愛媛県松山市を拠点に活動する矢野青山建築設計事務所の矢野寿洋氏と青山えり子氏。BUNGANETでは不定期のシリーズで彼らの活動を追っている。今回は「CLT」の特性を生かした新作3件をまとめてリポートする。少し長くなるが、3つ並べて見ることでCLTの一般化への可能性が見えてくる。(宮沢洋)
【取材協力:矢野青山建築設計事務所】
左から、今回取り上げる「愛媛県立とべ動物園 エントランスゲート前トイレ」、「しみずクリニック 泌尿器科・内科」、「愛翔 ハーブ生産施設第5工場」。いずれもCLTの新たな使い方を提案している(写真:特記以外は宮沢洋)
CLTを使った建築は増えているが、取り組んでいる建築家や設計組織はまだ一部に限られている。「一般化している」とは言い難い。そんななか、矢野青山建築設計事務所は“CLT建築の第一人者”と言ってもいいくらいの実績を重ねてきた。
2021年:愛媛県歯科医師会館(鉄骨造一部CLT造)(愛媛発・矢野青山の挑戦03:穴あきCLTを耐力壁に用いた「愛媛県歯科医師会館」)
2023年:だんだんPARK(鉄骨造一部CLT造)(愛媛発・矢野青山の挑戦04:「段々」が運営にも革新を生んだ「だんだんPARK」)
2023年:あいわ苑(木造一部CLT)
2025年:今治造船丸亀工場丸亀工作オフィス(鉄骨造、階段の段板などにCLTを使用)(愛媛発・矢野青山の挑戦05:短工期を払拭するおおらかさ「今治造船丸亀工場丸亀工作オフィス」)
そして、前回リポートした「お野立所」は主構造がCLTだ。
2026年:第76回全国植樹祭お野立所(CLT造)(愛媛発・矢野青山の挑戦06:愛媛らしさ全開のCLT仮設建築、「第76回全国植樹祭お野立所」)
そもそも「CLTって何?」という人もいると思うので、ざっくり説明しておく。CLT(Cross Laminated Timber)は、木の板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した大判の木質パネルのことを言う。日本語では「直交集成板」と呼ぶ。
一般の人も知っているであろう「集成材」は、ラミナの繊維方向が平行になるように積層接着した細長い材だ。繊維方向に強いので、主に柱や梁などの「軸材」として使われる。それに対し、CLTは“木の塊”。床や壁などの「面材」として使われることが多い。面材としてはコンクリートに匹敵する強度を持ち、木材をたくさん使うということで国内の森林活用の観点から注目されている。
CLTはもともとオーストリアなど欧州で発展した技術で、日本では10年ほど前から実用化されるようになった。
矢野青山の2人がCLTの使用に積極的なのは、単に「新しい技術だから」というだけではない。事務所のある愛媛県が、スギやヒノキなど木材の生産地であり、“CLT産業の拠点”でもあるからだ。CLT産業の拠点というと岡山県が頭に浮かぶ人も多いと思うが、愛媛県西条市にあるサイプレス・スナダヤは、CLT製造国内大手の1つだ。
前回リポートした「第76回全国植樹祭お野立所」。これも、サイプレス・スナダヤで製作したCLTを使った(写真:西川公朗)
つまり、愛媛県でCLTを使うと、建材の「地産地消」が可能になる。これは現代建築では「言うは易く行うは難し」。鉄やコンクリートではまず無理だし、地元産の木材を使ったとしても、集成材やCLTへの加工はいったん他県に移送して行うというケースが意外に多い。
この記事で取り上げるのは、矢野青山が“地産地消型CLT”の新たな使い方を探った3つの新作だ。いずれも小規模ながら、「なるほど、そんな使い方があったか」と感心させられた。
大判CLTのたわみを意匠に生かした「とべ動物園 エントランスゲート前トイレ」
1つ目は「愛媛県立とべ動物園 エントランスゲート前トイレ」だ。2025年12月に利用を開始した。このプロジェクトで挑んだのは、CLT1枚の「大きさ」である。
(イラスト:宮沢洋、以下も)
とべ動物園は前回リポートした「第76回全国植樹祭」の会場となった愛媛県総合運動公園の西隣にある。動物園に入るのは有料だが、このトイレはエントランスゲートの前にあるので、入場しなくても見ることができる。建築好きであれば、ひと目見て「そういうことか!」と思うデザインだ。
張り出した庇が、入園前の日陰として使われていた

