トランプ米大統領の不満をよそに、中国製品のラベル「Made in China」は世界貿易を席巻してきた。一方で、中国の金融市場は長らく世界から切り離されたままだった。
しかし、段階的な市場開放を経て、いま大きな転換点に差し掛かりつつある。中国の製造業革命に匹敵するほどの世界的影響を及ぼしかねない流れだ。中国を出入りする投資資金の規模が、貿易による財やサービスの取引額を初めて上回ろうとしている。
世界的な株式相場上昇が、中国への資金の出入りを膨らませている。双方向の資金フローは1-7月に4兆5000億ドル(約663兆円)と前例のない水準に達した。ただし主役は株式だけではない。

中国の銀行による活発な短期債取引や、外国人投資家による中国国債の買い増しも越境資金移動の拡大に寄与している。
この歴史的な変化により、中国は米国や日本など先進国に一歩近づいた。そうした国々では、投資フローが貿易を少なくとも10対1の割合で上回っている。比較すれば、中国には資本市場をさらに開放する余地が大きいことが浮き彫りになる。
将来は主要な金融センターでより多くの中国企業が存在感を高め、上海上場株が外国の年金基金に組み込まれ、人民元建て債務が世界中で中央銀行の外貨準備により多く含まれる可能性がある。

ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)のアジア担当チーフエコノミスト、夏楽氏(香港在勤)は、「他の主要経済圏でそうなっているように、資本取引のフローがいずれ中国全体のフローを支配するようになるだろう」と述べ、「当局は資本取引の自由化を引き続き段階的に進めていく」との見方を示した。
人民元の国際化
人民元の国際化を目指す中国にとって、市場開放はオフショア人民元の流動性を高め、長期的な通貨戦略を後押しする。資本取引の自由化が進めば、23兆ドルに上る預金を抱える中国の家計にも選択肢が広がる。
「中国は市場開放を続け、資本取引フローを拡大させ、人民元の国際的地位を高め、投資家により多様な機会を提供する」とスタンダードチャータードの大中華圏・北アジア担当チーフエコノミスト、丁爽氏はみている。その上で「当局は無秩序な資本の流出入を避けたいと考えているため、慎重に進めるだろう」と語った。
10年前の経験
中国の証券・直接投資を含む金融収支の資金移動は、7月までの公式統計を基にしたブルームバーグの試算によると、月平均で前年比17%増となっている。このペースが続けば、経常収支に基づく資金移動を年間ベースで初めて上回る見通しだ。
けん引役は、株式・債券といった国内外の証券を売買する越境フローの拡大だ。7月までの月平均は前年比でほぼ4分の1増となっている。

中国は約10年前、突然の人民元切り下げをきっかけに過去最大の資金流出に見舞われ、投資家の信頼を回復させるため中国人民銀行(中銀)が5000億ドル超の外貨準備を費やした。その経験から、為替の安定は当局にとって最優先課題の一つとなってきた。
そのため中国は、本土市場の開放を政策課題として掲げながらも、長年にわたり段階的かつ慎重に進めてきた。当局は過去10年間で、海外投資家による本土債購入の多くの障害を取り除き、本土の投資家が香港上場の株式や債券、資産運用商品を購入できる仕組みも整えた。
ただし、その歩みは常に順調というわけではなかった。2018-20年に米国との最初の貿易戦争に直面した際や、新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めていた時期には、再び自由化のペースを落とした。
ドル離れ
市場開放に向けた機運は今、再び高まりつつある。トランプ政権下での混乱した関税政策や財政悪化を背景に、ドルから距離を置くグローバル投資家の動きを中国は取り込もうとしている。
中国当局はここ数カ月で資本規制を緩和し、香港との決済システムを開始した。一部の本土投資家が海外資産により多く投資できる計画も公表した。
本土の投資家は7月以降、香港株の購入を積極化させている。景気刺激策がデフレ脱却につながり、通商摩擦も和らぐとの思惑から香港株は急伸。上海株への資金流入増も金融収支に基づく資金移動を後押ししている。
開放性と透明性
それでも制約は残っている。海外投資の多くは適格国内機関投資家を対象とした割当制度など、当局が設ける枠組みを通じてしか認められていない。個人は年5万ドルまでしか規制当局の承認なしに外貨を購入できない。
海外勢も中国経済の先行き不透明感や米国を大きく下回る金利水準を理由に、対中投資への慎重姿勢を崩していない。
オックスフォード大学中国センターのリサーチアソシエートで元UBSチーフエコノミストのジョージ・マグナス氏は、「中国の資本市場が強化されるのは、開放性と透明性が確保された場合に限られる」と述べ、「資本規制の撤廃や中国で事業をしている外国企業にとってより好ましい事業環境の整備、通貨管理の抜本改革」が必要だと指摘した。
ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストは、地政学的緊張が高まる中で人民元が世界でより大きな役割を担う余地があるとみている。
閃輝、チェルシー・ソン両氏は最近のリポートで「中国の高まる製造業の力と進行中の地政学的変化は、人民元の国際化に新たな好機をもたらす」と記した上で、「中国当局が求めるコントロールの強化と、外国企業や投資家が求める開放性・透明性・予見可能性とのバランスが依然として課題だ」との分析を示した。
原題:China’s $4.5 Trillion Flows Mark Tipping Point in Market Opening (抜粋)
