高齢化率57%を超える高知県仁淀川町で、ユニークな介護予防が行われていて、高知県内外から注目を集めています。
参加した人がどんどん元気になるというその仕組みとは?
9月4日、仁淀川町大崎地域集会所の1室に約40人の高齢住民が集まり、不思議な運動をしていました。
壇上で住民を励ましているのは、NPO法人フレイルサポート仁淀川の小松仁視さんです。
小松さんは元高知県職員で、中央西福祉保健所に勤務していた4年前、県内外の事例を研究してハツラッツという短期集中型フレイル予防総合プログラムを発案。仁淀川町が取り入れました。
フレイルとは、加齢により心身が衰えていくことです。
■PO法人フレイルサポート仁淀川・小松仁視さん
「山が多いので、やっぱり下半身が弱くなると自宅を離れざるを得なくなるということもあって。仁淀川町は今の70代、60代後半、この人たちが最大の人口のボリュームゾーンなので、この方たちが元気な今やらないともう二度とチャンスはないということで」
ハツラッツのプログラムでは週2回下肢の筋肉をつける運動やストレッチなど、さまざまなメニューを行います。
トレーナーを務めるのは、小松さんや県作業療法士会所属の作業療法士など3人です。
■小松さん
「この人たちはもう全然ひざの裏が伸びないなとか、この人たちは腕が上へあがらないとか、いろいろあるんですね。それとか今回はやたら口の筋肉が弱ってて、食べてても落とすしっていうそういう人たちもいるので、決められた時間の中で楽しくやるためにということで、いろいろとアレンジ」
この日も上体ねじり運動で参加者が後ろを向いた瞬間、衝撃のショーがスタートしました。
歌手に扮した、作業療法士の姿を見ようと皆が体をねじります。
■小松さん
「ねじるっていうのをちょっと意識してやってるんですけど、なかなかやっぱりねじりづらい。だから1ミリでもねじってほしくて、作業療法士さんに何かちょっと一芸そこでやってというのを、時々無茶ぶりしてたらそれが定着してしまって、みなさんがすごい喜ぶし」
このハツラッツというフレイル予防プログラムは、いま県内外から注目されていて、この日も芸西村の職員が体験に訪れていました。
芸西村は今の介護保険料の基準額が県内一高いという課題があるそうです。
■芸西村職員
「介護予防にこれから力を入れていかなければならないという課題が見えてきた。歳をとってもあきらめないでがんばれば、フレイル予防これからどんどん伸びてやっていけるんだということを目の当たりにして感動している」
介護予防につながるハツラッツのすごさは、楽しく効果的に運動ができ筋肉が鍛えられるというだけではないんです。
実は住民主体で行うという東京大学発のメソッド(フレイルサポーター)を取り入れている点が最も優れた特徴です。
和室でのメニューが終わると隣の教室に移動し、下肢3点セットと呼ばれる運動に入ります。ここで指導しているのは、作業療法士だけでなくフレイルサポーターと呼ばれる住民です。
実は参加者は3か月のトレーニングを始めたばかりの新規の人と研修を経てサポーターとなった人がいて、サポーターが新規の人に参加を呼びかけ、運動を指導したり励ましたりしています。
■参加者1人目・サポーター
「楽しみですよ。みんなと笑いもってこうやって話し合える。本当にやってて自分が元気になりゆうのね。それに気が付いた。私らひとのためにやっちゃりよったが、自分のためやったんや」
■参加者2人目・新人
「皆さんにおすすめしていただいてやりはじめてから、足とかいろいろ、尿漏れとか改善して」
■参加者3人目・サポーター
「人に会うから幸せやと思う。あんまりほら、山やき人に会うことない。ここに来たらいっぱい人に会える」
2021年の開始からこれまでに仁淀川町のフレイルサポーターは263人となり、毎年50人以上、新規の人が増えています。
■小松さん
「二百何十人が地域の他の高齢者のことを結構アンテナ高く見てくれていて、それで年4、5回サポーターの養成研修してるんですけど、もう自分たちで声をかけて誘ってきてくれるので。だからもうサポーターの自己増殖と言ってるんですけど、自己増殖に入ってて」
今のサポーターの最高齢は97歳。90代後半でも元気いっぱいです。
■97歳男性
「歩いてもね、歳がいきますとね、歩幅も少なくなったかと思って歩いていたが、ここへきたらそういうことを考える必要なし、無意識に歩幅も広くなって、四歳五歳手前へ返ってきたような感じですね」
■96歳男性
「ハツラッツに参加してから3年になるの。4年前から3年前くらいの間は両ひざが痛くてどうしようもなかったけど、ここへき出してからは痛いところないんよ」
心身が衰えないようにするフレイル予防の3要素は「栄養・運動・社会参加」とされ、ハツラッツでは工夫をこらした運動、そしてサポーターとしての社会参加に加え皆で食事をする共食の時間を設けています。
■小松さん
「皆さん足の裏を床にしっかりつけて、おへそをたてて、少し足を後ろにひいて食べてください」
席は自由で、こちらは池川地区のご近所さん同士が集まっていました。
■参加者
「みんなと一緒に食べたらうまい。一人で食べるより、べっぴんさんと一緒に食べるからご飯がうまい。楽しいね」
高齢者の1人暮らしでは孤食が多くなりますが、週に2回の楽しいひと時です。
高齢者が元気になるハツラッツのプログラムを県内外に広げて、高齢社会の発展と向上に役立ててもらおうと小松さんたちは8月、日本ハツラッツ学会を発足させました。
理事長や理事はもちろん仁淀川町の住民であるフレイルサポーターが務めます。
学会ではフレイル予防に詳しい東京大学の研究員や県内各地でフレイル予防に取り組む作業療法士など専門職が栄養・運動・社会参加というフレイル予防の取り組みで高齢者がいかに体力を維持できているか研究成果を示しました。
学会にはフレイルサポーターの仕組みを提唱した、東京大学の飯島教授も参加していました。
■東京大学・飯島教授
「やっぱりみんなで同じ価値観になって同じ方向性を向いてこの老いの坂道をみんなで前向きな気持ちでゆっくり下がっていこうじゃないかという所。ゆっくりゆっくりですけどこうやってデータが良くなっていくってことでね、本当にまさに住民主体の原点を僕見ているような気がするんです」
学会はこれから毎年仁淀川町で開くということで、「ハツラッツ」は県内外へとますます広がりそうです。
高齢者たちが自ら参加し、仲間を増やして、どんどん元気になっているハツラッツ。
ハツラッツを発案した小松さんは こんな夢を持っていました。
■小松さん
「仁淀川町じゃなくても、例えば高知市でも高齢者の方が長生きをしたいって、当たり前に誰にも気を遣わずに言えて、みんながそれを喜び会えるっていう社会に一日でも早くなれるといいなと思います」
