大阪市立美術館で開館90周年記念特別展「全力!名宝物語 ―大阪市美とたどる美のエピソード」が開催されます。会期は4月25日から6月21日まで。
タイトルのとおり、昭和11年(1936年)に開館した大阪市立美術館は、令和8年(2026年)に開館90周年を迎えます。日本の公立美術館の中で三番目に古い伝統を持つ同館は、大規模改修工事を経て、現在も大阪の地に確固として息づいています。歴史は、保存され、未来の礎となります。そして、「物語」へと展開して、形を変えて語り継がれていきます。一方、美術は、その「物語」自体を描くほか、時代や人々の息吹を視覚的に伝承します。
美術館の歴史は、その根幹を成す「美術品」自体が雄弁に語ります。本展は、開館90周年を記念して、館蔵・寄託の名宝の数々を中心に展示し、美術館をめぐって紡がれた物語、美術に託された物語、そして美術の成立と未来への展望の物語を紹介します。
開館90周年記念特別展
「全力!名宝物語 ―大阪市美とたどる美のエピソード」
会場:大阪市立美術館(大阪市天王寺区茶臼山町1-82 天王寺公園内)
会期:4月25日(土)~6月21日(日)
開館時間:9:30~17:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 ※5月4日は開館
入館料:一般 1,800円、高大生 1,200円
※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)および開館90周年を記念し、90歳以上の方は無料(要証明書)
詳しくは公式サイトへ
プロローグ ことはじめ-名宝で語る
「名宝物語」という展覧会名を冠する本展は、物語らしく「全3話」で美術館の歴史や、さまざまな美術について紹介するというユニークな展覧会です。また、ただ紹介するのではなく、『全力』で語るというパワフルな姿勢も見逃せません。
プロローグは「ことはじめ ― 名宝で語る」。1936年に開館した大阪市立美術館は、東洋美術の殿堂として世界に知られています。その所蔵品の多くは、元来、財界・文化人のコレクションで、それを譲り受けたものです。本章では、美術館のアイデンティティとも呼ぶべき各コレクションの代表作を紹介しながら、時に力強く、時に繊細に人々と共に歩み続けた美術館の歴史物語が『全力』で語られます。
晩秋 上村松園 筆 昭和18年(1943) 大阪市立美術館蔵 住友コレクション 同館への作品寄贈を前提に住友家が全費用を負担して開催された「関西邦画展覧会」への出品作。
銀鍍金透彫 宝相華文経箱 南北朝時代・14世紀 大阪市立美術館蔵 田万コレクション 撮影:佐々木香輔 市民派弁護士、衆議院議員として活躍した田万清臣氏と妻の明子氏が蒐集し、大阪市に寄贈した作品のうちの一つ。
第一話 物語の美術-みせる物語
大阪市立美術館には、所蔵品の他に社寺、個人の方々からの寄託品が数多く保管されています。本章からは、寄託品も含めた名宝の数々が登場します。
美術は、物語と共に物事を記録し、人々に伝える手段として発達しました。本章では、仏画から世俗画、さらには工芸品までの幅広い「物語の美術」を『全力』で紹介。近年国宝に指定された通称「目無経」は、内容、背景、伝来のいずれにも物語が込められている総合的「物語の美術」です。
重要文化財 仏涅槃図 鎌倉~南北朝時代・14世紀 長寳寺蔵 【前期展示】 インドのクシナガラにおける釈迦の涅槃の情景を描く。
百鬼夜行絵巻(部分) 原在中 筆 江戸時代・18~19世紀 大阪市立美術館蔵 望月信成氏寄贈 ※会期中、巻替えあり 実際に妖怪たちが何をしているかストーリーは不明ながら、ユーモラスで生き生きとした描写は鑑賞者を惹きつける。伝土佐光信筆の真珠庵本を原在中が写した作品。
重要文化財 明妃出塞図(部分) 宮素然 筆 中国・金時代・12世紀初 大阪市立美術館蔵 阿部コレクション【後期展示】 中国・前漢時代の悲話。明妃(王昭君)は、画工に醜く描かれたために、異民族の匈奴に嫁がされた。白描の人物描写によって風が吹きすさぶ厳しい北方の環境が示され、見事に物語全体の雰囲気が醸し出されている。
国宝 物語下絵料紙金光明経(目無経)巻第二(部分) 鎌倉時代・建久3年(1192)頃 大阪市立美術館蔵 武藤経三氏遺贈【前期展示】 後白河法皇の崩御に伴い、法皇企画のもと制作途中であった物語絵巻の下絵を菩提弔いのための写経の料紙とした。下絵のため、人物には目鼻がほぼ描かれない。物語は判然としないが、蓬髪の異形も認められる。
第二話 注文×伝来-美術成立の裏側Ⅰ
