太陽系の巨大惑星である「木星」と「土星」は、多数の衛星を従えています。その総数は、直径数百m以上のものに限定しても数百個あると言われています。

太陽系の小天体の発見報告を管轄する「小惑星センター(MPC)」は、2026年3月から4月にかけて配信した電子回報で、木星の衛星と土星の衛星がそれぞれ18個ずつ追加されたことを公表しました。これにより、木星の衛星の総数は115個、土星の衛星の総数は292個(※1)となり、木星は土星に次ぐ形で100個の大台を突破しました。

※1…衛星の仮符号が振られているものの、誤認である可能性がある3個を除く。

図1: 各惑星の衛星数のグラフ。(Credit: 彩恵りり / いらすとやより各惑星のイラストを使用)【▲ 図1: 各惑星の衛星数のグラフ。(Credit: 彩恵りり / いらすとやより各惑星のイラストを使用)】そもそも「衛星」の定義とは

太陽系の巨大惑星である「木星」と「土星」は、その強い重力によって多数の(自然)衛星を従えていることが分かっています。近年は望遠鏡の進歩だけでなく、発見に関わる観測技術も進歩したため、遠く離れた地球からの観測でも多数の衛星が発見されるようになりました。

ところで、新衛星発見の報があると必ず出てくるのは「衛星の定義は何か?」という疑問です。

実は現時点では、公式な “衛星の定義” というのは存在しないため、この質問に答えることはできません。とはいえ事実上は「太陽以外の天体の周りを長期間公転していることが、観測によって証明できた天体」が定義となります。

これにより、1個の天体として識別・追跡することができない環の構成物質は衛星のカウントから除外されます(※2)。同じく、数か月~数年の間だけ重力に捉えられ、一時的な衛星として振る舞う小惑星や彗星も、衛星のカウントから除外されます。

※2…裏を返すと、1個の天体として識別可能ならば、環の中に埋め込まれていても衛星としてカウントされます。その唯一の例は「S/2009 S 1」であり、土星のB環の中にある直径約300mの塊として識別されます。

上述した衛星の事実上の定義は、衛星の登録にも関係しています。新衛星の発見報告は、太陽系の小天体の発見報告を管轄する「小惑星センター」が受け付けており、公転軌道などの詳細なデータを提出する必要があります。この報告に基づき、小惑星センターは電子回報を発行します。

天文コミュニティの間で「新衛星が発見された」と認識されるためには、この小惑星センターの電子回報の発行が事実上の要件となっています(※3)。これらの手続きはどれも明文化されているわけではありませんが、この運用実態が衛星の事実上の定義を決めているのです。

※3…「CBET(国際天文学連合天文電報中央局が発行する電子速報)」のように、小惑星センターの電子回報と同等の地位にあると見なされる、他の報告を基にする場合もあります。

この事実上の定義により、今回の報告以前では、木星の衛星は97個、土星の衛星は274個となっていました。土星の衛星は既に3桁の発見数となっており、木星の衛星も100個の大台が見えている状況でした。

木星の衛星数は100個の大台を突破図2: 木星と土星の衛星数の推移グラフ。木星は土星に次いで、100個以上の衛星を持つ惑星となりました。(Credit: 彩恵りり)【▲ 図2: 木星と土星の衛星数の推移グラフ。木星は土星に次いで、100個以上の衛星を持つ惑星となりました。(Credit: 彩恵りり)】

まずは木星の新衛星から解説します。今回は3月16日に4個、4月9日に14個の新衛星の発見が電子回報にて公表されたため、木星の衛星の総数は115個となりました。衛星数が100個を超えた惑星は、土星に次いで観測史上2番目です。

木星の新衛星は、「S/2010 J 3」「S/2010 J 4」「S/2010 J 5」「S/2010 J 6」「S/2011 J 4」「S/2011 J 5」「S/2011 J 6」「S/2017 J 12」「S/2017 J 13」「S/2017 J 14」「S/2017 J 15」「S/2017 J 16」「S/2017 J 17」「S/2017 J 18」「S/2018 J 5」「S/2021 J 7」「S/2021 J 8」「S/2024 J 1」という名前です。全てが命名規則による仮符号での名前です。

どの衛星も、直径は1~3kmと推定されます。過去の研究では、木星には直径1km以上の衛星が100個以上あるとする推定があることを考えると、今回の発見数はそれと一致していると見ることができます。

衛星発見の元となるデータが取得されたのは、ハワイの「すばる望遠鏡」やチリの「マゼラン望遠鏡」など、世界のいくつかの天文台に所属する望遠鏡によるものですが、全18個の新衛星のうち、17個の発見にはカーネギー研究所のスコット・S・シェパード氏が関わっています。観測者がシェパード氏単独となっている衛星もいくつかあります。

S/2010 J 5のみ、台湾・中央研究院天文及天文物理研究所のエドワード・J・アシュトン氏(Edward James Ashton)を筆頭とする観測チームが発見しています。これはシェパード氏らが発見した17個と比べても格段に暗いことから、後述するアシュトン氏らの観測手法によって発見できたと考えられます。

図3: 軌道要素に基づいた、木星の衛星の各グループ。この図には、今回発見された衛星は掲載されていないことに注意。(Credit: Scott S. Sheppard / 筆者(彩恵りり)により日本語訳)【▲ 図3: 軌道要素に基づいた、木星の衛星の各グループ。この図には、今回発見された衛星は掲載されていないことに注意。(Credit: Scott S. Sheppard / 筆者(彩恵りり)により日本語訳)】

