北中米サッカーワールドカップ(W杯)2026が開幕。優勝候補も続々と登場する中、サッカー王国・ブラジルは、史上初めて外国人監督の下で戦いに挑んでいます。その背景には、ブラジル再建を託されたイタリア人監督の特徴や、現代サッカーのトレンドが理解できる本をサッカー解説者の林陵平さんに聞きました。

サッカー解説者の林陵平氏。北中米ワールドカップは現地からNHKの解説を担当する
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日本の初戦・オランダ戦は2-2の引き分けで、両チームが勝ち点1を獲得しました。これまで2回にわたって紹介してきた観戦のポイントが、少しでも役立っていれば、うれしく思います。グループリーグはまだ始まったばかり。残り2試合の結果によって、順位は大きく変わってきます。引き続き、日本代表に大きな声援を送りましょう!
1930年に始まったワールドカップ(W杯)は、今回が23回目の大会となります。そしてすべての大会に参加している唯一の国がブラジルです。ブラジルはW杯で、5度の最多優勝を誇ります。サッカーに詳しくない人でも、ペレやジーコ、ロナウドといったブラジルが生んだ名プレーヤーの名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。
今回の大会でも、ブラジルは間違いなく優勝候補のうちの1チームです。先日発表された2026年6月のFIFAランキングでは6位。『
林陵平のサッカー観戦術2 試合がもっともっと面白くなる極意
』(林陵平著/平凡社新書)の第2章「2026年W杯 優勝候補9カ国を分析」でもブラジル代表を紹介しています。
勝敗だけを考えると、日本代表としては、あまり対戦したくない国の1つですが、日本が決勝トーナメントに進出した場合、最初の試合でブラジルと対戦する確率が高いです。ブラジルは今回、モロッコ、ハイチ、スコットランドと共に、グループリーグではグループCに入りました。ブラジルはグループリーグ初戦でモロッコと引き分けましたが、1位または2位で予選を通過する可能性は高いでしょう。
一方の日本は、オランダ、スウェーデン、チュニジアと共にグループFに入りましたが、前回紹介したようにFIFAランキングで比較すると日本は4チーム中2番目。やはり初戦でオランダと引き分けました。決勝トーナメント1回戦では、グループCの1位とグループFの2位、グループCの2位とグループFの1位が対戦することが決まっています。
日本の実力は、既にブラジルと好勝負できるところまできています。2025年10月に行われた国際親善試合で、日本代表はブラジル代表に3対2で歴史的な初勝利を挙げました。
14回目の対戦で初めて勝利したその試合は、2点先制されてからの逆転勝利だったこともあり、多くのサッカーファンの記憶に刻まれています。
今回、決勝トーナメントに日本が進出し、ブラジルと対戦した場合も、日本が勝利する可能性はあります。しかし、昨年の国際親善試合のブラジル代表は、多くの主力選手が欠場していました。今回のW杯ではゴールキーパーやディフェンダーの顔触れが昨年の試合とはまったく異なるでしょう。強度や安定感は段違いに上がってくるので、ゴールは簡単には奪えないと思われます。
日本代表とブラジル代表の試合では、多くの時間、ブラジルがボールを保持する可能性が高いと思われますが、そんな中で期待するのはスコットランドのセルティックでプレーする前田大然(だいぜん)選手です。実は私は前田選手と2017年、J2リーグ(当時)の水戸ホーリーホックで1年間一緒にプレーしました。2人でフォワードを組むことが多かったのですが、当時19歳だった前田選手の異次元のスピードは圧巻でした(ちなみにその年のゴール数は、私が14に対し前田選手が13と、1つ私が上回っています!)。あのスピードでハイプレスを仕掛け続ければ、王国ブラジルといえ、きっとチャンスが生まれるはずです。
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初の外国人監督はサッカー王国ブラジルを復活させることができるか

「アンチェロッティ監督がどのような采配を振るうのか、注目しています」
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初の外国人監督はサッカー王国ブラジルを復活させることができるか
サッカーのブラジル代表は「セレソン」と呼ばれます。セレソンは、ポルトガル語で「選抜」(英語のSelectionにあたります)を意味しており、数多くの候補の中から選び抜かれたメンバーで構成されることから、サッカーブラジル代表の愛称として定着しています。
今大会のセレソンを構成する26人のメンバーは、誰を取っても豪華としかいいようがありません。中でも注目すべき選手は、2年7カ月ぶりにセレソンに復帰したネイマール選手です。ネイマールは、ブラジル代表として79ゴールを挙げており、ペレの77ゴールを超えるブラジル代表の最多得点記録を持っています。近年は故障が多く、今回の代表入りも危ぶまれていたのですが、晴れて4度目のW杯出場となりました。相手を翻弄するドリブルは観客を大いに魅了します。
セレソンを率いるカルロ・アンチェロッティ監督の手腕にも注目が集まっています。アンチェロッティ監督については2024年に出版した『
林陵平のサッカー観戦術 試合がぐっと面白くなる極意
』(林陵平著/平凡社新書)にも詳しく紹介しています。ブラジルはW杯に5度優勝していますが、最後に優勝したのは日本と韓国の両国で開催した2002年の日韓大会。それ以降の5大会は、グループステージ敗退こそないものの、ベスト4が1度で、残り4度はベスト8止まり。決勝進出にまで至らず、国民の期待とは裏腹に良い成績を残すことができていません。

