HYDEが5月17日、故郷・和歌山県にある和歌山県民文化会館にて、一夜限りの特別公演『HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL in Wakayama』を開催した。
【画像】和歌山公演の様子(写真全5枚)
本公演は、年1月から始まり4月に国内ファイナルを迎えた全国オーケストラツアー『HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL』の本編とは異なる公演。8日後に控えた、日本人ロックアーティスト初のウィーンのオーケストラとの共演で開催されるオーストリアでのツアーファイナルへの架け橋として急遽開催が実現したスペシャルな一夜だ。
■急遽決まった『JEKYLL in 和歌山』
暗転したステージに現れたJEKYLLバンドのメンバーに続き、エレガントなハットと黒のロングコートを身に纏ったHYDEがステージに登場。ストリングスのシーケンスを合図に、ジャジーなピアノとウッドベースが始まりを告げたのは「DIE HAPPILY」だ。
幻想的な演奏とささやくようなHYDEの柔らかな歌声に導かれ、観客は一気に『JEKYLL』の世界へと堕ちていく。
「ただいま。戻りました、HYDEです。和歌山、楽しんでますか」
2021年に和歌山ビッグホエールにて開催された『20th Orchestra Concert HYDE 黒ミサ 2021 Wakayama』(黒ミサの「黒」は、異字体が正式表記)以来、5年ぶりとなる故郷・和歌山での凱旋公演に場内から大きな拍手が湧き起こる。
「私は今、和歌山市の観光大使ではなくオーストリアの観光大使なんですが(笑)。音楽の都、ウィーンでのツアーファイナルを控えて、その公開リハーサルを和歌山で急遽行うことが決まりました」
そう言ったあと、今回のツアーに必須の「オーケストラ」がいるはずのステージ奥を振り返るHYDE。
「(オーケストラの姿が)見えないですか? 想像力を膨らませてください(笑)。この形式(JEKYLLバンドの演奏のみ)でやるのは和歌山だけ!というふうに考えていきましょう」
つまり今宵は、バンマスのhicoが奏でるピアノ、ギターとベースとドラム、男女コーラス、そしてシーケンスのオーケストラという、JEKYLLバンドだけで再現されるという。はたして、どんな一夜になるのだろうか。
■「いい子ちゃんで席に座ったまま、耳の穴かっぽじって聴いてください」
「今日は親戚も見に来てるので」
地元ならではの状況に合わせて、「オーケストラサウンドを元にした『ROENTGEN』というアルバムから25年経ってでこた、その第2弾」と、5月13日にCD版がリリースされたニューアルバム『JEKYLL』について駆け足で説明するHYDE。
「今日はそのJEKYLLの部分を着席して、いい子ちゃんでね、耳の穴かっぽじって聴いてください」
悲劇の怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』のごとく、JEKYLLの中の別人格、HYDEも顔を覗かせるMCのあとは、ロマンティックなジャズチューン「SO DREAMY」を披露。観客をもてなすような優しい歌声が場内を包む。
■「僕が座っちゃおうかな」
「和歌山県民文化会館のステージでグリーンソフトを食べたのは僕だけでしょうね」
スパニッシュなギターが鳴り響く「HONEY」に続き、『JEKYLL』からのナンバーを続けて披露した後、HYDEが誇らし気に話す。今回のオーケストラツアーでは「各地の名物を演奏の合間に食べる」のが恒例となっていたが、この日のもぐもぐメニューは、和歌山名物のグリーンソフトという抹茶のアイスクリーム。HYDEのお気に入りのひとつだ。
開演直後、ステージ最前列に空席がひとつあるのを見つけ、「20万円出しても座りたい人がいるだろうに(笑)」と嘆いていたHYDE。グリーンソフトを食べ終わると再び空席が気になり、「ちょっと僕が座っちゃおうかな」と、ステージから降りて着席。両隣の観客と笑顔を交わすHYDEに大喝采が湧き起こる。
ステージに戻ると、クラシック形式で行われるウィーン公演に備え、今日はウィーン公演と同じく休憩を挟んだ2部構成であることを告げる。そして即興で、「トイレに行きたいのは誰~」という謎ソングを本気の歌声で披露。さらにそのままの勢いで「DEFEAT」へ突入。ハンドマイクの赤いコードと黒いコートの裾を翻し、エモーショナルな歌で第1部を締めくくった。
■僕のルーツのような作品
予告どおり20分の休憩の後は、ランタンスリーブの白のドレスシャツに着替えたHYDEが登場して第2部がスタート。澄んだ歌声が「FADING OUT」の幻想的な音のレイヤードに重なり、積み上げられてきた美しい物語の終わりを嘆く。
25年前に生み出された『ROENTGEN』を象徴する1曲「EVERGREEN」のあとに披露されたのは、映画『戦場のメリークリスマス』の主題歌をもとにした坂本龍一×デヴィッド・シルヴィアンによる「FORBIDDEN COLOURS」のカバーだった。
HYDEがMCで「僕のルーツのような作品」と言っていた「FORBIDDEN COLOURS」は、楽器のように深く低く声を響かせるHYDEの歌唱スタイルや、詩的な歌詞の世界に多大な影響を与えたシルヴィアンの代表的な一曲。ルーツへの敬意を込めたカバーが、故郷の和歌山を経て音楽の都、ウィーンに響くことを想像するだけで心が躍る。
■「次は“赤いちゃんちゃんこ”を着て歌いたい」
「万博では和歌山デイにオーストリア観光大使としてライヴをしましたけど、(観客が)モッシュしてるからね。僕ならそんなアーティストは呼ばない(笑)。でもこういったスタイルならやれると思いませんか?」
オーケストラという静と、ラウドなロックという動の両極の表現の場があることの可能性に触れたのち、HYDEが続ける。
「次はまたビッグホエールとかで、赤いちゃんちゃんこを着て歌いたいと思います(笑)。半分冗談で、半分本気です。やりたいことがいっぱいあるのでお金を貯めといてください。オーストリアに旅立つ前に和歌山に帰って来れてとても良かったです」
ツアー本編やファイナルのウィーンとは異なる編成で『JEKYLL』の世界を再現した和歌山の夜。しかし、だからこそ、楽器のように様々な色と陰を作り出していくHYDEの歌声の真髄を、今回のツアーのどの公演よりも明確に堪能できた。
そんな特別な夜の最後を飾ったのは、舞台作品のような美しさと激しさを見せつけた「LAST SONG」だ。鳴り止まない拍手とスタンディングオベーションのなか、HYDEが宣言する。
「無事に終わりました。ムリしてでも和歌山でやってよかったです。オーストリアで自分の音楽をブチかまして来たいと思います。遠くから来てくれてありがとう。また会いましょう」
TEXT BY 早川加奈子
PHOTO BY 石川浩章
■リリース情報
2026.05.13 ON SALE
ALBUM『JEKYLL』
2026.06.06 ON SALE
ANALOG『JEKYLL』
THE FIRST TIMES編集部