第二話では、美術制作の背景にある物語が『全力』で紹介されます。制作には、現在と変わらず発注者と目的(用途)があり、そして伝来に応じて、時として用途も変化していきます。実用の他に、信仰、鑑賞、寄進など各種の用途がありますが、発注者の名前と共にそれらが明記された作品も存在します。「豊臣秀吉像」等の肖像画はその典型例でしょう。本章では、古代から近代までの作品に刻まれる先人たちの息吹きを浮き彫りにします。
豊臣秀吉像 惟杏永哲 賛 桃山時代・慶長5年(1600) 大阪市立美術館蔵 古賀勝夫氏寄贈 「豊国大明神尊像」と題されており、平和祈願の目的によって神格化された秀吉像が描かれたことが知られる。通常とは異なる縮緬のような絹が用いられており、秀吉の遺品が利用された可能性が指摘されている。
夜桜(左隻) 北野恒富 筆 昭和18年(1943) 大阪市立美術館蔵 住友コレクション【前期展示】 上村松園の晩秋と同じく「関西邦画展覧会」への出品作。大阪を拠点に活躍した北野恒富は、美人画制作によって一世を風靡した。
青花 婦人図方瓶 景徳鎮窯 中国・清時代・17世紀 大阪市立美術館蔵 撮影:佐々木香輔 ガラス製のワイン瓶を模倣した形状の方瓶。1684年~1691年にバタヴィア(現インドネシア・ジャカルタ)に駐在したVOC総督Pieter Van Hoorn(ピーター・ヴァン・ホーン)により、私的な注文として作られた。16~17世紀の大航海時代の末期の時代性を反映した作品。
寒月狸図 森徹山 筆 江戸時代・19世紀 大阪市立美術館蔵【後期展示】 大阪の代表的豪商・加島屋久右衛門家に伝来した。森徹山は、森狙仙の甥にあたり、円山応挙門下の十哲に数えられる。
第三話 素材×技法-美術成立の裏側Ⅱ
彫刻・工芸史は、いわば技術開発のプロジェクトストーリーです。各種の素材を駆使すべく得た技法は、とある時代に突如として最高峰の水準に達したかの印象を与えますが、そこに至るまでの道のりには人々の奮闘の過程があるのです。
陶磁器の焼成・施釉、漆器の螺鈿、蒔絵、金工の鋳造、鎚鍱など、素材の選定から工程の工夫に至るまで、長期にわたる改良と蓄積を通して発展を遂げていきました。また、それらの粋を集めたものも作られており、「橋姫蒔絵硯箱」に代表されるように、一つの作品に複数の技術を見ることができます。本章では各種の技法の足跡が『全力』で紹介されます。
蒔絵小犬形香合 明治時代・19世紀 大阪市立美術館蔵 カザールコレクション 蒔絵の技法が用いられる漆工品。毛描きがなされ、ずんぐりとした身体の小犬が愛らしく坐るも、目には悲哀がこもる。旧所蔵者のカザール氏は香合として蒐集したが、ボンボニエールのような小物入れとして機能した可能性がある。
鴟鴞形水滴 中国・六朝時代・3~5世紀 大阪市立美術館蔵 山口コレクション 鋳造によって制作された古代中国の金属器。フクロウの類の鳥をモデルとしている。顔、目鼻立ちが大きく、ユーモラスな表情をするが、フクロウは古の中国では霊鳥の一種と捉えられた。
達磨牙彫根付 銘「宗明」明治時代・19世紀 大阪市立美術館蔵 カザールコレクション 撮影:佐々木香輔 象牙を彫刻して制作された根付。大きく伸びをした達磨が蓮華の上に立っており、仏教の蓮華化生のパロディとも捉えられている。
橋姫蒔絵硯箱 江戸時代・18~19世紀 大阪市立美術館蔵 カザールコレクション 撮影:佐々木香輔 研出蒔絵、高蒔絵などによって『源氏物語』(蓋表)と『伊勢物語』(蓋裏)の内容の一節を描写する。蓋表の象牙製の水車は、水銀が上方から流れ出てくるくると回転する。各種の技法が駆使された優品。
エピローグ 研究×修復-未来に繋ぐ物語
美術館と所蔵・寄託品を先人から継承し、後世に渡していくためには、美術品の修復と研究が欠かせません。本章では、修復の実例と学芸員の研究成果を紹介し、未来へ繋ぐ物語を『全力』で紡ぎます。
重要美術品 青銅 伍子胥画像鏡 中国・後漢末~三国時代・3世紀 大阪市立美術館蔵 山口コレクション 撮影:佐々木香輔 2023年度に修復が行われた銅鏡。鏡全体が、大きく3つに割れており、過去にも修復がなされたが、改めて強化・補強、過去の修理痕の除去等を行った。伍子胥は、紀元前6~5世紀の人物。父と兄の敵討ちの説話で古来知られる。
竹藤図(右隻) 長谷川等二 筆 江戸時代・17世紀 大阪市立美術館蔵 田万コレクション 【後期展示】 2023年度~2024年度に修復が行われた屏風。虫害による本紙の欠失、上舐め、下地の木材の反りや乾燥による本紙の隅皺、墨・絵具層の剥離剥落などの修復がなされた。筆者については不詳であるが、抒情的な感性が発揮されている。
作品のキャプションを見ると、プロローグで語られている「コレクション」が、いかに豊かでバラエティに富んでいるかがわかります。令和7年(2025年)3月に、2年5ヶ月にわたる大規模改修工事を終え、リニューアルオープンした同館。この先の未来を見据えた、精力的な活動に期待が高まります。
(美術展ナビ)