推定される18個の衛星のグループは、ヒマリア群が2個、アナンケ群が1個、カルメ群が10個、パシファエ群が5個と推定されます。これらの分類が正しいとすると、群の名前ともなっている4つの代表的な衛星から分裂した破片である可能性があることになります。

土星の衛星には関心を惹くものも

一方で土星の衛星は、新たに「S/2020 S 45」「S/2020 S 46」「S/2020 S 47」「S/2020 S 48」「S/2020 S 49」「S/2023 S 51」「S/2023 S 52」「S/2023 S 53」「S/2023 S 54」「S/2023 S 55」「S/2023 S 56」「S/2023 S 57」「S/2023 S 58」「S/2023 S 59」「S/2023 S 60」「S/2023 S 61」「S/2023 S 62」「S/2023 S 63」の計18個の新衛星が報告されました。3月16日に公表された11個の衛星は、11個をまとめて1報にしているものの、4月9日に公表された7個の衛星は1個1報と、公表形式も変化しています。

18個の衛星のうち、S/2020 S 48とS/2020 S 49はイヌイット群、S/2023 S 54とS/2023 S 56はガリア群、残り14個は北欧群に暫定的に分類されます。いずれも直径は2~3kmと推定されます。

これら18個の新衛星の発見全てに、木星の新衛星でも登場したアシュトン氏を筆頭とした観測チームが関わっています。アシュトン氏は土星の新衛星を大量に発見しており、2023年に63個、2025年に128個の発見を公表しています。

図4: 軌道要素に基づいた、土星の衛星の各グループ。この図には、今回発見された衛星は掲載されていないことに注意。S/2023 S 56は、S/2004 S 24と似たような軌道要素を持ちますが、これは他のガリア群と離れた位置にあることが分かります。(Credit: Scott S. Sheppard / 筆者(彩恵りり)により日本語訳)【▲ 図4: 軌道要素に基づいた、土星の衛星の各グループ。この図には、今回発見された衛星は掲載されていないことに注意。S/2023 S 56は、S/2004 S 24と似たような軌道要素を持ちますが、これは他のガリア群と離れた位置にあることが分かります。(Credit: Scott S. Sheppard / 筆者(彩恵りり)により日本語訳)】

今回の発見について、電子回報以外の正式な発表はなく、詳しい発見状況も情報がありません。しかし、発見の元となる観測データは「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡」で取得されたこと、アシュトン氏らが発見に関わっていることを考えると、発見手法は「シフト・アンド・スタック」を用いた可能性が高いです。これは、短時間の露光で撮影した画像を重ね、衛星の像をはっきりとさせる技術です。

これほど小さくて暗い衛星は、単純に望遠鏡を向ければ発見できるものではありません。露光時間が短ければただのノイズと区別がつかず、一方で露光時間を長くすると惑星の光にまぎれてしまうからです。露光時間を短くするのとノイズとの区別を両立する技術がシフト・アンド・スタックです。

今回公表された11個の衛星のうち、特にS/2023 S 56は特筆する要素があります。先ほどガリア群に属すると書きましたが、他のガリア群に属する衛星と比べ、公転軌道の性質があまり似ていません。

このような、ガリア群に分類されながらも公転軌道に独自性がある衛星には、2019年に発見された「S/2004 S 24」という前例があります。実際、S/2023 S 56とS/2004 S 24の軌道要素は、お互いにとてもよく似ています。このためS/2023 S 56は、S/2004 S 24とともに、ガリア群ではない独立したグループを作っている可能性があります。

新たな衛星に固有名はつかないかもしれない

現在のところ、これらの新衛星は発見されたばかりであり、命名規則に基づく衛星の仮符号が名前となっています。普通、衛星の名前と言えば何かしらの固有名詞に基づく名前を指すかと思いますが、これはさらに観測データを積み重ねた後、一定の手続きを経て命名されるものです。

ただ、もしかすると、今回発見された衛星には固有名が与えられない可能性があります。これは、IAU(国際天文学連合)の命名規則にある、以下のルールに抵触するためです。

木星または土星の衛星に、名前を付けてはならない大きさの制限を設けるべきではないが、絶対等級H_Vが16.5より暗い木星または土星の衛星は、特別な科学的関心がある場合にのみ命名されるべきである。

(While there should be no size limit below which a Jovian or Saturnian satellite must not be named, a Jovian or Saturnian satellite with an absolute magnitude H_V fainter than 16.5 should only be named if it is of special scientific interest.)

木星と土星の衛星の場合、「絶対等級H_Vが16.5より暗い」とは「直径3kmより小さい」と読み替えられます。今回発見された合計36個の衛星のうち、絶対等級が16.5以上であるものは2個しかありません。また、このような衛星の性質には不確かさが付きまとうため、その2個についても16.5の閾値を上回っているかどうか、現時点では確定できません。このため今回発見された新衛星は、絶対等級16.5以上であることが確定するか、何か特別な性質を持つことが判明しない限り、事実上は命名されないことになります。

まだ観測が進んでない段階での予断となってしまいますが、現時点では特別な科学的関心がありそうなのは、公転軌道が独特であるS/2023 S 56のみと言えます。その他の衛星は、事実上命名される機会がないかもしれません。

もちろん、文言をよく見れば分かる通り、これは命名を禁止する絶対的な規則ではありません。とはいえ、衛星の発見数が激増している現状と、衛星の命名は特定の神話に基づくなどの制約があることを考慮すると、少なくとも当面は命名されない可能性の方が高いでしょう。

ひとことコメント

神様の名前が足りないという現実的な問題から、新衛星には名前がつかない可能性があるよ(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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