でも投票できる便利な制度なので、大学や職場に通う青年壮年世代が多数利用するが、その世代は左派が強い。一方、当日投票はリタイア世代が多数利用するが、その世代は右派が強い。その上、事前投票は不正選挙の対象になるという陰謀論の影響もあり、右派は当日投票を選ぶ者が多い。

右派の強い地域では当日投票を選ぶ者が相対的に多かったため、投票用紙が不足する事態がその地域で集中して起きた。それは不正選挙の結果ではなく、ずさんな選挙管理のために起きた不祥事だった。


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デモを乗っ取った陰謀論者

選挙管理委員会を糾弾する自然発生的なデモが起き、ソウルの体育館前の抗議デモは投票から20日後の本稿執筆時点まで徹夜で続いている。当初はずさんな選挙管理に怒る人々が自発的に集まっていたが、時間が経つにつれ不正選挙陰謀論者がデモの多数を占めるようになった。6月13日、筆者は現場を訪れたが、デモ参加者は「不正選挙、再選挙、当日投票、手開票」という統一したスローガンを叫び、韓国国旗だけでなく星条旗を手にしていた。中には英語で「ストップ・ザ・スティール」(票を盗むのをやめろ)と書いたプラカードもあった。これらはまさに不正選挙陰謀論者の特徴そのものだ。

「当日投票」というスローガンは、事前投票は不正が多いから当日投票のみにせよという陰謀論の反映だ。しかし、その証拠はない。「手開票」というスローガンは、中国などが選挙管理委員会のコンピューターをハッキングして開票結果を歪めたという陰謀論の反映だが、実際は韓国の開票はコンピューターを使わず人間が行っている。しかし、陰謀論者はこれらの事実をいまだに無視し続けている。また、陰謀論者が星条旗を持つのは、2020年の米大統領選挙で敗れたトランプ陣営が選挙の不正を主張したことに勇気を得て、米国と同様の不正が韓国でも起きているから米国が自分たちを応援するはずだという思い込みが背景にある。

偽情報流布に大統領も警告

デモが取り囲む体育館には大韓体育会傘下の九つのスポーツ団体(ハンドボールやフェンシング協会など)の事務所があるが、デモ参加者が団体関係者の出入りを阻止し、警察もそれを取り締まらないため、業務が麻痺して様々な被害が出ている。9月に名古屋で行われるアジア大会に韓国代表を送るための準備もできなくなっている。

大韓体育会は記者会見をして公権力の行使を求めている。李在明大統領もずさんな選挙管理への怒りの表明は国民の権利として尊重されるべきとしたうえで「それに便乗した不法な暴力、フェイクニュースについては最後まで追跡してその責任を必ずとらせなければならない」(6月19日)と警告している。近く、スポーツ関係者の業務正常化のために警察が公権力を行使する可能性が高まっている。そのとき、大きな混乱が起きニュースになるだろう。しかし、事柄の本質は不正選挙ではなくずさんな選挙管理だということを忘れてはならない。

筆者:西岡力(麗澤大学特任教授)

2026年6月24日の国家基本問題研究所「国基研ろんだん」を転載しています

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