アフリカでは、ガソリン価格が高騰すると、電気自動車の普及が後押しされます。こちらの記事で書いたように、アフリカの消費者が電気自動車に乗り換える一番の動機は、燃料費がガソリンに比べて安いことです。ガソリン価格がイラン衝突によりまた上昇しています。本格的な普及となるのでしょうか。これまでアフリカでハイブリッド車を販売してきたトヨタ自動車が完全電気自動車で参入しました。競争は変化するのでしょうか。

この記事は、アフリカで電気自動車が普及しはじめた2024年末に掲載した「アフリカの電気自動車(EV)市場のトレンドと国別動向」の続編です。時系列での違いを知る記事としてご一読ください。当記事では最新の状況をお知らせします。

アフリカの電気自動車(EV)市場の現在地

アフリカのドライバーは電気自動車を、環境にいい車ではなく、ランニングコストが安い車と認識している。2020年以降、世界で有事が起こるたびにガソリン価格が上昇し、暮らしを直撃した。それを解決する手段が電気自動車だ。電力も安いわけではないが、自国で発電している電力と違って、外貨を払って輸入で賄うガソリンは、世界情勢や為替変動の影響を受けてより値上がりしやすい。電力不足といわれるアフリカでも、都市部では供給は比較的安定している。

現段階では、アフリカのEV市場は小さく、国も偏っている。市場規模はまだ自動車市場全体の1%もない。燃料価格の上昇程度、商用需要の有無、新車の普及水準、富裕層の購買力、電気自動車メーカーの集積、電気自動車への優遇策、電力の自国供給といった条件が揃った国から、点で立ち上がっている段階である。

一定規模の普及がみられるのは5カ国に限定され、4つに類型化できる。第一に、電動バイクメーカーが次々と進出するケニアのような「商用二輪先行型」。第二に、実用車需要がEVへ移行しつつある南アフリカとエジプトのような「新車市場における移行型」。第三に、富裕層が先進的な車としてEVを買うモロッコのような「富裕層先行型」。第四に、ガソリン車の輸入禁止によってEV以外の選択肢が限られるエチオピアのような「政策主導型」である。

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しかし、消費者行動から電気自動車を選ぶ心理を分析すると、この数年の自動車を実用性やコスパで選ぶ流れの延長線に電気自動車が存在しており、バジェットカーが販売台数を増やしてきたように、電気自動車も成長する可能性がある。各国の政府は電気自動車を優遇する税制や規制を導入する方向に動いている。そしてそこに、自国で競争に揉まれて技術と量産による価格とデザイン性を身につけた中国EVメーカーが進出してきているのだ。

アフリカの電動化は配車アプリ用途が牽引

ケニアで電動バイクの普及が一気に進んだ理由

ナイロビの路上には、電動バイクメーカーが次から次へと登場している。Uberと提携し、ホンダ系部品メーカー武蔵精密工業が出資するARK Ride、資金力豊富なUAE拠点のSpiro、住友商事が出資するM-Kopaが取り扱うAmpersand、元テスラのエンジニアが創業しトヨタ自動車のVCが出資するZeno、ケニアのEV黎明期から事業を行う老舗Roam、欧州から進出したFleevigoに中国からやってきたOfero、ケニア出身Zunu、Pixii、Ecoboddaと、数え切れないメーカーが走っている。これらは個人ではなく、ほぼ100%、配車や配送をする商用ユーザーに使われている。

普及が一気に進んだタイミングは、ARK Rideがバッテリー交換式の車体を販売したときだった。交換ステーションでフル充電したバッテリーと交換する方法をとるのは、チャージの時間を短縮するためでなく、車体の販売価格を安くするためである。電動バイクで最も高い部品はバッテリーで、これを売らずに貸し出す形にすれば既存のバイクとほぼ変わらぬ価格で販売できる。政府の電動バイク部品の免税措置も支援となった。

ナイロビで走る電動バイクメーカー。上段左からARK Ride、Spiro、Roam、中段左からARK Rideのバッテリー交換ステーション、M-Kopa/Ampersandのバッテリー交換ステーション、Zeno、下段左からFleevigo、Ofero、Zunu(ABP撮影)