以下、矢野氏が書いた説明文からポイントを引用する。
四国最大規模を誇る動物園のエントランス。その顔となるトイレのデザインにあたり、私たちは以下の構成を提案した。
愛媛県産材CLTのマザーボード最大サイズ(3m×12m)をそのまま用いる。12mのCLTを両端支持とし、自重によって自然にたわませる。そのたわみが、既存エントランスの緩やかな曲線と呼応するデザインとなる。
特筆すべきは、CLTを意図的に「自重でたわませて曲げる」という手法である。これは日本初の試みだ。これまで私たちは8件のCLT建築を手掛け、工場や加工場へ何度も足を運んできた。そこで目にする最大サイズのマザーボード(3m×12m)は、他のあらゆる建築素材と比較しても類を見ない巨大さであり、圧倒的な迫力を持っていた。

しかし、通常は輸送限界(幅2.3m程度)や重量の制約から、このサイズがそのまま建築現場で使われることはなく、分割・加工されてしまう。
今回は「1枚だけであれば斜め積載で輸送可能」という物流の解を見つけ出し、さらに工場関係者から聞いた「巨大なマザーボードはたわみが発生し、矯正に苦労している」という悩みを逆手に取った。「たわむなら、その曲面をデザインに利用すればよい」と考えたのである。もちろん、許容応力度範囲内に変形を抑えることで構造規定もクリアしている。

理論上は自重でたわむはずだが、CLTの剛性を考慮すると、想定ラインまで下がりきらない懸念があった。そこで、積雪荷重を想定した中央2箇所の柱位置で引張力を段階的にかけることで、想定ラインまで強制的にたわみを生じさせる建て方を計画した。
施工中(写真:3点とも矢野青山建築設計事務所)


実際の現場では、職人が屋根の中央付近でタイミングを合わせて跳躍を繰り返し、少しずつたわみを進行させるという、現代の建築現場では稀有な光景が見られた。人の重みと動きを利用して、想定通りの美しい曲面へと導いたのである。
屋根面は右手前に傾斜しており、右側の中央部から雨を落とす
トイレ内で上を見上げると、ガラス越しにCLTが見える
完成したその曲面は、既存のエントランス群と違和感なく調和し、風景に溶け込んでいる。実はとべ動物園は瀬戸大橋が開通した年に開館しており、園内には橋やそのカテナリーをモチーフにしたデザインが随所に見られる。今回のCLTの曲線は、構造的な合理性だけでなく、四国の人々にとって象徴的な「橋」の記憶を継承するものでもある。
また、自重による自然な曲面形成は、特別な仮設材や曲げ加工のガイド材を不要とし、通常であれば高コストになる曲面屋根を安価に実現することに成功した。CLTは高コストだと思われがちだが、材料単価では集成材より安価になるケースも多い。加工や接合部、施工方法を簡易化することで、コストを抑えながら迫力ある木造建築は十分に可能なのである。

補足すると、前回リポートした「お野立所」は、使用したCLTの枚数が多かったため、トラックでまとめて運べるサイズの2.3m×12mだった。ここでは、「1枚だけであれば斜め積載で輸送可能」という物流のルールを発見し、“真の最大サイズ”を生かすことができた。
施工性と設備のためにあえて“隙間”、「しみずクリニック 泌尿器科・内科」
2つ目は松山市内に2025年5月に開院した「しみずクリニック 泌尿器科・内科」。泌尿器科を専門とする清水真次朗院長と、血液内科を専門とする清水里紗副院長が、夫婦で営む地域密着型のクリニックだ。
地上2階建てのクリニックの建物とともに、隣接して新築された平屋建ての「松山 すずらん薬局」も矢野青山建築設計事務所が設計を担当した。大小の対に見える造形とベージュ系の優しい色彩が目を引く。

