2025年10月18日 17:00 | 2025年10月18日 18:25 更新
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南部山浄水場の中央管理室で、大型モニターで取水や浄化などの運転状況を監視する職員=5月27日、白石市

宮城県知事選(26日投開票)で、県が2022年に始めた上下水道と工業用水の運営を民間に委ねる「みやぎ型管理運営方式」が、21年の前回知事選に続き争点の一つとなっている。 「民間の知恵と工夫で将来の料金高騰を抑える」と主張する現職に対し、新人は効果を疑問視し、「再公営化」を訴える候補も。事業の枠組みは複雑で、県の水道事業改革は検討当初から賛否両論があった。これまでの議論の経過と現状を整理した。
始まりは2017年
県が水道事業の運営権売却に関し、初めて具体的案を提示したのは今から8年前。17年の県議会2月定例会で関連調査費を計上された。
村井嘉浩知事が16年末にあった国の未来投資会議で、水道法改正を政府側に要望。参院厚生労働委員会で参考人質疑に立つなどして働きかけ、18年12月に県が認可を保持したまま運営権のみを民間に委託できる改正水道法が成立した。
県は上下水道と工業用水について民間企業が出資して設立する特定目的会社に20年間の運営権を与えることで、民間の知見を取り入れた事業運営の効率化、料金収入と設備の一括発注などによるコスト削減が期待できると主張した。
水道法改正の概要(国土交通省)
「みやぎ型」導入前後の県と民間の主な担当業務の変化は表の通り。
浄水場などの運転管理は従前から民間に委託しており、その点で変更はない。水質改善に使う薬品や資材の調達、設備の修繕や更新工事は民間に委ねられた。県は料金設定の権限を持ち、水質検査や管路更新を引き続き担っている。
県議会は19年の11月定例会で、「みやぎ型」の導入を可能にする条例改正案を賛成多数で可決した。採決の結果は賛成39、反対19。最大会派の自民党・県民会議、公明党県議団、1人会派の緑風会と21世紀クラブが賛成した。反対は共産党県議団と社民党県議団、無所属の会。立憲民主党系の第2会派みやぎ県民の声は賛成1人、反対10人だった。
村井氏は「完全民営化ではなく、県が給水責任を持つ『コンセッション方式』の官民連携だ」と説明。県議会からは「安全安心よりコスト削減を優先していると疑念を持つ県民もいる」「民間に頼らないと仕組みがつくれないこと自体が問題」といった批判が出た。
難解な仕組み、理解深まらず
県は21年3月、運営権を委ねる「優先交渉者」に国内企業の水処理大手「メタウォーター」や水メジャーの仏ヴェオリア傘下のヴェオリア・ジェネッツなど県内外の10社で構成するグループを選び、その年の12月に正式に実施契約を結んだ。
県が契約を結んだ「みずむすびマネジメントみやぎ」(MMM)は、メタウォーターが議決権株式の51%を保有。MMMと業務委託契約を結ぶ維持管理会社「みずむすびサービスみやぎ」(MSM)はヴェオリア・ジェネッツが筆頭会社となっている。維持管理の実務を担うMSMは、メタウォーターが33・5%の議決権株式を保有し、議決拒否権を持つ。MSMに業務の不履行があった場合、運営会社のMMMは契約を解除できる仕組みになっている。
「みやぎ型」に関する県主催の住民説明会は21年4月~6月に仙台、大崎両市と大河原町の4会場で計6回開催されたが、事業の難解さも手伝ってか関心は高まらなかった。一般参加者は計198人で、総定員(400人)の5割に満たなかった。

水道事業に関する住民説明会の様子=2021年5月、仙台市青葉区
宮城県の水道事業参考資料
前回知事選でも争点に
水道事業の運営権売却は、最終的に21年7月の県議会で賛成多数で可決された。採決では村井県政与党の自民党会派の2人が「外資参入への懸念」を理由に棄権した。県議会の可決から3カ月後、21年10月の前回知事選で争点の一つとなった。選挙戦は5選を目指す無所属現職の村井氏と、市民団体が中心となって擁立した無所属新人で医師の長純一氏(22年死去)の一騎打ちだった。
当時、村井氏は「人口減少による水道料金の上昇を低く抑えられる」などと必要性を訴えた。長氏は「手続きをいったん凍結し、県民投票などを通じて県民の意向を確認する」などと主張していた。結果は村井氏が68万3111票、長氏が37万3066票で、村井氏が大差で5選を果たした。投票率は56・29%で、17年知事選より3・00ポイント上昇した。
スタート3年、現状は…
紆余(うよ)曲折を経て22年4月にスタートした「みやぎ型」は開始から3年が過ぎた。運営会社のMMMは20年間で従来比337億円のコスト削減を目指しており、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)化など、運営の効率化を進めている。
県によると、浄水施設で使用する薬品の一括購入なども含め、開始から2年間でコスト削減額が想定より4億円上振れした。中央監視システムの導入で保守点検に当たる技術者は各施設から北部、中南部の2カ所に集約した。スタート時に約270人いたMSMの社員は約240人に減った。
県は24年度から5年間、大崎広域水道事業への供給単価を1立方メートル当たり1・6円、仙南・仙塩広域水道事業を7・0円引き下げた。最終消費者が払う水道料金は市町村レベルで設定するため、末端価格にはほぼ影響していないが、老朽化した施設の更新や耐震化の財源確保を目的に、全国各地で値上げの動きが続く中で一定の歯止めにはなった。
運営会社のMMMの24年度決算は純利益6億6400万円で当初の計画を15・1%上回り、維持管理会社のMSMも24年度決算で純利益2900万円を確保。事業は現時点で深刻なトラブルもなく滑り出しは順調と言えるが、物価高や電力料金高騰のあおりで経営環境は厳しさを増している。