1日の売上が2,000ケニアシリングのドライバーは、これまでは1,000ケニアシリングをガソリン代に費やさなければならなかった。電動バイクのバッテリー交換費用は、その30~50%程度で済む。配車・配送アプリのドライバーにはシマがあり、決まった地域で短距離移動する。移動範囲が小さいためその地域にひとつでもバッテリー交換所があれば用は足りる。頻繁な修理が必要だったこれまでのバイクと違い、電動バイクはメンテナンスもほぼいらない。

電動バイクの普及で、既存の二輪メーカーは大きな痛手を受けることとなった。メンテナンス不要の耐久性が評判となってケニアで急成長してきたホンダのバイクの販売台数は頭打ちとなった。インドや中国の安価な二輪メーカーはさらに大きなダメージを受けたと思われる。

ネットスーパーや配車アプリ間の競争が南アフリカを電動化

Valternative energyは2022年に南アフリカで創業した。Uberや、南アフリカでさかんなネットスーパーの配送向けに電動バイクを組み立て販売してきた。普及に弾みがついたのは、イラン有事により再びガソリン価格の高騰がはじまった今年になってからだ。

なお前述のケニアを含め、ほぼすべてのアフリカの電動バイクメーカーは、輸入か、中国やインドから部品を輸入してアフリカで組み立てている。Valternative energyを訪問すると、工場で組み立てが行われていた。

南アフリカでは従来バイクというのは趣味の乗り物で、配送やタクシーといった商用で使われること自体多くなかった。Uberが電動バイクを採用したことで、まさにこの数カ月のあいだに急速に増えている。

車社会の南アフリカの場合、デリバリーやタクシー送迎の起点になるのはショッピングモールである。ここ最近になってどのモールにも駐車場に充電スタンドが備えらるようになった。

なお、南アフリカは国営電力会社の経営不良により計画停電が頻発した時期があったが、2024年以降は停電は起こっていない。豊富な石炭資源がある南アフリカは、本来電力が豊富な国だ。

Valternative energyは、Uber向けに四輪の電気自動車も組み立てている。ヨハネスブルグの街を走ると、最近になって、この記事のサムネイルにあるようなUberの電気自動車を頻度高く見かけるようになった。

Uberに対抗して、5月には競合Boltも四輪電気自動車の導入を発表した。UberもBoltも、車両は販売するのではなく貸し出す形にしてドライバーの負担を下げている。Boltは車両は東風汽車、レンタルシステムはインドYugo Ridesと提携した。

南アフリカでUberに使用されているValternative energy社の電動バイク。レンタルと割賦販売プランを提供しているが、同社によるとほぼレンタルで占められているという。(ABP撮影)

南アフリカのショッピングモールの駐車場には、無料の充電インフラが整備されつつある(ABP撮影)

電気自動車はコスパのよい実用車

EVがスズキのライバルである理由

人々が「電気自動車の方が得だ」と感じるのは、既存の手に入る車との価格比較に依る。アフリカは、新車を購入するのが一般的な国と輸入中古車が一般的な国にわかれるが、安い中古車が簡単に手に入るケニアやタンザニア、ナイジェリアといった国では、中古車と電気自動車の価格差が数倍に収まらないほど大きいため、購入には二の足を踏む。電動バイクが多く走るナイロビでも、四輪の電気自動車はまったくみられない。しかし、中古車輸入が難しい国は、中古車の価格も高止まりしており、電気自動車との価格差が小さい。

中古車輸入が難しい国とは、輸入が禁止されている南アフリカやエジプトのような国、輸入はできるが登録からの年数が若い車両しか認められておらず、安くなった中古車を輸入できない国、または輸出入自体に困難があったり内陸国であるため輸送費がかさむ国だ。

関連記事:アフリカの国ごとに異なる新車VS中古車構造とメーアー別シェアについて

こうした国々は、スズキのガソリン車がアフリカでよく売れている市場と重なる。中古車と大きく変わらない車体価格で燃費性能が高いことが魅力であるスズキ車と、電気自動車は同じ強みをもっている。

知り合いのエジプト人は、コロナパンデミック中の2021年にスズキのエルティガを130万エジプトポンド(現在の為替で390万円)で購入した。燃費が良く、キルティング内装を使った7シーターの自慢の車だ。しかし、「次はBYDの電気自動車を買う」という。BYDのSUV(BEV)であるSealioneは160万エジプトポンド(480万円)で売られている。差額の30万ポンド(90万円)は「毎日の燃料費であっという間にカバーできる」から気にならないという。団地に住むため自宅での充電はできないが、自宅近くのガソリンスタンドに充電スタンドがある。

