クラシックスタディは米国製、DLSは英国製。製造拠点も技術思想も異なる2台が、シンガーの深化を物語る
2026年4月10日から12日に幕張メッセで開催された「オートモビルカウンシル2026」には、「シンガー・ヴィークル・デザイン」の2作品が登場しました。コーンズ・グループを通じて日本に持ち込まれた水色の「クラシックスタディ」とモスグリーンの「DLS」の2台です。一見よく似たこの2台のようですが、製造拠点も搭載エンジンも、じつはコンセプトからまったく異なる存在なのです。では、2台の違いとシンガーの哲学について紐解きます。
【画像】米国製の「クラシックスタディ」と英国製の「DLS」を見る(全12枚)
ポルシェへの憧れでミュージシャンから転身のロブ・ディキンソン、2009年創業「シンガー」はレストモッド旋風の源流
欧米から日本に至るクラシックカー界で、2000年代以降にしばしば登場するようになった「レストモッド(Restmod)」は、「レストレーション(Restoration)」と「モディフィケーション(Modification)」を組み合わせた造語だ。古いクルマをレストアしながら現代のテクノロジーを積極的に導入し、まったく新しい価値を持つクルマを創り出すムーブメントであり、とくに2020年代以降は新たなブランドが続々と台頭している。
このムーブメントの世界的な旗手として象徴的な存在となっているのが「シンガー・ヴィークル・デザイン」だ。現在では、本拠である米国カリフォルニア州トーランスに約350名、ウィリアムズとの合弁事業である英国オックスフォードシャーのファクトリーにも約250名のスタッフを擁する。
同社の創業者兼エグゼクティヴチェアマンであるロブ・ディキンソン氏は、少年時代からポルシェ 911に憧れ、長じてミュージシャンとして成功を収めたのちに念願の 911を手に入れた。理想とするポルシェを創りたいという思いに駆られた彼は、まず自身の愛車に手を加え、そこからシンガーの伝説が始まった。改造した 911の魅力に目を留めた友人たちから同種のクルマを作ってほしいという依頼が相次いだことで、2009年にカリフォルニア州トーランスにてレストア会社として正式に創業している。
米拠点は「黄金期の美学の昇華」、英拠点は「F1由来の超高性能」を得意とするシンガーは「似て非なるポルシェ」を作り出す
創業当初から手掛けてきたのが「クラシックスタディ」だ。ポルシェ 964系 911をベースに、ナロー時代のスパルタンな雰囲気をセンス良く体現したレストモッド車として生まれた。「数台程度ならば……」という当初の目論見から大きく躍進し、最終的には約450台が完成した段階で製作プログラムを終了した。マーケット価値の低下を避けるための判断だったという。
さらに2018年には英国「ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング」とのコラボレーションを確立。F1GPで培われたウィリアムズのテクノロジーを大胆に投入した「DLS(ダイナミック・ライトウエイト・スタディ)」を開発し、同年の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」にて大々的に発表した。カーボンファイバー製ボディをはじめとする軽量構造と空力テクノロジー、そして完全新設計のフラット 6自然吸気エンジンが、その核心をなしている。
今回のオートモビルカウンシルのテーマ展示「レストモッド」コーナーと、隣接する自社ブースに出展した2台は、いずれもシンガー・ヴィークル・デザイン社と日本国内における顧客のレストア依頼をサポートするパートナーシップ契約を締結している「コーンズ・グループ」からの出展だ。ともに 1973年式ポルシェ「911 カレラRS 2.7」を意識したかに見える魅力的なスタイリングを持つ。しかし一見大差ないように感じられるこの 2台は、じつはまったくの別物なのである。