ここで挑んだのは、「CLTの加工と接合の低コスト化」だ。
CLTを使ったのはクリニックの方。とべ動物園トイレが「ひと目で伝わる」のに比べると、こちらは少し説明を聞いてから見た方がよい。というのは、前情報なしで見ると、壁(垂直面)にCLTを探してしまう。ここでCLTを使ったのは屋根架構(天井の水平面)なのだ。
2つの建物の軒高がそろっていて、一体の建物のよう
クリニックの入り口
以下、矢野氏の説明文を引用する。
泌尿器科と内科を併設した松山市郊外に位置するクリニック。CLTを構造材兼天井材として隙間を空けながらぐるりと一周配置することで木の温かみとリズム感を空間に与え、動線を意識させながら患者に木の温かみと心地よさを感じさせる空間を実現した。

泌尿器科と内科が併設されており両科の患者が訪れるため迷いにくい動線計画と患者に安心感を与えられる雰囲気の両立を求められていた。そこで行き止まりのない一周することが出来る患者動線を計画し、その動線に沿って県内に工場があるCLTを用いた天井を作り患者が多くの時間を過ごす待合等の居場所に木の温かみを感じられるよう配慮した。また診察室を含めたスタッフの動線は中央にまとめ、こちらはCLTを使わずに吸音等に配慮した天井にする事でプライバシーへの配慮を両立させつつ空間のメリハリも生み出している。


CLTは、特殊な接合金物と、専門加工業者が課題になることが多い。CLTの矩形パネルをそのまま木造軸組にのせるというシンプルな使い方によって加工と接合を極限まで簡易化して用いた。開口部の内外で連続するCLTを美しく見せるため、部分的な梁の省略とサッシ溝加工を施している。軸組の柱と金物を避けた、構造的・加工的合理性によるCLT配置が空間の心地よいリズム感をもたらしている。

施工中(写真:3点とも矢野青山建築設計事務所)


クリニックを計画する上で初期段階からCLTのスパン・隙間・接合・取り合いについて構造設計と緻密に相談を重ねた。それによりCLTの板をきれいに見せたいという当初の考えを貫いた構造と設備も含めた建築計画が一体化したデザインが実現した。外部まできれいに伸びるCLT は自然と視線を窓の外に向けさせる。窓の外には在来種の木を植えた庭が緩やかな目隠しとなり、開放的でありながらも安心感のある空間が訪れた人から好評となっている。

在来の木造軸組みに上に、CLTを構造材兼天井材として水平に載せていったわけだ。隙間を空けているのがポイントで、CLT同士を金物でジョイントさせる必要がなく、隙間は照明の配線などのスペースとすることができる。加えてCLTの小口を見せることもできる。なるほど、である。
ただ、個人的な感想を言うと、CLTの一部だけでも傾けて使えるとよかったかもしれない。説明されないと仕上げ材に見えてしまう(屋根架構に見えない)のがややもったいないように感じた。
10mスパンをCLT梁で飛ばした「愛翔 ハーブ生産施設第5工場」
3つ目は愛媛県西条市の「愛翔 ハーブ生産施設第5工場」。人工の照明で野菜を育てるいわゆる「植物工場」だ。「いよ西条インター」に近い国道11号沿いにある。

