【今月の著者】
ケートリン・グリフィス
バンクーバー生まれ。8〜15歳を関西で過ごした。トロント大学博士課程修了、研究テーマは日本中世遍歴尼。学術書『Tracing the Itinerant Nuns』をハワイ大学から出版。2020年までトロント大学で日本史、古文等の教鞭を執った。歴史家として資料調査やリサーチを続けている。

今回は、最近気になっていた個人経営と企業経営ペットクリニックについて調べたことを伝えたいと思う。

気が付けば、我家の犬は15歳。犬年齢では(サイズからして)93歳くらいで足腰も弱り、階段なども負担になっているが、それでも元気で過ごしてくれている。

子犬の時からずっと同じペットクリニックへ通っているが、ここ数年定期検診の度に「え、なんでこんなに高いの?」と、請求金額が上がっていることにびっくりする。しかも毎回違う獣医なのでなんとなく不安になる。

15年前、犬を飼っている友人の勧めでこのクリニックを選び、オーナーでもある獣医が常に診断をしてくれた。彼が休暇中はもう一人の獣医が対応してくれていたので10年間愛犬を診察した獣医は2人だけであった。それが数年前から行く度に違う獣医で、予約の時に以前の先生をお願いしても、丁重ではあるが「指定は無理です」と断られてしまうようになった。

このようなモヤモヤが募った時に知ったのが、個人経営のペットクリニックを企業が買収しているとのニュース。調べたら、案の定通っているペットクリニックも2021年に株式会社へ転じていた。看板はそのままだったし、受付の周りにも変わったことを報告するようなサインもなければ、私たちへのメールや通知もなかった。

個人と企業のペットクリニック、どのような違いがあるのか。

ドッグランでの飼い主たちの言い分を信じるなら、「企業経営のクリニックは金儲けだけを目標にしている非道で信用ならない所」だそうだ。診察代が年々高くなっていくのは「企業化されたから」と言われているようだが、すべての物価が高くなった昨今、ペットクリニック運営経費も高くなり、クライアントにその負担がかかるのも当然だろう。したがって診察代の高騰は「企業化」だけの問題でもないと思うが、企業クリニックに対する不信感が高まるのも確かだ。

ドッグランにて

2010年まではカナダのペットクリニックはほぼ全て個人経営であったが、2025年1月調べでは20%が企業クリニックであり、専門獣医病院や緊急動物病院の半分以上は企業運営であるそうだ。カナダ国内だけを対象としているカナダ発祥の専門企業もあるが、幅広く経営網を広げている企業(例えばお菓子会社)や外資系そして金融ファンドが動物クリニックの運営へも乗り出している。これらは日本でも経営を拡大しているようだ。

企業運営への移行の利点として考えられるのは10年間愛犬を診てくれたオーナーが、自分のクリニックを売却し、老後が安泰したであろうことだ。若い獣医としても、企業がバックアップしてくれるのなら個人経営だけでは揃えることが不可能な高性能な医療機器なども導入しやすくなるはずだ。折しも「新しい機材を導入するのでリフォームします」との報告メールがクリニックから届いたところだ。

だが、企業クリニックなら「企業が定めた方針に従ったスタンダートな診療をしなければならない」と言われている。このようなプロトコルに獣医はどこまで納得するだろうか?診療時間も決められ、聞く質問等、勧める薬、治療法なども企業が設定したもの以外提案できない、そのような環境を良識ある獣医は求めていないのではないだろうか。

ペットクリニックが個人経営であろうと企業経営であろうと、飼い主としては信頼できる獣医がいなければ通わない。特にトロントなどの都市ならペットクリニックの選択肢は多い。次回の検診か診察の予約の時に「獣医を指定できません」と言われたら、別のクリニックへ行く予定である。

The Group of 8

2011年夏、カナダ在住の翻訳家や通訳、活動家、物書き、研究家、学生などの有志が集まり、それぞれの分野で築き上げてきた仕事や研究、日常について語り合ったのがG8の会の発足のきっかけとなり、月に2回ほどカナダ・日本・世界についてのコラムを発信している。
http://thegroupofeight.com