欧州連合の排出量取引制度(EU ETS)は、2005年に施行された、世界最大規模のカーボンプライシング(CO2排出に対する課金)制度。
EU域内にある発電所や、炉などの熱・蒸気発生設備、エネルギー多消費の製造業の工場設備、航空、海運など約1万の施設・設備を対象に、EUが定めるルールに基づいて「排出枠」(単位はt)を割り当てる。この排出枠の量が、対象施設ごとの温室効果ガス直接排出量の上限(キャップ)となる。排出量が超過し、排出枠が足りなくなれば、市場から排出枠を購入して補う必要がある。
EUの全27加盟国に、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた欧州経済領域(EEA)で運用している。他にスイスの排出量取引制度と連結(リンク)しているほか、25年6月には英国の排出量取引制度(UK ETS)との連結に向けた調整が始まった。
制度の開始当初は、加盟国の政府が対象施設に対し国ごとに定めたルールに基づいて排出枠の大半を無償で割り当てていた。13年以降は、EU全体の温室効果ガス削減目標と整合するようにまず対象業種全体での排出枠を定め、その後で各施設に排出枠を割り当てる方法に切り替えた。有償のオークション(入札)で割り当てる排出枠の量も拡大した。

ドイツ・デュイスブルグの市街地にある製鉄大手ティッセンクルップの製鉄所(写真=uslatar/stock.adobe.com)
「クレジット」の使用
EU ETSでは、05年の制度開始当初から12年まで、全ての対象企業が京都議定書の「クレジット」を調達して排出枠の代わりに使うことができた。具体的には、途上国で行った温室効果ガス削減事業から発行されるクリーン開発メカニズム(CDM)のクレジット(CER)や、先進国で行った事業から発行される共同実施(JI)の排出枠(ERU)を利用できた。13年からEU域外で発行されたクレジットの使用を制限するようになり、21~30年のEU ETS第4フェーズではクレジットの使用を禁止している。
25年7月、欧州委員会は40年の温室効果ガス削減目標を発表するに当たり、36年から「高品質な国際炭素クレジット」の一部使用を容認することを発表した。高品質な国際炭素クレジットとは、パリ協定6条に基づいてEU域外で実施するプロジェクトによる温室効果ガス削減量のこと。この条件を満たすクレジットに限り、1990年のEUの純排出量の3%に相当する量のクレジットがEU域内で利用できるようになる。
27年から自動車や暖房の燃料消費も対象に
2027年からは、陸上輸送と建物の暖房、EU ETSの対象外の産業部門で消費される燃料を対象とする「EU ETS II」が施行される。燃料の販売事業者を対象に、排出枠を全量オークション(入札)方式で有償で配布する。
EUは、EU ETS IIのオークション収入から最大650億ユーロを「社会気候基金」に投入する。これに、加盟国からの拠出を加えて総額867億ユーロの基金とする計画である。この基金から拠出する資金は、加盟国を通じて各国の気候変動対策や社会課題事業に使う方針を示している。
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