久々に親に会うこの時期。親の健康状態や介護が始まったとき、きょうだい間などで役割分担を決めておくなど、早めに話し合っておくことが大切だと言われている。

「確かに、親が介護にかけられる資産がどれぐらいかるかなどは、ある程度把握しておく必要はあると思います。でも、具体的な介護について親も話したがらないし、子ども側も何を話したらいいかわからないというのが現実だと思います。私は母の介護が始まり、兄が当初介護に参加しなくて、苛立ちが募りました。そういった経験から、具体的でなくてもいいから、きょうだい間で親の介護に対してどんな思いを抱いているかを確認しておくといいのではと思いました。なぜなら、きょうだい間で発生する『きょうだい格差』の取材すると、多くの人が親の介護きっかけできょうだい間の問題で揉めることが多いからです」

そう語るのは、自分自身もきょうだい格差に悩んだ経験を持つライターの佐々木美和さんだ。親の介護について考えることが増えるこの時期に、佐々木さんの寄稿を全3編で展開する。前編では介護が「娘」や「近くに住んでいるもの」ばかりに偏る実態について、中編では佐々木さんが取材で得た知識から母親の介護に無関心だった兄が少しずつ介護に関わる様子をお伝えした。後編では、80代の母親の思わぬ変化について、佐々木さん自身の体験談を引き続き寄稿いただく。

再び歩けなくなった母

我が家では、最近驚くべき出来事があった。それは母の思考の変化だった。

母は3年前に股関節と骨盤の骨が砕けて、方向困難になった。その後、人工関節の手術を2度行い、リハビリを行ったことで、シルバーカーを使えば家の中、自宅周辺程度の移動は可能になった。介護認定も要介護2から要支援2まで回復していたのだ。掃除などは市区町村の生活サポートサービスにお願いし、洗濯、買い物、病院の通院等は私が担い、他の部分は母自身がやる、という形を1年ほど保っていた。

ところが昨年夏、母は再び立ち上がれなくなった。スタッフ不足で通っていたデイケアが長期間閉じてしまい、それと並行するように歩く力が失われていった。高齢者の筋力はこんなにも簡単に減ってしまうのか、と驚くばかりだった。気づいたら、ベッドから自力で起き上がれなくなり、ベッドに横になっても腰から足全体に激痛が走ると言い出し、再び「つらい」と言って毎日泣くようになった。

大学病院で調べると、筋力低下だけでなく、腰部脊柱管狭窄症が進んでいるとのことがわかり、強い痛み止めの投薬を試みることになった。しかし、なかなか症状は改善せず、母はベッドから起き上がれず、寝たままで過ごすようになった。トイレも間に合わないことが増え、おむつをし、座るのも大変で食事介助も必要になってしまったのだ。ケアマネージャーに相談し、要支援2のサポートでは補えないので、介護認定の差し戻し申請を行うことになった。

そんな矢先、私に10日間の出張が入ってしまった。どうしても断りたくない仕事だ。母に事情を話し、一時的にショートステイに入ってもらうことにした。まだ、新しい介護認定が下りてないため、入る施設が限られた。1日の入居費用は想定よりもかなり高かったが、仕方ない……。母は「このまま知らない場所で死ぬのね……」「もう家には帰れないのね」と、暗い表情で後ろ向きの発言を繰り返す……。仕方がないことだし、すぐに退所するのだから、と思っても、罪悪感に襲われた。

しかし、出張から戻ったら、「ここでお友だちができたのよ。家にひとりでいるよりも夜おトイレいくときにも介助してくださるし、食事の心配もないし……。足が痛くなくなるまで、もう少しここにいる」と明るい顔で母が言い出したのだ。

その後、母は要介護2の認定が下り、老健(介護老人施設)に入居できる資格を得ることができた。老健に入ればパーソナルなリハビリもあり、それでいて入居費用は安くなる。いろいろな施設の資料を取り寄せて、リハビリが充実していて、明るい施設を探し、私の自宅から車で15分ほどの老健に入居を決めた。

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