南アフリカにおいて電気自動車(PHEV含む)を販売する/予定する自動車メーカー一覧

南アフリカでBYDは、エントリーEVのDolphin Surfを戦略的に34万1,900ランド(331万円)で発売した。呼応するかのようにGeely(吉利汽車)は E2を少しだけ安い33万9,900ランド(329万円)で投入、Chery(奇瑞汽車) も安価なエントリーモデルEVである Qを年内に発売すると発表した。

自国で激しい価格競争を行っている中国電気自動車メーカーにとって、このセグメントは得意とするところだ。新車市場である南アフリカにはとくに、優遇政策が設定される期待もあって、次々と中国車メーカーが進出を表明している。

スズキのシェアを拡大した、より実用的でコスパのよい車を求める流れは、コンパクトカーやバジェットカーの延長線で電気自動車に続いている。スズキのスイフトは21万ランド(約200万円)で販売されており、電気自動車との価格差は100万円程度まで縮まっている。

電気自動車の価格が200万円台まで下がっている中国と違い、現在のところアフリカの電気自動車は、南アフリカやエジプトで300万~1,000万円、関税や輸入費用の影響でほかの国は600万円以上の価格帯が多い。新車がメインの南アフリカやエジプトは新車と比較するため価格差が小さいが、中古車と比較する国ではまだ電気自動車は高い。ただし、税制優遇や技術革新で電気自動車の末端価格が下がれば、乗り換える人がでてくるはずだ。

ハイブリッド車がEV障壁への解決策。スズキも投入

実用車として電気自動車を買う層にとって、車体価格に次ぐ障壁は、充電インフラでなく再販価格である。新車がメインで輸入がしづらいエジプトでは、5年落ちの新車でも購入価格の70%程度で再販できる。南アフリカも中古車市場が整い再販価格が高い。こういった市場で人々は売って得たお金で次の車を買うのでいくらで売れるかが買う前から大事だ。対して電気自動車は市場にとって新しく、残価が読めない。購入時にローンがどの程度でるのかも不確実だ。

こういった再販価格の不確実性や車体価格の高さ、また電気自動車自体への漠然とした不安やガソリン自動車への忠誠心から、南アフリカでは、プラグインハイブリッド(PHEV)車の方が先に動いている。

BYDにおいても、前述のエントリー電気自動車は安いものの、主力のBEVであるSEALは100万ランド(960万円)を超えている。そのためいまは、プラグインハイブリッド車のSealion 5をガソリン車からの乗り換え候補として、68万ランド(650万円)で販売することに注力している。電気自動車を買う前に、いちどハイブリッド車で慣れてもらう作戦だ。ハイブリッド車の方が残価も見込みやすい。

スズキもこの3月に、プラグインハイブリッドのAcrossの販売を開始した。インドで生産した車両を輸入することで、最も安価なモデルは34万9,900ランド(338万円)と、競争力のある価格となっている。

売約済みのスズキのプラグインハイブリッドカーAcross(ABP撮影)

電気自動車はアフリカ富裕層のステイタス

日本車が強い「プレミアムカテゴリー」を奪う電気自動車

車体価格や再販価格を気にせず買う層もいる。アフリカ各国でいまみられるのは、富裕層やアーリーアダブター層の電気自動車への関心の高さだ。

弊社はアフリカの現地企業を月50社程度訪れることがあるが、成功した企業の社長が電気自動車に乗り変える割合は年々高まっている。これまでランドクルーザーに乗ってきた層が、電気自動車という新しいカテゴリーや、人々の注目を浴びる先進的なデザインやフォルムに惹かれている。いまアフリカで電気自動車に乗るのはステイタスなのだ。

モロッコにBYDが電気自動車で進出したとき、中古車が多く充電インフラの整備が十分でない市場で電気自動車は無理だと思われていた。しかし2025年にプラグインハイブリッドのSUV、BYD Seal Uは3,000台以上、完全電気自動車のコンパクトカーSeagullは300台、SUVのSealionは100台弱売れた。モロッコでは先にトヨタがカローラーのハイブリッド車を販売していたが、BYDの販売台数が上回った。