七ケ宿ダムの水を供給する南部山浄水場=白石市
水道料金は「地理的条件」で格差
水道料金は固定費に当たる基本料金と、使用量に応じて変動する従量料金がある。
日本水道協会(東京)によると、料金は人口密度や水源や管路の長さといった地理的条件によって差が生じやすい。人口の多い都市部は水の使用量が多いため料金が下がりやすく、中山間地や過疎地は上がりやすい。北日本の寒冷地は水道管の凍結防止費用がかさむ事情もあるという。
水道料金が割高とされる宮城県内でも自治体ごとに差がある。国土交通省が公開している水道料金の比較ソフトで調べると、1カ月20立方メートル当たりの料金(20年度、家事用または口径13ミリ、下水を除く)は全国平均が約3300円。宮城県内は仙台市が3553円、県北の栗原市が5481円、県南の丸森町が5010円と、ばらつきが大きい。
県水道経営課によると、宮城は西部の山間部にあるダムから取水して各自治体に供給しているため「管路の総延長が長くなり、地域ごとに整備コストが上乗せされている」(担当者)という。
調べてみよう!あなたのまちの水道(国土交通省)
知事選の主要3候補の県水道事業に関する主張は次の通り。
無所属現職の村井嘉浩氏(10月9日、仙台市青葉区での演説抜粋)

村井候補
私は今回の宮城県の方式を進めるために、水道法を改正してもらった。旧水道法は完全に役所がやるか、完全に民営化するかしか方法がなかった。今まで宮城県は公営だったが、実際の運用管理は民間に業務委託していた。そこで所有権は宮城県、最終的な責任も宮城県、水は必ず宮城県が毎日チェックできる形に変えてもらった。
これは民営化ではなくてコンセッション。9つの事業所をデジタル技術で1カ所に集約して監視できるようにした。飲み水で一番お金がかかる薬品代をまとめて調達することで下げることができた。効率的な機械を早めに導入して経費を抑えた。その結果、20年間で3300億円以上かかるとされていた負担を、337億円も減らせた。外資系が駄目だという人もいるが、(参画する)ヴェオリアは日本で80カ所以上浄水場の管理をしている。社員数は1万人。うち外国人は50人で残りは日本人だ。
無所属現職・村井嘉浩氏の第一声全文(河北新報オンライン)
無所属新人の元参院議員和田政宗氏(10月9日、仙台市太白区での演説抜粋)

和田候補
公営でやるということが、水道事業の前提です。民営化したことによって、向こう20年の契約の中で、相対的にコストカットができるのではないかという。これは未来予測が入っているので、本当にそれだけのコストカットができるかということは分からない。民営化しても水道料金が依然全国3位の高止まりをしたままだ。
外資が管理会社の51%に入っています。浄水場などの管理も行っている。例えば、これはフランスの企業なので、紛争的な争いは、フランスと日本では起きないと確信をしてはいるけれども、もし経済摩擦などが起きて、引き上げてきてくださいっていうことになったら、どうなるのか。水道をひねっても水が出ない。蛇口をひねって水道は出るけれども、浄水されていないものがそのまま出てくる。こういう状況もあり得る。再公営化をして、水道料金を下げていきたい。
無所属新人・和田政宗氏の第一声全文(河北新報オンライン)
無所属新人の元県議遊佐美由紀氏(9月20日、仙台市青葉区での記者会見抜粋)

遊佐候補
実はこれは、水道法改正からありまして、これ民主党政権の時に改正した。PFI(民間資金活用による社会資本整備)法ができて、水道もその中に入ってくるっていうこともあるが、私たちが非常に問題に思っていたのは、水道料金がこのままでいくと上がってしまうこと。管路の更新投資とコンセッション方式を一緒にすることによって県民の負担、つまり水道料金も低減化を目指す政策であったが、これを解約するには、2億円で(契約を)解消できる。
知事になったら、コンセッション方式の財務諸表をしっかりチェックして、もし安全性、20年後に全く(コストが)低減化できないようだったら、これを解消しようと考えている。きちっと検証することが必要。社会の実験に宮城県がなってはならない。この(宮城に取り組みの)後に他県もやっていない。
県議・遊佐美由紀氏が立候補を正式表明<記者会見ダイジェスト>
