視覚を意識 幻想漂う3編
「読者との一期一会の出会いを絶えず本は求めている」
精巧な修辞で物語を紡ぐ作家の諏訪哲史さん(54)が、新刊『
昏色(くれいろ)
の都』(国書刊行会)を出版した。小説の単行本は7年ぶりだ。文芸誌での初出時から3倍に書き直した唯美的な表題作をはじめ、文体は違っても幻想性のある3編を収めた。
「もう詩は書きません。自分の中でルーチンにしたくない」……松浦寿輝さん、47年間の作品を収めた全詩集を刊行
デビュー作にして芥川賞受賞作の『アサッテの人』から2冊目の単行本を出版するのに9か月、3作目までに1年数か月を費やした。その次はさらに2年半、前作『岩塩の女王』の刊行には6年を要した。「倍々だったので、今回は12年かかるかなと思っていたら、7年だった。僕の中では早めに出たと安心しています」
『アサッテの人』で自身が抱える
吃音(きつおん)
を扱い、聴覚を意識した作家は今回、見ることと向き合った。「本質的な視覚芸術論になっている可能性がある」という。
表題作の舞台は、ベルギーの古都ブリュージュだ。盲目で生まれるも幼少期に角膜を移植して視力を得た26歳の〈わたし〉が、再び失明しつつある1995年の秋日から来し方を回顧する。雲間を赤く染めながらフランドルの平原に沈みゆく西日、幼年学校の聖具室での少女2人との
淫靡(いんび)
な戯れ――。晴眼者として両目に焼き付けた光景が、ある美しさを伴ってよみがえる。
奇譚(きたん)
でもなければ、まして天使などは出てこない。それでも作品全体を薄皮のように幻想の雲が覆う。
「幻想は、ある視覚的な体験を経て、その後にねじ曲げられたり、変えられたりすることで生まれる。そのためには、闇を抱える必要がある。もう一度盲目になった彼の観念の中で、見え始めてから見えなくなるまでに映し込んだものが、美しく変容していくイメージを、余韻として(作品に)持たせたかった」 2018年の芸術論集『紋章と時間』で、澁澤龍彦から村上春樹に至るまで、文学作品を徹底的に論じ、縦横に語り尽くした作家は、小説を深く読み解く批評家でもある。「年を重ねると批評力が上がって、自分の作品をさらに厳しい目で添削するようになる。作家人生は、ようやく水面に出たら、息が吸えなくなって、また浮かび上がらなきゃいけない、の繰り返し。今回は一番苦しかった。でも、手応えは相当ある」(真崎隆文)
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