共通通貨を持つユーロ圏だが、各国の経済格差は大きい。労働移動はそれを緩和し、安定をもたらす手段となるのか。
欠かせない各国間の制度調和と移民・難民の社会統合
2009年末に始まったギリシャ危機を発端とするユーロ危機は、南欧諸国からユーロ圏全体へと波及し、ユーロ圏の長期低迷を招いた。危機の一因として指摘されるのが、「ユーロ圏は最適通貨圏ではない」という問題である。
最適通貨圏とは単一の通貨圏として最適な規模の通貨圏を指す。最適通貨圏理論では、通貨統合による便益(利益)と費用を考察し、どのような条件下で通貨圏が最適な規模となるかを考察する。
通貨統合の便益として、両替費用の節約や価格の透明性の向上などが挙げられる。これは通貨にも規模の経済が働くためであり、通貨圏の規模が大きいほど通貨統合の便益が増大すると考えられる。しかし、規模拡大に伴い、国ごとの経済状況の違いが広がり、調整費用も増大する。特に、金融政策が通貨統合圏全体に合わせた政策となるため、各国の経済状況に応じた金融政策ができなくなることが最も大きな費用となる。
こうした視点から、多くの経済学者がユーロ圏を評価した結果、ユーロ圏は最適通貨圏ではないことが指摘され、それによりユーロ危機が生じたとされたのである。
未達成である最適通貨圏条件の一つとして、「労働の移動性」条件がある。例えば、ドイツで好景気による労働需要の増加、ギリシャで不景気による労働需要の低下が同時に発生したとする。この時、ギリシャからドイツへ労働者が移動すれば、ギリシャでは失業問題が解決し、ドイツでは労働者の増加によって賃金の上昇圧力とインフレ圧力が弱まると考えられる。これにより通貨統合圏内の非対称な状況が調整される。
EU(欧州連合)ではアイルランドとキプロスを除く25カ国(EU非加盟国を加えると計29カ国)が域内の自由な移動を可能にする「シェンゲン協定」…
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週刊エコノミスト
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