紫がかったダイコンやカリフラワー、ひょうたん形のカボチャ「バターナッツ」、直径15センチ前後の巨大なユズ――。徳島県石井町の産直市場「阿波食ミュージアム」に足を踏み入れると、ガラス越しに差し込む日光を受けて普段見かけない県産野菜が輝いていた。

 「炒め物、煮物、幅広いお料理に使えます」「ホクホクとした食感が人気です」と特徴や食べ方を記した手作りのポップが目に留まる。来店した徳島市の主婦(49)は「様々な野菜がそろっており、見ているだけで楽しい。味もおいしく、料理の幅が広がる」と笑顔を見せた。

 施設は2015年3月にオープンした。2階建てで店舗がある1階約300平方メートルで野菜や肉、魚、加工食品など計約2万品を販売。冬には希少野菜が常時10~20種類並ぶ。「農家さんを支援したい思いから、この産直は誕生した」。施設運営会社「阿波食」執行役員の小川満大さん(45)は誇らしげにそう語る。

紫ダイコンなどが並ぶ売り場で希少野菜の魅力を語る小川さん(徳島県石井町で)紫ダイコンなどが並ぶ売り場で希少野菜の魅力を語る小川さん(徳島県石井町で)

 開設当初から力を入れてきたのが、400人以上に上る契約農家への作付け提案という。阿波食の親会社は、野菜苗を販売する「竹内園芸」(徳島県板野町)で連携が強みだ。

 「この野菜、育ててみませんか」。小川さんは季節や陳列棚の売れ行きから客の好みを分析し、作付けに適した苗を契約農家に提案して耕作を促すことで、農家の多品種栽培を後押ししてきた。

 全国で農家の高齢化が進む中、徳島県内でも担い手不足は深刻になっている。農林水産省の調査によると、自営農業を主な仕事とする人は県内で1万4540人(昨年2月1日時点)で、この20年で半減した。大規模農業法人が台頭する一方、小・中規模農家が価格競争で後れを取っている実情もある。

 そうした現状に、阿波食が選んだのは「差別化戦略」だった。市場にほとんど出回らない個性的な作物を積極的に扱い、売り場に特色を出す。小川さんは「付加価値を高めることで、スーパーより1、2割高くても買ってくれる人がいる」と手応えを感じている。

 小川さんは板野町出身。東京でホテルや金融機関に勤めた経験がある。約15年前にUターンし、竹内園芸に入社した。前職で得た経営のノウハウを生かし、地元の農業に貢献したいと、阿波食の事業を始めた。

 農家に作付け提案するためには信頼関係が最も大切で、県の普及指導員を紹介して栽培方法を細かく教えてもらうなど丁寧に支援。採れた野菜を店で買い取って弁当にする工夫も凝らし、在庫が発生しないように気を配る。

高糖度の希少キャベツを収穫する妹尾さん(徳島県阿波市で)高糖度の希少キャベツを収穫する妹尾さん(徳島県阿波市で)

 阿波食の取り組みは契約農家にとっても支えになっている。高糖度のキャベツのほか、カリフラワーやカボチャの希少種を育てる徳島県阿波市の妹尾由彦さん(60)は「在庫の心配なく栽培に専念でき、作りがいがある。店に来れば農家同士で情報交換することができ、交流拠点にもなっている」と喜ぶ。

 「将来的には農家さんがさらに多品種の栽培に挑戦し、所得アップできるようにしたい。そうすれば、後継者も育つはずだ」。小川さんの挑戦は、地域の農業に新たな種をまいている。(南野々子)

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