『林陵平のサッカー観戦術 試合がぐっと面白くなる極意』(林陵平著/平凡社新書)/画像クリックでAmazonページへ
ブラジルは今大会も、決して予選を順調に戦ってきたわけではありませんでした。南米予選の成績は、10チーム中5位。苦戦の連続で、その間、セレソンを率いる監督も3度交代しました。そんなセレソンの指揮を2025年に託されたのが、現在67歳のイタリア人であるカルロ・アンチェロッティ監督です。
1980年代にイタリア代表としても活躍したアンチェロッティのすごさは、監督として率いたクラブチームで獲得したタイトル数にあります。サッカー人気が高い欧州では、特にレベルの高い国を欧州5大リーグ(イングランドのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アン)と呼びますが、この5大リーグを監督としてすべて制しました。この偉業を達成したのはアンチェロッティ監督だけです。
アンチェロッティ監督は、状況や相手によって柔軟に選手の配置を変え、一定の枠組みの中で選手に自由を与えてチームを機能させるバランス型の監督です。陣容の入れ替わりが激しい代表チームに非常に適したタイプであり、就任してから1年しか経っていませんが、その特徴はセレソンを良い方向に導いているように思います。
実はセレソンの監督を外国人が務めるのは、アンチェロッティ監督が初めてです。サッカー王国のプライドからか、ブラジル人監督の起用にこだわっていましたが、近年の成績不振からようやく踏み切ったというわけです。ブラジル国民の期待を一身に背負ったアンチェロッティ監督がどのような采配を振るうのか、個人的にもすごく興味深いです。
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最先端のサッカーを理解できる本
最先端のサッカーを理解できる本
私は近年のセレソンの不振は、現代サッカーの浸透が無縁ではないと思っています。現代サッカーでは、全員で攻撃をし、全員で守備をし、戦術に沿ってポジションを流動的に入れ替えながらゲームを進めます。一昔前のサッカーは、フォワードは攻撃が専門、ディフェンダーは守備が専門という色合いが濃く、個々人が自由にプレーする余地が大きかったといえます。それがブラジル人のような自由で個人技を生かした、いわゆる「遊び心」のあるサッカーとマッチしていたのですが、近年は組織での連携が、個の能力より重視されるようになりつつあるといえるでしょう。
この現代サッカーを深く知るうえで適した書籍が『
モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー
』(レナート・バルディ著、片野道郎著/ソル・メディア)です。モダンサッカーとは、現在のサッカーよりもやや戦術を重視している言葉で、攻めている時と守っている時でフォーメーションが異なることを当たり前とした、先進的なサッカーを示しています。

『モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー』(レナート・バルディ著、片野道郎著/ソル・メディア)/画像クリックでAmazonページへ
著者のレナート・バルディ氏はイタリア人で、イタリアのプロチームの戦術分析を担当しています。バルディは、戦術にパラダイムシフトを起こしたといわれているジョゼップ・グアルディオラに深い感銘を受け、彼との対話を元にこの本を執筆しました。グアルディオラは、先のアンチェロッティに勝るとも劣らない名将で、スペインのラ・リーガではバルセロナを率いて4シーズン中3度、ドイツのブンデスリーガではバイエルン・ミュンヘンを率いて3シーズン中3度、イングランドのプレミアリーグではマンチェスター・シティを率いて10シーズン中6度のタイトルを獲得しています。このグアルディオラの戦術を詳細に解説したものです。
戦術に特化した内容は、かなりハイレベルですが、サッカーを良く知るジャーナリストの片野道郎氏との対話によって進行するので、内容が比較的すっと入ってきやすいと思います。頑張って読み進めると、より多くのチームの戦術を理解できるでしょう。この本が発売されたのは2018年ですが、「モダンサッカーの教科書」シリーズは現在まで計4冊が出ています。併せて読むのもお薦めです。
取材・文/木村知史(CocoSmile 編集者) 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/稲垣純也 撮影協力/猿田彦珈琲 調布焙煎ホール
サッカー解説者・林陵平 ワールドカップ2026を楽しむ本
