島根県奥出雲町下横田のショッピングセンター「横田蔵市」の運営団体が、自社名を公開する「オープンネーム(実名)」で、事業を引き継ぐ法人や企業を募集している。経営陣が高齢化し、後継者もいないことが理由だが、従業員の雇用を守るため、廃業ではなく事業承継の道を選択した。(桂川景)

半世紀の歴史がある「横田蔵市」(島根県奥出雲町で)半世紀の歴史がある「横田蔵市」(島根県奥出雲町で)

 「これ、おいしそう」。5月16日正午、店内は家族連れや高齢者でにぎわっていた。店頭の冷蔵ケースには、県産のホタルイカやイサキといった刺し身が並び、タイやアジの塩焼きなど総菜も充実。40年以上通う地元の70歳代女性は「ここに来れば欲しい物は何でもそろう。特に刺し身は新鮮でおいしい」と笑みを浮かべた。

 1971年に前身の店がオープンし、95年に現在の場所に移った。食堂経営など地元4社が加盟する運営団体「協同組合横田ショッピングセンター」によると、2000年代初期には年間客数は60万人、売上高は10億円超に上った。

 現在も住民だけでなく、隣県の広島県や鳥取県からの常連客は絶えない。従業員は34人(4月時点)。施設の維持費などが年々かさんでいるが、時計や化粧品店など5社のテナントが入り、年間客数は約30万人、売上高も8億円程度を維持する。

 品ぞろえの良さで長年愛され続けてきた一方で、運営団体の安郷弘泰理事長(74)ら経営陣の高齢化が進んでいる。

 鮮魚部門を担当する「奥出雲水産」の植田宏社長(78)は毎日午前3時に起床し、自らトラックを運転して片道1時間以上かけて松江市内の市場へと向かう。「その日一番」の鮮魚を競り落とし、刺し身や煮付け、塩焼きなどにして店頭に並べている。

経営陣が仕入れた県産魚の総菜が並ぶ店内(島根県奥出雲町で)経営陣が仕入れた県産魚の総菜が並ぶ店内(島根県奥出雲町で)

 青果担当で「アーム」の森田俊寛社長(77)、精肉担当の「吉田屋」の社長も兼ねる安郷理事長も自ら仕入れや調理場に立つなどしているが、体力的な負担は年々増しているという。

 今回の募集では、自社名を最初から公表して事業者を募る「オープンネーム(実名)」という手法を取った。通常、M&A(企業の買収・合併)では、自社の顧客や取引先への影響を懸念して社名を伏せるケースが多いが、自社の実態と魅力を広く知ってもらうために必要と判断した。

 現在、事業承継のマッチングを支援する「日本政策金融公庫」とM&Aマッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」で募集している。地域密着型の運営理念を理解し、従業員の雇用を継続してくれる資本力のある法人・企業を求めている。

 県内では、ショッピングセンター「ショッピングタウンエル」(出雲市大社町)を運営する「協同組合大社ショッピングセンター」が、経営不振のため、フーズマーケットホック(安来市赤江町)に事業譲渡する方針を決めた例がある。

 協同組合横田ショッピングセンターの安郷理事長は「私たちが老骨に
鞭(むち)
を打って守ってきたこの店を、ぜひ何十年先も大切に受け継いでほしい」と話した。

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