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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2026年5月11日付)
2025年8月に米国の制裁対象にされた時、ニコラ・ギユーには思い当たる節がないわけではなかった。
ギユーはオランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の判事として、イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフと前国防相のヨアブ・ガラントに対し、パレスチナ自治区ガザでの戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行していたからだ。
その数カ月前には、同裁判所の判事数人が同様に米国の標的にされていた。
ショックだったのは制裁の範囲の広さだった。「日々の生活がどこまで混乱することになるか、その時点ではよく分からなかった」とギユーは振り返る。
カードも旅行予約サイトもUPSも使えない
制裁開始から数日で、米国企業を頼りとしているサービスがすべて打ち切られた。米国のクレジットカードも持てなくなった。
現金を使うしかなく、オランダでのオンライン取引では「iDEAL」のような国内決済システムを利用せざるを得なかった。
電信振り込みは実行されず、お金が戻ってきた。ブッキング・ドットコムやエクスペディアで行ったホテルの予約はキャンセルされた。
フランスのパリ市が運営する公的自転車貸し出しシステム「ヴェリブ・メトロポール」で自転車を借りることもできなかった。クレジットカード会社の保証が必要だからだ。
UPSで発送された荷物は送り主に返された。保険会社からは医療保険契約を打ち切られそうになった。
「(打ち切らなければ)米国でどういうことになるか分からないと保険会社のコンプライアンス部門が心配していて、リスクは一切取りたくないという話だった」とギユーは言う。
欧州の政府当局者にとって、ギユーの経験はもっと大きな脆弱性をまざまざと見せつける事例の一つだ。
米国はいわゆる「キルスイッチ」――米国のテクノロジー企業のサービスや支払いシステムを欧州の利用者から遮断する手続き――を使うことにより、遠く離れた外国に住む人の日常をあっという間に混乱させることができるのだ。
