インド最大手のITサービス会社、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)が日本市場に攻勢をかけ始めている。三菱商事との合弁会社、日本TCSでグローバルコンサルティングプラクティス(GCP)統括本部長を務める最高執行責任者(COO)の森誠一郎氏は「潮目が変わった」と、日本市場でのビジネス拡大の時期が到来したとの認識を示した。
日本TCS グローバルコンサルティングプラクティス(GCP)統括本部長 COOの森誠一郎氏
背景には、最高情報責任者(CIO)らが「システムインテグレーター(SIer)への丸投げはまずい」という意識の高まりがある。デジタル変革(DX)推進の妨げにもなっているからだ。一方、インド経営陣はグローバル売り上げ約300億ドル、営業利益率約24%に対して、日本の売り上げがわずか約8億ドル、営業利益率も10%台にとどまっていることに不満を持ち、当面は10億ドルに伸ばすことを求めているという。
日本TCSは、TCS日本法人と三菱商事系ITサービス会社のITフロンティアを統合・再編する形で2014年7月に設立された。森氏によると、日本TCSの大きな特徴はハイブリッドデリバリーにあり、インドのエンジニアのキャパシティーとケイパビリティーを使い、安価なサービスを提供する。TCS全体で約58万人いるエンジニアらの中で、日本市場に特化したエンジニアとして約5000人を配置するとともに、日本TCSの約2000人と協力会社の約3000人を合わせた1万人体制で日本企業にサービスを提供している。
もう1つの特徴は、「コ・クリエーション(共創)」と呼ぶサービスの提供方法にある。構築するITシステムがブラックボックスにならないように、ユーザーと綿密に内容を議論し、二人三脚でシステムを作り上げていくことだ。しかし、「日本企業には面倒と思われることもある」と森氏は言う。「こんな感じで作ってほしい」という曖昧な仕様で、SIerに丸投げするような「欲しいものをはっきり言わない顧客との相性が悪かった」。しかし、「そこを乗り越えれば、TCSをコントロールできるようになる」と説明する。つまり、内製化を可能にするということだ。
追い風も吹き始めている。日本企業がデジタルを活用したビジネス構築に主体的に取り組み始めたことだ。経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」を契機に、要件定義からテストまでITサービス会社に任せず、「自分たちでやろう」という意識が高まった。そこで、日本TCSは約3年前にコンサルティングチームのGCPを立ち上げて、「やりたいことがはっきりしていない顧客に寄り添って、要件をシェイピングしていくことを始めた」のだという。現在、約80人の陣容を、外資系コンサルティング会社のコンサルタント採用や合併・買収(M&A)などによって増員する計画だ。
市場開拓策は幾つかある。1つ目は、AIを使ってレガシー資産をモダナイズすることだという。課題は、日々開発や保守を提供するユーザー約250社のシステム更新案件だけでなく、新規顧客の案件を獲得する。そのため、「インドのリソースを活用し安価に提供できる」ことと、「POWER BUILDER」や「C++」をはじめとするさまざまな言語を「Java」に変革するアダプターやコンバーターをすぐにそろえられることを、ユーザーに説く。
2つ目はモノづくり改革。森氏によると、ITとOTの統合は、組織のサイロ化が大きな障壁になることがある。そこで、コンサルティングチームが基幹系ERPと工場系の製品ライフサイクル管理(PLM)を組織を含めて、連携させる統合プロジェクトに発展させることで解決を図る。フィジカルAIも提案する。3つ目はAIならではのテーマに据えた事業変革、4つ目はユーザーの海外展開支援になる。
これらを推進する上で欠かせないシステム開発の改革にも取り組んでいる。1つは「グリーンフィールド」と呼ばれるAI駆動開発だ。AIに要件を入れるだけで仕様書、コード、テストを生成するもので、「ゼロ」から作るモバイルアプリやフロント系予約システムなど要件が明確なものに適しているという。最新のAIツール、言語を使ったクラウドネイティブな仕組みにもできる。
もう1つはブラウンフィールドになる。今のシステムをモダナイゼーションする上での大きな障壁は、システムを作ったのが20~30年前で、ユーザー自身が業務要件を分からず、仕様書も古いことが挙げられる。しかしソースコードがあるため、それをベースにAIツールがモダナイゼーションできるとしている。ところが、ユーザーは変換したものが合っているのか分からない。旧システムと新システムのテストシナリオを作れないし、テストデータを準備できない中でのテスト結果に対して、ユーザーは「これは違う」となる。
そこで、TCSは3つのエージェントAIを開発し、要件を固めていく方法を編み出した。1つ目はソースコードを読んでリバースエンジニアリングする。2つ目は全てのドキュメントを、3つ目は業務マニュアルをそれぞれ読み込み、その3つがそれぞれ要件を導き出す。そして、3つの要件の矛盾点を修正し、要件を確定する。一部の案件に適用し始めたところで、広げていく考えだ。
森氏は3月中旬の事業説明会で、「IT業界はAIによって大きくディスラプト(破壊的創造)される転換点にある」と述べ、日本TCSの売り上げ、利益を大きく伸ばし、まずはSI業界トップ20入りを目指す。そのためにも、日本企業から思われている「ローコストのITファクトリー」のイメージを払拭(ふっしょく)し、新しいSIモデルをみせることだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。
ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)
