Europe Trends

2024.10.31


欧州経済

英国経済


英新政権の財政運営
~歳出拡大+増税=健全財政~



田中 理



要旨

英国で7月に誕生した労働党政権下で初の予算案は、700億ポンドの歳出拡大と400億ポンドの増税を組み合わせることで、財政再建と経済再生の両立を目指す。増税の半分以上は企業が負担し、企業収益圧迫や雇用削減につながる恐れもあるが、増税規模を遥かに上回る歳出拡大が見込まれ、成長・物価の押し上げが予想される。このことはBOEの漸進的な利下げ継続の可能性を高める


7月に就任した英国のリーブス財務相は30日、スターマー首相が率いる労働党政権誕生後で初となる秋季予算を発表した。向こう5年の財政拡張規模は対GDP比率で1.0%と、コロナ期を除けば過去15年で最大となる(図表1)。2024~25会計年度に250億ポンド、その後の5年平均で695億ポンドの歳出拡大を見込む。うち648億ポンドが省庁予算で、このうち3分の2が日々の省庁運営に、残りの3分の1が公共投資に充てられる。省庁予算の中で増加額が大きいのは、国民保健サービス(NHS)、国防、教育、国境管理、輸送関連など。歳出の対GDP比率は、コロナ期に50%を超えた後、45%前後に低下し、予測期間中は概ね同水準での推移を見込む(図表2)。

図表図表
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その原資として、向こう5年平均で362億ポンドの大規模増税を計画する。主な増税項目としては、国民保険料率の雇用者負担分引き上げ(13.8%→15%)などが245億ポンドで最大、徴税強化(コンプラや債券回収の担当職員増員などを通じた税収増)が40億ポンド、非定住外国人への課税強化(国外所得に対する課税減免措置の廃止など)が25億ポンド、キャピタルゲイン課税の強化(最低税率を10→18%に、最高税率を20→24%に引き上げるなど)が17億ポンド、私立学校の授業料への課税(20%のVAT税率適用など)で16億ポンド、相続税の課税強化(100万ポンド以上の資産に対する控除を廃止するなど)が11億ポンド。こうした一連の増税措置により、税負担の対GDP比率は2026~27会計年度以降に38%を超え、第二次世界大戦後の最高を更新する(図表3)。

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増税で賄いきれない金額は借り入れ増加で穴埋めする。2024~25会計年度の公的部門のネット借り入れ(PSNB)は1275億ポンドと、前政権時代から403億ポンド拡大する。その後の5年平均では818億ポンドと、前政権時代から227億ポンドの拡大を見込む(前政権は2029~30年度の計数を発表していなかったため4年平均)。借り入れ増加に伴い、公的部門のネット債務残高の対GDP比率は2024~25会計年度に98%を突破し、その後97%前後に低下するが、前政権時代の想定と比べて高止まりする(図表4)。

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財政規律の遵守と経済再生の両立を目指す新政権は、秋季予算の発表に合わせて財政ルールを見直した。2029~30会計年度までに歳出と税収をバランスさせ、その後は3年ローリング方式で収支の均衡化を義務付ける(安定ルール)。また、2029~30会計年度までに公的部門のネット金融負債残高(PSNFL)の対GDP比率を低下させ、その後は3年ローリング方式で債務比率の低下を義務付ける(投資ルール)。従来は公的部門のネット債務残高(PSND)を債務残高指標に用いてきたが、非流動性金融資産・負債を含む公的部門ネット金融債務残高(PSNFL)を参照指標とすることで、借り入れ可能額をやや増やすことにつながる。

前政権下で悪化した財政状況を引き継いだ労働党政権は、財政規律を度外視した大型減税策が金融市場の動揺を招いたトラスショックの再来を回避しつつ、経済再生やNHSの立て直しに必要な歳出規模を確保するには、大幅増税を盛り込む以外になかった。増税の半分以上は企業が負担し、企業収益圧迫や雇用削減につながる恐れもあるが、増税規模を遥かに上回る歳出拡大が見込まれ、成長・物価の押し上げが予想される。このことはイングランド銀行(BOE)の漸進的な利下げ継続の可能性を高めよう。

以上



田中 理

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