2025年にはとうとう、テスラまで進出した。テスラにとってモロッコがアフリカ初の市場だ。価格帯は40万モロッコディルハム(700万円)。テクノロジーに強い、先進的なライフスタイルを示したい人たちにとっては格好の車である。

エジプトでも、Cheryが高級車ブランドのExeedからハイブリッド車を売り出している。Rox(極石汽車)が販売する高級ハイブリッドSUVは1,000万円を超える。並行輸入されているChangan(長安汽車)の高級EVラインAvatrも、1,000万円を超える。

デザイン訴求の中国EVメーカーDongfeng(東風汽車)は、エジプト、ケニア、ナイジェリア、南アフリカでBEVを600万円水準の価格帯で販売している。目にすれば、これまでの自動車とは違うコンセプトで生産されたことがわかる車は、これまで「いつかはランドクルーザー」とガソリン自動車の保有を成功を示すものとみてきた層や、逆に自動車保有に価値を感じていなかった若い層に、新しい選択肢となる可能性がある。中国に存在するほかのデザイン特化の自動車メーカーも続いてアフリカにやってくるかもしれない。

エジプトの充電ステーションと長安汽車のAvatr(ABP撮影)

ケニアで販売されている東風汽車のNammi BOX(ABP撮影)

この層は、ガレージ付きの一戸建てに住んでおり、自宅に充電器を設置して充電できる。帰宅後に充電しておけば朝までには終わっているため、充電ステーションに行く必要はない。

トヨタがとうとうアフリカのEV市場に本格参入、中国EVとは異なる戦略

アフリカにおいてプレミアムカーの代表格であるトヨタはこれまで、アフリカの路上環境や充電インフラ、メンテナンス体制の不備を理由に、電気自動車の販売には慎重だった。実際、南アフリカでもこれまではプラグインではないハイブリッド車を中心に展開してきた。

しかし2026年4月、とうとうアフリカ複数国で完全電気自動車(BEV)の販売を開始した。投入したのは、中国市場向けの低価格EVであるbZ3Xではなく、e-TNGAをベースに開発されたパナソニックと共同開発した電池を使ったbZ4Xだ。まずはモロッコ、ケニア、モーリシャスで販売を開始し、その後エジプトと南アフリカで、bZ4Xに加えてレクサスのBEVであるRZも投入する。

南アフリカでのbZ4Xの販売価格は118万ランドと発表された。日本円にして1,140万円と高価格帯で、ランドクルーザーの普及モデルよりも高い。さらにレクサスの電気自動車も販売するとなると、トヨタが狙っているのは、価格競争が激しいマス市場ではない。中国車メーカーが販売する、自国での大量生産を背景とする価格優先のEVや、デザイン性重視のEVとは一線を画し、「信頼できるBEV」というポジションを取りにいっていることのあらわれだ。自社ブランドへの信頼が強い層をターゲットにしており、南アフリカでトヨタより先に高級EVを発売した、ボルボ、BMW、メルセデス・ベンツを競合と据えたものだ。

先行するエチオピアで電気自動車に乗っている人を観察すると、若い層はBYDに乗り、少し年配の企業経営者然とした層はトヨタのbZ4Xに乗っていることが多い。BYDや中国車ではない電気自動車を選びたい層は、アフリカ各国に広く薄く存在している。

中国メーカーはアフリカで急速に存在感を高めているが、トヨタが長年築いてきた、信頼性を重視し、車が高価格であることを厭わない顧客層の獲得には、まだ苦戦している。トヨタは価格競争に入っていくのではなく、まずは既存顧客層が安心して乗り換えられる電気自動車を投入する戦略だ。

出所:ABPによる現地独自調査(南アフリカ、エジプト、ケニア、エチオピア、モロッコ)

アフリカの電気自動車に関する政府政策や新しい企業の進出、中国や他国の自動車メーカーの日々の動向は、週刊アフリカビジネスで毎週お知らせしています。

日本企業のアフリカでの動きは、こちらの「アフリカにおける日本企業の動き」で毎月まとめています。自動車メーカーの動きは頻繁に取り上げられています。

アフリカで事業を行っている日本企業については、「日本企業のアフリカ進出動向と事例」で包括的にとりまとめています。日本の自動車メーカーの他、自動車メーカーに納品している部品メーカーについても掲載しています。

※引用される場合には、「アフリカビジネスパートナーズ」との出所の表記と引用におけるルールの遵守をお願いいたします。

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