外壁には愛媛県の伝統的な材料である焼杉を使用
ここでのテーマは、「工場の無柱空間をCLTによって鉄骨造と同等かそれよりも安くつくること」だ。

といっても、CLTが見えるのは軒下の一部だけだ。意匠としてではなく、コストダウンに徹する形でCLTを「梁」に使った事例となる。
これも矢野氏の説明文を引用する。
豊かな地下水でハーブを育てる愛媛県西条市の植物工場。既存の工場で課題だった断熱性能と気密性能を、木造を採用することでコストを維持しながら確保。大空間は県産杉CLT(3層3プライ)を梁(750㎜成x2)とすることで実現。柱を挟み込んでビス留めするという簡易な接合方法を採用した。
室内は無窓。完全に人工照明だけで育成する
大スパンに対して、市内の工場で製作可能な最大の規格寸法(3×12m)を持つCLTに着目。県内生産ができない9m超の特注材や難易度の高いトラス等の合成梁を避け、コストの増大を抑えた。CLT梁に使用した金物は、柱に留めるための構造用ビス、スペーサーを挟むための両引きボルト、小梁をかけるための梁受金物といった一般的な金物のみを使用。
施工中(写真:3点とも矢野青山建築設計事務所)
スギCLT(3層3プライ)90×750㎜で柱を挟み込むダブル梁とし、10.1mのスパンを飛ばしている
この後、天井を張っているので、室内では梁や柱は見えない
国内において圧倒的な施工実績を誇る在来軸組工法は、非常に成熟した、多方面に完成度の高い工法である。
職人の数や関連する補助製品、設備機器も多く、高い性能が必要なときに最もコストパフォーマンスが高く、かつ信頼性も高い。この工法を適用できる範囲を広げていくことで、そのメリットを受けられる建築が増えていくと考えられる。今回採用したCLT 梁はまさに、その範囲を広げることに一役買う工法である。
前述の通り、CLTの梁が見えるのは入り口の軒下に斜めに架けられた1本だけ。設計者としては室内の梁を見せたいところではあったが、植物の生育環境を安定させることを最優先し、天井を張った。それでも軒下のCLT梁に気づけば、そこから全体がCLT梁なのだと想像はできる。そして、ガラス越しに中を見れば、「このスパンが木造で飛ばせるのか!」という驚きがある。

入り口を入ると、ガラス越しに中が見える(写真:西川公朗)
断熱・気密性能の向上により熱環境や二酸化炭素濃度などが安定し、過去の鉄骨造工場と比較して生育環境が向上。ランニングコストも低下した。現在、木造による新たな植物工場も検討中という。

次回は、矢野青山建築設計事務所が2025年秋から新たな拠点としている松山市の三津浜商店街沿いの「ミツてらす」をリポートする(6月15日の週に公開予定)。(宮沢洋)
矢野寿洋(やの・としひろ、右)。1981年愛媛県生まれ。2004年東京大学工学部建築学科卒業。2006年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2006~2013年新居千秋都市建築設計、東京大学生産技術研究所。2013年矢野青山建築設計事務所設立。2025年~愛媛大学准教授。青山えり子(あおやま・えりこ、左)。1988年神奈川県生まれ。2011年日本大学芸術学部デザイン学科建築コース卒業。2012年~2015年中村高淑建築設計事務所。2013年矢野青山建築設計事務所設立(写真提供:矢野青山建築設計事務所)
■建築概要
(1)愛媛県立とべ動物園 エントランスゲート前トイレ
所在地: 愛媛県伊予郡砥部町上原町240
階数:地上1階
構造:鉄筋コンクリート造一部CLT造
敷地面積:17万4000㎡
建築面積:23.32㎡
延べ面積:22㎡
設計:矢野青山建築設計事務所
施工:黒川建設
施工期間:2025年6月~12月
(2)しみずクリニック 泌尿器科・内科
所在地:愛媛県松山市問屋町3-25
階数:地上2階
構造:木造一部CLT
敷地面積:865.90㎡
建築面積:235.13㎡
延べ面積:309.25㎡
設計:矢野青山建築設計事務所
施工:トライアル
施工期間:2024年10月~2025年3月
(3)愛翔 ハーブ生産施設第5工場
所在地:愛媛県西条市飯岡3538
階数:地上2階
構造:木造一部CLT
敷地面積:615.82㎡
建築面積:273.79㎡
延べ面積:256.78㎡
設計:矢野青山建築設計事務所
施工:川下建★
施工期間:2024年4月~10月
■取材協力
株式会社 矢野青山建築設計事務所
〒791-8062愛媛県松山市住吉2-6-23ミツてらす2F(愛媛事務所)
〒108-0072東京都港区白金5-12-17 2F(東京事務所)
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MAIL:info@yanoao.com URL:http://yanoao.com

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