【バルセロナ IPS=マニュエル・マノネレス】
「欧州はもはや、失われ、二度と戻らない旧来の世界秩序の管理人であってはならない。(中略)より現実的で、国益に根ざした外交政策が必要である。」
European Commission President Ursula von der Leyen
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が1週間前、ブリュッセルでのEU大使会議で語ったこの発言は、大きな波紋を呼んだ。欧州理事会のアントニオ・コスタ議長はほぼ即座に反論し、欧州議会では不信任動議のうわさまで飛び交った。複数の欧州首脳からも、公然・非公然の批判が相次ぎ、委員長自身もほどなく全面的に発言を撤回した。
だが、問題はなお残る。これは、常に時流に乗ろうとすることで知られる委員長の一時的な判断ミスだったのか。それとも、トランプ流の混沌や、中国、ロシアなどから発せられる権威主義的衝動が形づくる新たな「無秩序」に、より深く同調していることの表れなのか。
前者であるなら、深刻ではあっても、なお過誤として処理できる。だが後者であるなら、はるかに重大で、しかも危険な問題に直面していることになる。
EUでは、これをフォン・デア・ライエン氏による明らかに失敗した試み、すなわち、当時ドイツのメルツ首相―同国出身で同じ政治的系譜に属する人物―が唱えていた、トランプ路線により近い政策へとEUを誘導しようとしたものだと受け止める向きもある。
もっとも、そのメルツ氏自身もここ数年で立場を変えてきた。就任から1年足らずで支持率が26%に落ち込むという、自らの極めて脆弱な政治基盤を踏まえての変化であり、その数字はトランプ氏と並ぶほど低い。
しかし欧州委員長の発言をめぐって本当に憂慮すべきなのは、現代の主要な地政学的課題―イランと中東全域での戦争、ウクライナ戦争、ベネズエラ情勢―をめぐってすでに深く分断されている欧州において、EUの「顔」として世界的に認識されている人物が、欧州統合の創設理念とここまで鋭く食い違う演説を行ったことである。
欧州プロジェクトは、その強みと同時に限界を抱えながらも、第二次世界大戦の灰燼の中から築かれた。1920年代から30年代の全体主義体制がもたらした破局の記憶と、「鉄のカーテン」の向こう側に広がったスターリン主義的全体主義への対抗という歴史的経験の上に成り立っている。
European Union Flag
その基盤にあるのは、ヒューマニズム、人権の尊重と擁護、そして共有された社会的権利と価値である。同時にそれは、多くの欠陥を抱えつつも、なお混沌と弱肉強食の世界から私たちを遠ざけ得る唯一の現実的な仕組みである「ルールに基づく国際秩序」の必要性に立脚している。いま世界の主要大国の一部は、まさにその反対方向へと私たちを引きずり込もうとしている。
国連は危機にあるのか。疑いようもなく、そうである。多国間主義は後退し、国際法の尊重は歴史的な低水準にあるのか。これもまた否定できない現実である。だが、その暗い状況への対応として、この劣化を招いた当事者たちの思考様式そのものを取り込むべきだということになるのだろうか。率直に言えば、それは理性の放棄にほかならない。
私たちは激動の時代を生きている。欧州はたしかに、より大きな戦略的自律性を追求しなければならない。しかし、その自律性は防衛分野に限られるべきではない。とりわけ急務なのは、技術財やサービスの分野における真の自立である。この領域で米国への依存が続く限り、欧州は隷属に近い立場に置かれ続けるからだ。
さらに、伝統的な大西洋横断関係がかつてないほど緊張している現在―その主因は、現ホワイトハウスの主とその周辺による、ほとんど強迫的ともいえる姿勢にある―欧州は、通商を含むあらゆる分野で戦略的連携を築き、あるいは強化する必要がある。これはすでにインドとの間で進みつつあり、メルコスールとも可及的速やかに実現されるべきである。
Manuel Manonelles
しかし、欧州の将来―言い換えれば、本当に重要な意味での欧州の将来―が、国際秩序と国際機関システムをさらに弱体化させる方向にあるかのように語ることは、はっきり言って無責任である。
多国間主義は、単なる理念の問題ではない。それは責任の問題であり、同時に効率性と実効性の問題でもある。気候変動、移民の流れ、世界的公衆衛生、AIの影響といった、欧州が直面する主要課題に、欧州は本当に単独で対処できると考えているのだろうか。
欧州が欧州であり続けるためにも、多国間主義は不可欠である。だからこそ欧州は、いまこそこれまで以上に多国間主義にコミットしなければならない。無邪気な理想主義ではなく、現実主義をもって。しかし同時に、欧州プロジェクトの将来と、大国を含む諸国の間に最低限の秩序と協力が維持されることとの間に、深い相互依存関係があることを十分に認識しながらである。
そのために必要なのは、混沌という選択肢に抗し、協力を可能にする空間と制度を擁護し、強化することである。無視し、脇に追いやることではない。(原文へ)
マニュエル・マノネレス氏は、スペインのブランケルナ=ラモン・リュイ大学准教授(国際関係論)。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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