
2026年5月21日、中央ヨーロッパ最大級のスタートアップの祭典「ViennaUP」のサイドイベントとして、ウィーンにて「10 Years GIN Connects」が開催された。オーストリアを拠点にスタートアップのグローバル展開を支援する国家イニシアチブ「Global Incubator Network Austria(GIN)」の設立10周年を記念するイベントだ。
オーストリアはかつて巧みな婚姻外交によってヨーロッパ広域に帝国を拡大し、戦後は永世中立国として平和を掲げてきた歴史を持つ。1995年のEU加盟を経て、現在は多国籍企業やスタートアップにとって「EU経済圏への入口」としても機能している。こうした異なる文化や地域を結びつけてきた歴史的DNAを受け継ぐかのように、GINはこの10年間、スタートアップを対象に、オーストリアとヨーロッパとアジアを結びつけてきた。

双方向の市場開拓を支援する「GIN」の取り組み
連邦政府主導で設立されたGINは、オーストリア振興銀行(AWS)とオーストリア研究助成局(FFG)の共同運営により、主に以下の2つの強力なプログラムを展開している。ひとつは「GO ASIA」でオーストリアのスタートアップが、日本、韓国、シンガポール、香港、中国本土、イスラエルといったアジア、中東のターゲット市場へ進出するのを支援するプログラムだ。
もうひとつが、逆方向の「GO AUSTRIA」で、アジア各国のスタートアップが、オーストリアを拠点にしてヨーロッパ市場へ進出するための現地企業の設立や事業展開をサポートするプログラムである。

本イベントで発表されたデータによれば、これまでの10年間で、GO ASIAを通じて377社、GO AUSTRIAを通じて379社、合計756社ものスタートアップ企業に対して、国境を越えた事業拡大の支援を行なってきたという。
地域×グローバル化の「新ルール」を語るセッション
本イベントのパネルディスカッションでは、「地域に根ざし、世界へ届ける:国際化の新しいルール(Local Roots, Global Reach: The New Rules of Internationalization)」をテーマに、起業家や投資家、大企業の代表者が登壇し、現場のリアルな経験に基づく議論が交わされた。ヨーロッパを拠点とするベンチャーキャピタル・Speedinvestの代表者は、昨今のスタートアップのグローバル展開について、かつてのようなとにかく急激な成長を求める姿勢から、コストを意識し、入念に準備されたより慎重なアプローチへと変化していると指摘した。

アジア市場への進出に成功したオーストリアのスタートアップ・AvilooのCEOは、アジア特有の階層的なビジネス文化や言語の壁の難しさを率直に語った。特に中国進出においては、適切なブランド名とロゴを作成するだけで2ヶ月の時間と多額の費用を要した事例を挙げ、現地の言葉や商習慣を深く理解するパートナーの存在が不可欠であると強調した。

一方、インドからオーストリアへ進出を果たしたSenseGrassのCOOは、ヨーロッパ進出の拠点としてオーストリアを選んだ理由について言及した。EUの中心という地理的優位性に加え、強力なデータおよびサステナビリティ規制の存在、そして共同研究開発における強力なエコシステムがあることが大きな魅力であると語った。さらに、仕事と休暇の切り替えが明確なオーストリアの労働文化も、起業家にとって魅力的な要素であるという。
また、大企業パートナーとして登壇したインフィニオンの代表者は、オーストリア国内に強力な研究開発(R&D)体制を有していることを紹介し、スタートアップの持つスピード感と大企業の専門知識・技術力を結集させることが、双方にとって大きな価値を生み出すと力説した。
ViennaUP、GINがアジアとヨーロッパの懸け橋となる
イベントの後半では、参加した国際的なスタートアップとオーストリア企業による実践的なコラボレーション・ワークショップが行われ、企業課題の解決に向けた新たな協業の第一歩が探られた。また、ViennaUPのホームベースで開催されたアフターパーティーでは、参加者間の交流がさらに深められた。

この日、ホームベースでは日本のレモンサワーを再現した現地企業の飲料が提供され、また設置されたテーブルサッカーではともにFIFAワールドカップ2026に出場する、28年ぶりに本戦に進出したオーストリアと日本のユニフォームが描かれていた。まだ日本からの参加企業は少ないものの、「ViennaUP」はヨーロッパ市場の入口としてのオーストリアのポテンシャルを大きく感じるイベントだった。

GINは2025年からは新たにインドをプログラムの対象国に加え、高い経済成長を誇るアジア市場と、EU経済圏とをつなぐイノベーションの架け橋としての役割を、今後さらに強力に推し進めていく構えである。
