建築の価値や魅力を再発見する「建築ツーリズム」の人気が高まっている。非公開の建造物を限定公開する催しが全国に20件以上あり、イベントを有料化して持続可能な運営を目指す動きも広がる。保存や活用につなげようと、文化庁はこうした取り組みの振興策を本格化させる。(京都総局 夏井崇裕)

「大丸ヴィラ」の建物の特徴や歴史を説明するガイドツアー(11月上旬、京都市上京区で)「大丸ヴィラ」の建物の特徴や歴史を説明するガイドツアー(11月上旬、京都市上京区で)

 京都御苑の前に立つ「旧下村家住宅洋館」(京都市上京区)は、「大丸ヴィラ」の通称で知られる。大丸百貨店の創業家当主・下村正太郎の邸宅として、米国人建築家ウィリアム・M・ヴォーリズが設計した昭和初期の建築で、今年重要文化財に指定された。

 通常は非公開だが、毎年11月にある「京都モダン建築祭」の期間中のみ公開される。今年(11月1~9日)は定員20人のガイドツアー(1人6000円)を10回開催。大阪市天王寺区のアルバイトの男性(26)は「天井の意匠や鹿のオブジェが印象的で、普段は非公開の室内の細部が見られて楽しかった」と話した。

 洋館の維持には多額の費用と手間がかかる。建物の管理担当者は「ガイドツアーで歴史的価値を多くの人と共有し、残す必要性について皆で考えたい」と語る。

■倍率10倍も

 同祭は京都市などで作る実行委員会が2022年にスタート。京都市内の明治以降の建築が対象で、参加者はパスポートを購入し、期間中、何度でも入場できる。収益は建造物の所有者にも還元する。今年は129件の建造物が対象で、来場者数は延べ7万1000人といずれも過去最多を記録。倍率が10倍を超えたガイドツアーもあった。

 従来は無料が一般的だったが、京都の活況を受け、23年以降に神戸や東京、広島でも有料イベントが広がってきた。京都の建築祭実行委員会の前田尚武・京都美術工芸大特任教授(建築文化論)は「リノベーションの参考に近現代建築を訪れる人も多く、まちづくりや観光資源としての可能性もある」と指摘する。

■相次ぐ解体

 関心の高まりを受け、文化庁は今年度、各地の建築祭を横断的に紹介する新プロジェクト「LinkArchiScape(リンクアーキスケープ)」を発足。京都の建築祭に合わせ、全国の同様のイベントや建築を紹介する展覧会を京都市内で開催した。

 来年度以降は、同様の展覧会を各地で開く予定という。公式サイトで各地のイベントの特徴をまとめたコンテンツを充実させ、新たなイベントも支援する。

 背景にあるのは老朽化や耐震不足で著名な建築家が手がけた建造物が相次いで取り壊されている現状への危機感だ。22年以降、黒川紀章の代表作「中銀カプセルタワービル」や、坂倉準三による「羽島市旧本庁舎」が取り壊され、丹下健三が設計した「旧香川県立体育館」も解体手続きが進んでいる。

 同庁文化資源活用課の横田悠人・専門官は「全国のイベントを横断的に結ぶことで、近現代建築の活用や継承につながれば」と期待を寄せる。

 
◆建築ツーリズム=
建造物を巡って街歩きを楽しむ文化観光の一つ。複数の近現代建築を一定期間、特別公開する「建築祭」が増えており、アート作品の展示や、食のイベントを同時開催するケースもある。

関西発の最新ニュースと話題
あわせて読みたい

Share.