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評論家・千代田区議会議員
かつて世界中の海を支配した「海洋国家」イギリスが衰退の一途をたどっている。評論家の白川司さんは「低成長、生産性の停滞、移民問題、公共サービスの劣化といった国家的課題を解決できておらず、政権は迷走を続けている」という――。

写真=iStock.com/sankai
※写真はイメージです
ホルムズ海峡封鎖でも存在感ゼロ
イギリスは海を支配することで世界を動かした国だった。ロイヤル・ネイビーが海上交通路を守り、ロイズが海上リスクを引き受け、シティが世界の資本を動かす。この軍事、保険、金融の三位一体こそが、大英帝国の本当の力だった。
ところが、イラン紛争によってホルムズ海峡が危機に陥ったとき、そのイギリスはもはや主役ではなかった。世界の石油とLNG輸送の大動脈であるホルムズ海峡で航行リスクが急騰し、船舶保険料は跳ね上がり、海運会社は通航を控えた。
イギリスの保険業界は「保険そのものが消えたわけではない」と説明しているが、戦争リスク保険の条件は厳格化し、保険料も急上昇した。つまり、市場はホルムズ海峡を「通常の商業航路」とはみなさなくなったのである。
これは、かつて7つの海を支配した国が、世界の最重要海峡の一つで主導権を発揮できなくなったことを意味する。
ホルムズ危機は、世界トップの海洋国家であり続けようとしているイギリスが、それを支える軍事力、金融力、保険市場、海外拠点、国民統合のすべてにおいて力を失い、大きく凋落したことを露わにしたのだ。
世界に誇った「ロイヤル・ネイビー」が…
ホルムズ危機でまず問われたのは、「ロイヤル・ネイビー」、つまりイギリス海軍の実力だった。
イギリス海軍は長い伝統を有し、世界から仰ぎ見られてきた海軍である。かつては7つの海を支配し、世界各地の海峡、港湾、植民地、通商路に影響力を及ぼしてきた。世界の海のルールはイギリス海軍が作ってきた。
だが、現在のロイヤル・ネイビーは、もはやルール作りを主導できるような海軍ではない。
ウィキペディアの現役艦艇リスト(2025年12月時点)によれば、イギリス海軍のフリゲートと駆逐艦の合計は13隻にすぎない。その内訳は、フリゲート7隻、駆逐艦6隻である。2000年にはこの種の中核水上戦闘艦が32隻あった。2010年の国防見直し後でも19隻だった。それが今や13隻にまで縮小している(ジョン・ヒーリー防衛大臣が3月のラジオ番組で「17隻ある」と言って炎上している)。
イギリスは空母も有しており、原子力潜水艦も持ち、核抑止力も維持しており、現在も高い軍事力と防衛力を有していると言っていいだろう。だが、重要海峡で商船を護衛し、危機に即応し、世界規模で継続的に海上交通路を守るという意味では、艦隊規模は十分であるとは言えなくなっている。
