2026年3月2日 午前7時30分

 【論説】NHK連続テレビ小説「ばけばけ」で注目されている小泉八雲。その代表作「日本の面影」には、滞在した松江市で耳にした「音」が随所に描かれている。米をつく杵(きね)の音や行商人の物売りの声、釣り鐘や太鼓の響き、下駄(げた)の鳴る音…。明治時代の地方都市の暮らしぶりを生き生きとよみがえらせている。

 福井県内で、こうした街中に響く音をテーマにした映画「時のおと」が、福井市のメトロ劇場で公開されている。福井の方言をはじめ生活や自然が奏でる音を再認識することで、街の魅力を再発見したい。

 映画は2024年の北陸新幹線県内開業に合わせた「福井の方言愛着ましましプロジェクト」の一環で県が企画。鯖江市出身の映画監督兼俳優の片山亨さんがメガホンを取った。

 県内4市町が舞台の四つの独立した物語からなるオムニバス作品。22年夏から福井、勝山、小浜市、南越前町を中心にロケを敢行。福井市出身の津田寛治さんをはじめ県内出身の俳優のほか、一部県外の若手俳優を起用。地元住民も約200人が出演している。

 小浜市の通称「三丁町」に流れる三味線、勝山左義長まつりのおはやし、南越前町の漁港に響く漁船のエンジン、演劇部の発声練習…。こうした活気ある音の一方、小川のせせらぎ、セミの鳴き声、風鈴、新雪を踏みしめる音など優しい音色が美しい映像にマッチ。360度の音を拾えるマイクで集音し、観客をその場にいるかのような感覚にいざなう。

 普段何げなく聞き流している音も、スクリーンを通して意識して聴くと、街に不可欠の構成要素と思えてくる。とりわけ福井の方言は福井らしさを強く印象づけている。「ほやけど」「~やさけ」などの方言が温かく、どこか懐かしい。片山監督は「方言が映画の起点で、方言も音と気付いた」「その音がその街をその街にしている」とコメントしている。

 小泉八雲の研究者、池田雅之・早稲田大名誉教授は、「八雲は音や声を通して日本文化を『体感』し、その場の雰囲気や匂いを感じ取っていた」と著書で指摘。相手が発する音や声にも耳を傾ける身体のダイナミズムがあったからこそ、日本から多くのことを感じ取れたとみる。

 異文化に向き合う八雲のような開かれた姿勢は、多文化共生時代を生きる日本人にとってもお手本だ。まず身近な音に耳を澄まし、方言などを福井の文化としていつくしむ心を育みたい。