連載《とっておきの旅》Farm to Table オーストラリア編(上)
オーストラリア第2の都市で「食都」としても知られるメルボルン。ここで今、ファーム・トゥ・テーブルへの取り組みが広がる。
【写真13枚】サワードウ・ブレッド、ベイクド・エッグ、地ビールやワイン…食材の力が伝わる料理・お酒の数々をチェック!
「農場から直接食卓へ」を意味するファーム・トゥ・テーブルは1970年代初頭に米国の西海岸で始まり、世界中に広まった。日本語での「地産地消」に近い、この言葉には、地域の農産物や食材を使うことで、食の安全を守り、流通によって出る温暖化ガスを減らし、地域の産業と雇用を守るという意味合いが込められている。
旅の目的は、メルボルンの食を支える食材供給地ギプスランドを訪れ、ファーム・トゥ・テーブルの現在を見るというもの。ギプスランドはオーストラリアの南東地域。ビクトリア州東部、バス海峡に沿ってニュー・サウス・ウェールズ州との州境まで東西約500km、南北約200kmにわたって広がるエリアだ。酪農、牧畜、野菜や果物の栽培が盛んで、海の幸にも恵まれる。日本で言うと北海道のイメージに近いかもしれない。
メルボルンから小型飛行機でイースト・ギプスランドのベアンズデールに飛んだ。東から入って、西に進み、メルボルンで旅を終える。
■「素材が良い」「おいしい」では表し尽くせない
オージーたちは英国伝統のライフスタイルの影響もあり、朝食を大切にしている。だから朝食のうまい店の評判は遠くまで届く。ベアンズデール近郊、人口500人余りの町リンデナウにある「ザ・ロング・パドック」もまさにそんな店の一つだ。
入り口の扉を開けてまず目につくのは焼き菓子のショーケース。タルト、ケーキ、マフィンの類いが11種類並ぶ。それを見るだけで心がほんわかと温まる。テーブルにつき、メニューを見ても奇をてらったようなものはない。ココナツヨーグルトの乗ったミューズリーとサワードウ・トーストの付いたベイクド・エッグを注文した。
ほどなく、店主のターニャ・ベルティーノさんがみっしりとレーズンの詰まったトーストにバターとクインス(マルメロ)のジャムを添えて持ってきた。一口かじると、材料の穀類、フルーツ、サワー種、全てが健全、かつ上質であることがわかる。
例えば小麦粉は、サステナブル農法(環境への負荷を抑えた農業)で栽培された在来種の小麦を石臼でひいたものだという。朝食全体を通じてこの店のテーブルには「素材が良い」「おいしい」では表し尽くせない何かがあった。
ターニャさんはパートナーのアントン・アイゼンメンガーさんと共にメルボルンやロンドンの名店で料理経験を積んでいたが、ある時期から都会の慌ただしさに疲れを感じるようになった。心のゆとりを求め、新天地を探した二人が新たな舞台に選んだのがターニャさんの故郷リンデナウで売りに出されていたカフェだった。
「元々はベーカリーだった建物で、スコッチオーブン(まき窯)が当時のまま残されていて、それが決め手になりました」とターニャさん。彼らはローカルの良質な食材を使い、自分たちが子供の頃慣れ親しんだような料理やお菓子を丁寧に作って出すことにした。開業は2016年の「母の日」を選んだ。
当初は地元の人たちが客の大半だった。「余った野菜やフルーツを店で使ってほしいと持ってきてくれたりして、私たちを支えてくれたのです」とターニャさん。地域のコミュニティーにとってもこういう場所、こういう味が必要だったのだろう。くだんのスコッチオーブンは、今もケーキ作りや肉料理に利用されているという。
